make pasta,not war~世界を愛しい目線で見られるようになるアニメ
世界史翻案アニメ
元々がWEBに掲載されていた漫画であり、5分アニメであるという特性から、様々な寸劇が細切れに立ち現れるという形式で繰り広げられるアニメです。
第一期であるAxisPowersでは、そのサブタイトル通り「枢軸」の3か国(イタリア、ドイツ、日本)が軸となり話が進んでいきます。
「枢軸」と対立する「連合国」(アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア)を含めた8か国のキャラクターがメインです。
これは第二次世界大戦時の対立陣営そのままです。ヘタリアのすごいところは、世界史という範囲が広すぎ、かつ複雑で理解しづらいジャンルの学問を、若い男性という擬人化されたキャラクターで、国民性や歴史にまつわる小話(驚くことにほとんど実話であったりします)を交えて楽しく描くことで、とてもわかりやすく楽しく学べてしまうという点です。
戦争時、実際に敵国に対し「呪い」をかけていた国があったという秘話から、ロシア兵の少しおバカで無謀すぎる逸話、ドイツのスパイがとある理由でフランスで正体がばれた話、何よりタイトルの由来となったイタリア軍のヘタレぶりなどなど、全く知らなかった歴史の細かな部分を知るにつけ、キャラクターである実際の「国」が愛おしく思えてきます。無機質なカタカナでしかなかった各国の印象がキャラクターを通じて親しみの湧く人間の姿に近づいていくのです。
「ちびたりあ」では、イタリアの子供時代が描かれます。神聖ローマ帝国をオーストリアがまとめていた時代で、イタリアはオーストリアの「家」(国のこと)で下働きをしています。神聖ローマ帝国がイタリアを追いかけ回すさま(イタリア政策)が微笑ましいです。またイタリアと神聖ローマ帝国の別れでは、その後の神聖ローマ帝国の運命(いずれ滅びる)を考えるとかなり胸に来るものがあります。名前しか知らなかった「神聖ローマ帝国」をこのような形で理解することになるとは思いませんでした。
また、神聖ローマ帝国とドイツの風貌がとても似ていることから「生まれ変わり説」や「実は同一人物説」があるのも面白いです。どちらにしても、ちびたりあの初恋相手である神聖ローマ帝国が、今ではドイツとしてイタリアのよき友達となっていると考えるととても感慨深いものがあります。
国民性ジョークの中に含まれる歴史的悲哀
日本の趣味が「空気を読んで発言を慎むこと」であり、ドイツは全てにおいて生真面目かつ融通が利かない面もあり、イタリアはいかにして楽しむかに全力を注ぐなど、国民性をぎゅっと凝縮させていろんな方面に振り切ったキャラクター達はとても魅力的です。
フランスは機能性よりおしゃれを取った軍服をまとい、ロシアは幼い表情の下で恐ろしいことを考えているし、中国はどこでも中華街を作り、イギリスはかつての弟であるアメリカに毒づき、アメリカはとにかく目立ちたがる。
このわかりやすいキャラクターを使った「昔話」のエピソードはとても印象的です。
それが中国と日本の昔話、「アメリカの倉庫掃除」に見えるイギリスとアメリカの昔話です。
各国がどのように大人になっていったか(成長・発展していったか)、それまでに他国とどのような関係を結んでいたのかを垣間見ることができます。時間の経過がとても早いので、短くても壮大なドラマを見ている気持ちにさせられます。
中国と日本が同じ月を見上げ、「うさぎが薬混ぜてるあるよ」「あれは餅ついてるんですよ」というシーンは特別感慨深いです。日本はそれまで、中国の弟分(日本自体はそれを認めていませんが)として中国から漢字を含むさまざまな文化を吸収して成長してきました。その二国が、来たる近代を前に「これからどうするか」を語るシーンの後に来るのが上記の月のシーンです。のほほんとしている中国に対し、日本は西欧列強に対する強い力が欲しいと語ります。共に歩んできた二国の方向性の違い、また今やはっきり違う国となってしまった事実が、「薬を混ぜている」「餅をついている」という月への見方によりはっきりと示唆されます。
「アメリカの倉庫掃除」では、どんどん成長していくアメリカを前に、イギリスがどれだけアメリカのことを気にかけかわいがっていたかが描かれます。アメリカがイギリスに対して独立を宣言する独立戦争で、イギリスはアメリカを攻撃できずに泣き崩れます。もちろん実際の戦争の経過でこんなことはなかったでしょうが、その苦い過去を捨て去らず(倉庫を掃除せず)抱えたまま現代を生きていくアメリカとイギリスの関係を思うと、どんな過去も忘れずに、ただ過去は過去として、現在のよりよい関係を築いている各国の姿が愛おしく思えてきます。
これ以上ないほどぴったりな声優陣の魅力
メインキャラクター8人の声優がとても合っているというのもヘタリアの魅力の一つでしょう。フランスの小野坂昌也さんの色っぽさとちゃらんぽらん加減、イギリスの杉山紀彰さんのツンデレや元ヤンぶり、その二人の喧嘩のノリノリっぷりは一聴に値します。
ロシアの高戸靖広さんの含みのあるかわいさ、ドイツの安元洋貴さんの厳しいながらも優しさを湛えた低音ボイス、イタリアとロマーノ役の浪川大輔さんの演じ分けっぷりはもちろん、日本の高橋広樹さんのしっとりとした穏やかな声、アメリカの小西克幸さんの彼にしか出せないハイテンションボイスと笑い声も素晴らしいです。
そして実際に中国語を話せる中国役の甲斐田ゆきさんの本格的な中国語や中国人っぽい日本語のうまさは格別です。
彼らの力があってこそのアニメ「ヘタリア」です。
世界中の人がこのアニメを見ることで、争いが少しでも減ったらいいな、と大げさながらも思わずにはいられない、魅力あるアニメです。
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