1日延命する代わりに、何か一つのものを世界から消し去るとしたら
あなたがもし延命のために消すとしたら何を消しますか?
本書の中では「電話」「映画」「時間」を悪魔との取引きで消し去ります。
最後に「猫」を消すのだけは拒否しました。
実際に同じことが身に降りかかるとどうなるのか考察してみましょう。
「電話」が消えたなら
現在、スマートフォンをはじめ電話は生活に欠かせない必需品になっています。
本書の中でも連絡が取りあえず待ち合わせがうまくいかない場面も出てきます。
しかし、この「電話」が消えるという現象。どこまでのものが消えるという設定になっているのでしょうか。
大学時代を思い出しての電話の話や待ち合わせの話、電話というか通話としての機能に対してしか描かれていないように感じます。
たとえばタブレットは?パソコンは?メール機能のあるものはどうなのでしょう。
現在、「電話」を「電話」として使っている人は少ないように思います。
メールやLINE、インターネットにYouTubeやゲームなどのアプリ。通話を嫌がる傾向にもあります。
もちろん人それぞれではありますが、通話以外の機能に重きがいっている分、通話としての「電話」には思い入れは少ない人が多いのではないでしょうか。
本書の中では前の彼女との思い入れのある連絡手段として失うことのつらさを描いていますが、2012年に発刊された本の割には時代に逆行しているように感じてしまいます。
「映画」が消えたなら
これは本当に人によります。
本書の中では前の彼女との共通の趣味であったり、幼い頃の親との思い出として「映画」が取り上げられていますが、映画に関わる仕事であったり、観賞が趣味でなければ、消えて困るという人は少ないように思います。
1ヶ月に1本映画を観に行くという人は実際そんなに多くはないと思います。
もちろんDVDレンタルを含むと変わりますが、比べるとしたらアニメや漫画の方が無くなっては困る!という人の多い時代です。
デートに「映画」を選ぶ時代でもないように感じます。
「時間」が消えたなら
これは無くなっては困ります。
学校に行っても、仕事に行っても何時に始まって、何時に終わればいいのか感覚でしか掴めません。
ましてや起きる時間も寝る時間もタイミングを計ることができません。
本書のようにすでに仕事を休むことになっていれば違いますが、現在の生活を維持していくためには時間という概念はなくてはならないものだと考えます。
人間は生きていくために区切りを生み出しました。
1年や1ヶ月はもちろん太陽が昇って、堕ちていくまでの間を1日として、1日を24時間に、24時間を60分に、分を秒に、、
というように学校でも教わるくらいの重要な事項になっています。
なぜ時間はこんなにも大事なのでしょうか。
仕事や学校の体系はそれぞれ違い、生活リズムも各々違います。
日勤の人もいれば夜勤の人もいます。なので、身体としてはそれほど関係がないように感じます。
しかし、精神的に「時間」と言う概念は支柱としての役割を担ってはいないでしょうか。
何時まで勉強頑張ろう、とか、何日までに仕事を終わらせないと、とか。
他には嫌なことが続いた月があるとします。しかし、月が替わることで気持ちも切り替わることもあるかと思います。
良い例は厄年なんかはそうではないでしょうか。
前厄、本厄、後厄の3年間を抜けることで確実に気持ちは変わります。これも年という時間の単位があるおかげです。
もし無かったとしたら、ただただの悪い連鎖が続いて、明日からは!とか来年からは!と負の連鎖を抜け出すきっかけを掴むのが難しくなってしまいます。
本書では時計はもちろん「時間」が無くなっているので、これからも生きていくという観点でその出来事を捉えると非常に困る現象になってしまうわけです。
「猫」が消えたなら
これは「猫」を消すとは言っていますが、本書の中での意味合いは「家族」が消えるという意味で使用されているように感じます。
「家族」が消え去ってしまうのは寂しいと思います。
孤独を愛すると言う人ももちろんいますが、孤独ほどつらいことはないと思います。
しかも、本書の中では唯一側にいて受け入れてくれる存在が「猫」のキャベツなわけです。
つらいことも苦しいことも心を許してさらけだせる、そして、分け合っていける存在が家族ではないでしょうか。
そんな家族を失うくらいなら自分の命を永らえさせることはないという僕の気持ちは良く分かります。
さいごに
正直なところ時代背景が掴みづらく、共感しずらい物事を消し去るものに選んでいる点では辛い評価になってしまいます。
しかし、読みやすさや情景のイメージのしやすさは優れているように感じました。
映画のプロデューサーというだけあってわかりやすく内容を伝えることには長けているのではないでしょうか。
消えてなくなってしまうと困るものは人によって確実に異なります。
違うものでもいいからもう少し読者の思い出や思い入れに擦りあわせやすいものを選んでもらえるとさらにグッと感情移入しやすいのではないかと思いました。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)