映画“デジャヴ”は好みが分かれる名作?
タイムトラベルを描いた“現代的な”SF・サスペンス大作
フェリーの船上で爆破事故が発生。後にテロとして捜査が進められることになるが、主人公のATF捜査官はそのテロの捜査過程で『スノーホワイト』という監視システムと関りを持つことになる。実はこの監視システムこそが現在から過去(きっかり四日と六時間前)を覗き見る装置であり、主人公の立てる「過去を見ることができるのなら、事故を未然に防ぐこともできるのでは」という仮定により話が大きく動くことになる。
タイムトラベルにまつわる映画はこの映画以外にも多くありその手段、過程も多種多様ではある。が、本作におけるその説明には突飛な部分も比較的少なく、割合『現代的』な角度で描かれている。
主演俳優はデンゼル・ワシントン、監督はトニー・スコット
デンゼルの出演する大概の映画において彼自身、得てして組織における優秀な人材を演じる印象が強いものだが今作にてもその傾向は当てはまる。デンゼル演じるダグ・カーリンはATFの捜査官(日本語吹き替えの西友は大塚明夫が担当)。誠実で、聡明。正義感は強く、人間としての誇りや思いやりも忘れていない、言わば主人公らしい主人公である。監督はトニー・スコットで、二人はこの映画にて『サブウェイ123 激突』以来の共演を果たした。
作品の評価については賛否両論?
この映画に対する世論として、賛否両論あると言われている。というのも前述した通り、この作品はタイムトラベル(あるいはダグが初めてのタイムトラベラーになる以前までの時空間を通じた監視)について論じていながらもその説明については飛躍している部分が少ない。登場人物たちによって客観的、理路整然に説明され、時空間をまたぐタネについて明かされてゆくのだが、その割にはタイムパラドクスに関して言及しきれていない部分(多元宇宙論、ダグが二人いた時間軸が存在?)も多く、脚本の不十分について否定的な意見もある。
しかしながらこの映画のカテゴライズされるところはあくまでサイエンスフィクション(SF)でもあり、ストーリーの進行上に大きな支障のある矛盾でさえなければそれ以上の追求は野暮である、という意見もある。確かに、この映画における撮影技術の完成度の高さ、キャストたちによる名優ぶりに着目すれば多少の脚本の矛盾点など気にならないかもしれない。
作中に隠れたおしゃれな表現たち
世間の評価自体はそれほど芳しいものと言えない本作ではあるが、実は名シーンと呼べるような部分はこの映画において多くある。海外映画ではあまり見ることのできないようなシーン、かなり繊細な部分での表現の美しさ、痛快さを随所にて感じることができる。
例えば、ダグがクレアにて自らの留守電に驚くシーンのカメラワーク。敢えてハンディのものを用いること(固定カメラではなく)で画面全体に揺れが生じ、役の動揺の生々しさが演出されている。この映画に関して言えばその手法は他のシーンにおいても多く用いられているが、登場人物それぞれの思惑や私怨が頻繁に交差する本作に深みを出すにはまさにうってつけの撮り方である。
ほかにも、ダグがタイムトラベルをする旨をデニー博士に電話にて打ち明け、ヴァル・キルマー演じるポール・プライズワーラがその電話について詰問するシーン。立場上、プライズワーラは彼らの企てを止めなければいけないはずではあったが、「電気を消しておけ」とだけ言い残して職場を去ってしまう。本作にてタイムトラベルの際には膨大な電力を費やすため、その一度の試みによっても周辺一帯が停電に陥ることが予想されていた(作中はあくまで主人公のダグ目線で描かれており、実際に停電になったのかどうか、あるいはその時間軸自体が存在し続けたのかどうかすら明らかにはならなかった)。停電と職場の電気をかけたその台詞には、さりげない重みがあったのだ。
明確に好みが分かれる作品
酷評、とまではいなくても否定的な意見が多いこの作品。その一方で強く支持する声も少なくない。結局のところ、その明暗を分けているのは個人の価値観であり、好みによって意見がぱっくり分かれるのは致し方ないことだと思われる。『時間軸の問題(説明の不十分さ)が、それが仮に微細なものであっても気になる』、『色々詰め込み過ぎ(サスペンスとSF、爆破テロ事件の捜査とタイムトラベル)な割に展開が速い』という否定的な意見もあれば『タイムパラドックスの説明に説得力がある』、『俳優たちの演技が素晴らしい』などといった肯定的な意見も見られるからだ。
個人的には、タイムトラベルの構造を主眼に置いて意見するのかそうでないかによっても意見は分かれると思うし、映画館で一度見るだけの場合とDVDで何度も繰り返し見る場合とでも大きく意見が対立するように思う。確かに展開の変遷が速い作品であり、時間軸間の矛盾についても言及されない箇所はある。が、何度も見返しているうちに気付く。タイムパラドックスについても整合性が取れていないのではなくて、不確かな部分についての発言を登場人物たちが避けているだけなのだ、と。ある種、見れば見るほどに深みのある作品とも言える。いずれにしてもタイムトラベルもの、深く論理的に物事を考えることが好きな方にはたまらない一作である。
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