毎日は当たり前ではないことの積み重ねと知る
オムニバス形式で同じ時を追う
ひろの(18歳)は大学1年生。実家から大学へ通う彼女は、少し引っ込み思案で人と関わることを避けるところがあるが、とても根が優しい女性である。そんな彼女の家族はちとうるさい。兄の顕(社会人)、妹のほのか、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、飼い犬のコマル、そして飼い猫のポセイドン。当たり前のように怒ったり、笑ったり、泣いたり。それが繰り返されていく日常の中で、誰かの命や、これからの未来を、家族一人一人が考え始めた。そんな時期を描いてくれているのがこの物語ですね。主に顕、ひろの、
ほのかに関係するものになっていますが、それらが家族を通して密接に関わり、動いていくのだなーと考えさせてくれる、そんなお話に仕上がっていると思います。
物語の始まりはひろの視点。深町という同級生に言い寄られるところから始まって、人とあまり関わろうとしてこなかったひろのの世界が少しずつ広がり始めます。本当にいい話ばかり…
次女ほのか。ほのかはまだ高校2年生の16歳。彼氏は男子校の高校1年生で年下ですが、盛んなお年頃で会うたびそれが目的かと思われるほどの男。いやーこいつとは別れることになるんだろうって思ってました。それが…独占欲のためだったとは恐れ入った…!かわいすぎて見せたくないって…うん、よく考えたら、16歳なんてもう目の前のことでいっぱいいっぱいだ。なにも考えてるわけないよねって安心したわ。
そして長男の顕。なんだかんだこの人が物語のキーになっていると思うんですよね。発端は顕がアパートに幽霊がいる!と言って実家に戻ってきたところにあるのだし。本当に意味で、家族のこと、自分の事、自分が関心を持とうともしなかった誰かのこと…そのすべてに目を向けて、人生を選んでいく。すべては顕につながっていたように感じられます。
家族みんなが主人公
もちろん、他の家族メンツも最高だなーって思いました。というか、うまく世代の違いが表現されていると思うんですよね。
おじいちゃん、おばあちゃん、フォルムだけでも好きだったよ…!年老いても、ケンカしても、手をつないでコンビニに行くってあんたらどんだけかわいいの!!って思う。ただの転倒予防のためじゃない…よね?ケンカするほど仲が良いっていう言葉がよりストレートに考えられていた時代をみせてくれていると思います。
そしてその次の世代であるお父さんとお母さん。お父さんが昔は洋食屋をやりたいと思っていた・だけどそれを諦めて、家族のために町工場で働くことを選び、続けている…という「お父さん」という形がまさに世代だな~…って思いました。そしてさらに、そっと支えてるお母さん…この21世紀入りたてのこの時期における、日本のお父さん・お母さんってそういうイメージなんですよね。年齢がばれてしまいそうだけど、ちょうどストライクというか。うまく世代間の違いを出しているなーと感心してしまいました。なんか一番じーんとしちゃったのは、お母さんがガーデニングのこととか洋食屋の夢をウキウキと語り出したシーン。あーそうだよね、お母さんってそういう人だよねって共感しまくって、自分のお母さんに優しくしてあげたくなりました。単純なお涙ちょうだいシーンよりもずっと深く染み渡ったね。直接言わない、ただその場面を見せるだけで伝わってくるものがたくさんある。いくえみ綾先生っぽい特徴だなーと思います。
タイトルが深いと思う
タイトルがね、深い感じがするよね。「かの人」っていうのは、三人称で「あの人」っていう意味もあるけれど、自分から見た恋人の事をさすときにも使える言葉。尊敬語というわけでもなくて、割と近しいような相手に使う言葉でありつつ、遠くにいる人のことを言う時にも使える。つまり、家族をさす言葉であり、最も近くに感じられる人でありながら遠くにいるようにも感じる人…そんな意味が込められているのだろうなと思うわけです。
そして、月ですね。みんな何かにモヤモヤしたとき、何かが起こるとき、月がそこにあります。月は確かにそこにあってつかず離れず地球のそばを回ってる。そして昼間は見えなくて、夜に輝くもの。とても綺麗だけれど、傷ついてもいる。それでもやっぱりそばにある…「月」がどういうものかを考えると、それがちょうど自分にとっての大切な人を指しているような気がしてきます。…じーんとするんだよね。
物語の中でも、みんな1回は月を見上げてると思うんですけど…どうですかね?それぞれに考えることは違うのに、全部つながっている気がする。誰かが必ず見守ってくれている気がする。それが家族なんだなーと教えてくれていますね。夜って家族団らんの時間でもあるじゃないですか。「月」と「家族」を絡めて考えていくと、考えようによってはいくらでも世界が広がるな~って思います。よく他の作品ではあると思うんですけど、「太陽」と「月」が対照的に扱われて、太陽のように光り輝いているか、一方の月は太陽がなければ輝くことができない…みたいに暗い方のイメージが使われるじゃないですか。個人的にすっかり月のイメージがすごく良くなっちゃいました。
深町ラブ
深町が最初から最後までラブです。本当にかっこかわいいとはこいつの事だと思いました。何より「家族」としてフルに覚醒されていた人物だったと思います。ひろのに惚れたときのエピソードなんかも、小話程度だったけどかわいかった。もう好きになっちゃってた…というその顔!もちろん、ひろののことをちゃんと見てくれていて、入り込んできてくれるそのキャラクターもいいし、気も遣えて、照れたり笑ったりが正直で、多少強引なところもあって…全然悪いところが見当たらない。ラブすぎる。
ほのかが一瞬誘ったときの返答も見事で、あーひろの愛されてんな~好きだな~…って思いました。いつの間にか、深町がひろのと家族になるのは当たり前ってひろのが考えてくれてて、もう…深町の気持ち考えたら胸がずきゅーーんとしました。この2人大好きだ!
家族がどんどんアプデされていく
家族といっても、それぞれに人生があるわけで、歩んでいる道も感じ方も全然違うんですよね。だけどみんながつながってて、何か悲しいことがあってもそこに必ずいてくれる。そして少なからず後押しになってくれる。そういうものだなーと再確認しました。そしてその家族は、新たな仲間を加えながら、どんどんアップデートされていくんですよね。新しい何かが加わってきて変わることもあるけれど、広がって更新されてもっと良くなることだってあるし、自然と受け継がれて全然変わらないものもある。何かが起きても揺るがない、そんなひろのたち家族が素敵だったし、こういう家族でありたいなと思わせてくれます。
顕はまたちょっと違った成長を遂げたなーと思います。家族というものから一番遠かったと言えるこの長男。呪いだなんだと勝手に苦しんで、死んでしまった同僚の事を素直に・普通に受け止めて悲しんでもやれなかったこと、自分があまりにも自分のことだけを考えて生きているということ…一人でいると、見えなくなるね。アパートから帰ってきて、実家で暮らして、いろいろなことに気づけてよかったねって思いましたよ。
3巻だけのお話ですけど、家族模様とそれぞれの若人たちの成長が嬉しいお話でした。たまにはほんわかと、かるーくのもいいね。
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