ロード初心者の教本のようなマンガ - のりりんの感想

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のりりん

5.005.00
画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
5.00
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ロード初心者の教本のようなマンガ

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
5.0

目次

大人の趣味としてのロード

本作の最大の特徴はやはり、「大人のためのロード」 という事に尽きるだろう。登場人物がレースで活躍するわけではなく、ただの社会人が主人公と言うところが特徴である。また、主人公はそもそも 「車」 が趣味の人であり、さらには 「自転車乗り」 に対してドライバーとしての反感を持つ、どこにでもいそうな普通の28歳男性である。このアンチ自転車というくらいの主人公が徐々に自転車にハマっていく姿が本作の見どころである。

では、他の自転車マンガとどう違うのか?本作には、「男は30過ぎたらロード」 というような言葉も出て来ており、この言葉は作品を定義づける言葉である。つまり、「ある程度収入があり」 「地に足をつけて考えられるような年齢であり」 「体もまだまだ元気」 という人、つまりどちらかと言うとミドルエイジをターゲットにしていると考えて良いだろう。

ここで他の作品を思い返していただければと思う。ロードバイクを題材としたマンガはいくつもあるが、例えば 「弱虫ペダル」 「ろんぐらいだぁず」 「南鎌倉高校女子自転車部」 「オーバードライブ」 「シャカリキ」 などの主人公は、みんな高校生~大学生くらいの年齢である。多少アプローチは違えど 「若者」 向けのスポーツマンガであるという印象は強い。若者が若者らしく一生懸命にスポーツする!という趣旨のものが多数を締めていると思う。つまり、これらのマンガのメインは 【自転車に乗る事を主軸としたストーリー】 と言える。しかし本作は、【自転車という趣味とはなんぞ】 とか 【ロードあるある体験談】 を綴ったような物語構成となっている。

例えば・・・

・ロードの魅力に気付かされたエピソード

・車体購入時に迷いまくったあれこれ

・実際にサイクリングしてみて気づいたこと

・道路交通法やロード乗りのモラルはどうなっているのか

・他の人がつけているパーツ(ビンディングペダル等)が気になってきた

と言うような、買う前の楽しみ、買った後の楽しみが描かれることが多い。

実はこのあたりが、自転車乗り同士で一番盛り上がる話題だったりするのだが、殆どの自転車マンガではこれが省略されている。自転車乗りが一番楽しそうに話す話題が、他のマンガではすっ飛ばされているのだ。それも致し方のないことで、例えば 「ろんぐらいだぁず」 も 「ロード購入」 のエピソードから描かれているが、購入できる価格帯の自転車に一目惚れし、即決購入するというエピソードで終わっている。主人公がバイトしてお金を貯めてロードを買うというエピソードも添えられてはいるが、これを社会人とするだけで経済力の問題が解決でき、車種選びなどの楽しみを描けているのである。少年少女を主人公とする場合は、まずマンガ的にもロードに乗ってもらわないと話が進まないという事があるのだが、本当は「悩む」楽しみもあるのだ。こういった点でも、本作は他作に比べて、「大人向け」 であるといえるのではないだろうか。

650Cというバイク

本作で語られたことは、自転車長寿マンガ 「アオバ」 が長い年月をかけて語ってきたことを、ぎゅっと濃縮した感じではある。また自転車エッセイマンガ 「じこまん」 にも同種の楽しませ方が描かれていると思われる。しかし本作が二番煎じという意味ではなく、時代に添った感覚で、違う表現で描いていると取るほうが自然であろう。

しかし本作にしか無いエピソードもあり、それが自転車のサイズについての問題点を取り上げたことだ。スポーツマンガには、小柄な少年がハンデを乗り越えて活躍するという話もある。しかし実際問題、思った以上に平均外の規格には苦労することは多いそうだ。つまり 「道具」 の問題である。例えば靴一つとっても成人男性向けの靴は25cm以上がメインで、それ以下のサイズはデザインが限られてくると言う。一般市場で多く生産されている 「靴」 ですら問題があるのだから、生産数の少ないロードバイクは言わずもがなである。女性や小柄な男性の場合、ロードに乗りたくてもピッタリ合うサイズがない。というふざけた現状にメスを入れたことは、本作の偉業の一つではなかろうか。

「やったら、すごく楽しいものだからやってごらんよ!」 というマンガが多い中、「でも小柄な人はサイズ無いから参加できないよ」 という現実があるのだ。本作にも実際に描かれたエピソードとして、「自転車屋さんは必ず体にあった自転車に乗るのが一番というが、背の引く人には、サイズがないので我慢してこれに乗って下さいと言わざるを得ない。ふざけた話だ」 という事実が描かれている。ここについては、作者からの小柄なロード乗りへの良心とエールが送られ、そして深い知識と理解をもって業界にもささやかに訴えかけている、そういったものではないかと思う。

交通安全について

本作を読んで自転車の乗り方を考えるようになった読者は多いであろう。と、いうほど日本社会は自転車に対してのルールやマナーに無頓着な状態である。実際に調べると分かることではあるが、本当にルールがむちゃくちゃで、一貫性がなく、またそれについての教育者がいないという問題が浮き彫りになってくる。これについては自転車に乗る人、車に乗る人、歩行者らの間で物議を醸すテーマになっており、インターネットの掲示板などを熱くさせているわけだが、本作は、「大人の対応」 といった体で結論付けられている点が特徴的である。これについては非常に参考になり、「取り敢えず車道を走るなら原付きルールで間違いない」 と簡単にまとめられている。これはこれで原付免許を持っている事が前提ではあるのだが、原付きの試験など一日勉強すればパスしてしまうほどのものしか無い。テキストを見て自分の常識で解答を埋め、実は違ったというところを覚えればいいだけなのでそれほど難しいことではないと補足しておく。この交通ルールやモラルについては、他のマンガではなかなか話題に上がらないが、自転車保険の義務化などで社会的にも自転車のルールやモラルに注目されてきたこの時期に、これに触れたことは素晴らしい!の一言ではないだろうか。

自転車社会について

本作のもう1つの話題として、「もしも車がなくなったら?」 という仮定の話をしているところが実に興味深い。社会において、特に日本のような国において自動車は絶対に必要ではなくなってきている。エコブームも手伝って、「そういうことを考えてもいい時期になっている」 と言うのは正論である。もちろん作中では、「自動車は基幹産業だ」とか「田舎の人や高齢者はどうするのか?」とか、いろんな反論は出るが、それらは解決する方法があるだろうし、そこで思考停止してはいけないと言っているのだ。あくまでも作中での雑談といった語られ方ではあったが、これは読者に新たなテーマを投げかけているのではないかと思われる。

作者とアニメと今後の自転車マンガの行く末

作者は、「僕らの」「なるたる」を手掛けた鬼頭莫宏氏である。6巻の帯に森恒二氏(マンガ家)のコメントが寄せられているが、「鬼頭作品はどんな残酷な場所にもどんな楽園にも必ず連れて行ってくれる」とあった。正にそのとおりであるなと感じる。「僕らの」「なるたる」はアニメ化もしているが、本作もアニメ化してもらえないものかと切実に懇願する。これは自転車ファンであり鬼頭ファンである、個人的な願いではあるが、希望はともかく客観的に考察してみたい。

マンガ原作のアニメ化にはいくつかの要因が必要となる。それはマンガ自体の人気と時流に乗った作品であるかを製作側が判断すること……つまりはマーチャンダイジングになるわけであるが、本作の売れ筋(人気)と、自転車社会についての人々の興味。これが物を言う。しかしながら、正直な所、Goサインは人気だけで決まる現状もある。少なくとも製作側は「売れそう」「買ってくれそうな客層」にしか目を向けていないという悲しい現実もある。

2017年現在。弱虫ペダルの大ヒットから、ろんぐらいだぁず、南鎌倉高校女子自転車部と、自転車アニメが間を置かずに放送されている。弱虫ペダル人気に続け!と作られたアニメで間違いないだろうが、この二つには正直弱虫ペダルほどの反響がない印象だ。弱虫ペダルの勝因は、ガチガチの少年スポーツマンガであったことに加え、なぜか男性キャラクターに魅せられた女性ファンの後追いもあったためである。勿論、もともと自転車が好きでロードに乗っている人でも見ている人はいるだろうが、仲間内での評判は今ひとつという反応である。少なくともDVDBlu-rayを購入するところまでのファンにはならなかったというのが一部ではあるが、リアルな意見だった。以上のことから自転車ファンと、アニメファンは、似ているようであまり交わっていない事がわかる。アニメ制作社も自転車ファンに向けた作品というよりはアニメファンへ向けた作品を作るほうが、ある程度数字が見えて戦いやすいということもあるだろう。そういった思惑から、萌えというか、いわゆる華やかなキャラクターが出ていない、アオバ・かもめ☆チャンス・そして本作「のりりん」のアニメ化は、自転車ファンが望んでいても製作サイドが二の足を踏むだろうことが予想できる。「のりりん」アニメ化はそういった意味では難しいといえる。

ちなみに余談となるが、アニメ「製作」と「制作」は別物であり、制作は実際のアニメスタジオなどを指す。いわゆる実際に絵を作っている側の事である。この制作側には、実は自転車乗りが多い。有名なスタジオジブリ主催の「ツールド・信州」(現在はジロ・デ・信州に改名)というロングツーリングなどがあり、アニメ業界で働く、アニメーターだけではなく、撮影・CGI系のテクニシャン、そして明らかに徹夜明けでライフが0の制作進行までもが参加するイベントまである。本作の作者はマンガ家であるが、マンガ業界にもロード乗りは多く、数えればキリがないほどの著名人が趣味としてロードに載っているのだ。ニッチな商売に受けが良い趣味が自転車なのである。

そういった意味でも、今後、ロードを始めとした自転車のメディア化には期待ができる。人の目に多く触れるようになり、スポーツバイクを乗る人が増えていけば、いつの日か、本作「のりりん」のように自転車におけるルールやモラル、または自転車整備の話に至るような、深~い自転車アニメが見られる日が来るかもしれない。そう期待するものである。

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