信長が時代をいつでも先駆けていた理由はこういうことなのかもね
あっさりタイムスリップしてしまう
学校の授業をまったく聞かず、遊んでばかりの平成のゆとり・サブロー(平成のゆとり、というのはイメージです…注意する先生も優しすぎる)。普通の学校の帰り道、サブローは友達と歩いていたが、塀から落ちて消えてしまう。気づいた時にはすでに室町時代。これからまさに戦乱の世となるという時期の織田信長の目の前にサブローは落下します。
このタイムスリップ、あまりにあっさり起こるので驚きました。なんかこうタイムスリップに因果があるとかじゃないですか。前世と関連があるなど。どうやらそういうのは一切関係なく、たまたまタイムスリップしたようです。サブローのほかにも、実は道山さんも元警察官で30年も過去で暮らしてたとか、のちに有名なスポーツプレイヤーもタイムスリップして戦国時代を生きていくとか…いったいどうなっているのかについては深く考えずに、とりあえず歴史通りに事が進むのか、はたまた何かどんでん返しを起こすのか、そしてサブローは元の自分のいた時代に帰れるのかを見守っていこうと思います。
織田信長って、残忍で気性の荒い人物だったと表現されることもあれば、新しいもの・他国のものを積極的に受け入れる賢さもあったとか言われてますよね。領地の平民に優しかったかどうかはわからないですけど、兵農分離の陰にはこんな出来事があったのかもしれないなー…とか、桶狭間の戦いはこれだけ裏工作が働いていたんだーとか、歴史的イベントを覚えるのにすごく使えるんです。もちろんそれに至る背景は全然違うとは思うんですが、歴史を覚えるためのエピソード記憶にはもってこいだよね。はっきり「違う」とも言い切れないですしね。どんな書物が現世に残っていようとも、それぞれの生き方はいかようにも着色ができる。机上の空論の域を出ません。
現代の教科書一式持ってきてよかったね
勉強が全然できなかったサブローの幸運は、学校のカバンを持ってきていたこと。ちょうどタイムスリップしてしまったその日は歴史の授業で教科書を持ってきていたし、これから歴史を変えないように努力しなきゃいけないなと考えられるあたり、とっても真面目な青年ですよね。むしろゲームみたいに楽しんでいる感もあります。だって、いきなり訳の分からない時代に飛ばされてきて、織田信長とたまたま同じ顔だったから身代わりにされて、そのうえで歴史をつくっていかなきゃならないという大役を担うことになるという…発狂しておかしくなる可能性だってありましたよ。タイムリープ系の漫画では、たった一人きりになってしまったことを悲しんだり、受け入れることに時間がかかったりするものですが、その受容もとてもあっさり。卑下することもなく、むしろその時代のライフスタイルを楽しんじゃっている。唐突すぎるはじまりのように感じますが、それでもテンポよく歴史になぞらえて動いていくこの漫画は、ギャグというか、歴史ものというか、伝記というか…ジャンルのつけがたいおもしろさがあります。
飛ばされてきたタイミングが、「織田信長は病弱で使えない」という噂が広まっているときでよかったですよ。まさにマイナスからのスタート。これから天下をとるということだけは決まってた。だから、平気で力強く「これから天下をとるから」って言える。できないことをできると言ってはいけない時代において、「そんな大それたことを口にできるなんて、やっぱり彼はすごいお人だ…!」と民衆や家臣はサブロー扮する信長に惚れこんでいくわけです。
あくまで歴史に忠実に
はじめこそただのラッキー・サブローの現代っ子行動のおかげで勝利しましたが、その後は歴史の教科書をみながら勉強しつつ、なるべくこれに沿っていこうとサブローは努力します。きっかけはいろいろあって、その中でも大きいのが自分の周りの人たちの死だと思いますね。大切な家臣が殺されたり、同じ穴の狢だった道山さんが討ち死にしたり、仲良くなろうと努力した弟に目の前で自害されたり…歴史に確かに忠実。だけど、その人たちの死が確実にサブローを成長させていきます。新しいものはどんどん取り入れる。有能な人材は採用する。テキトーにやるのではなく、ちゃんと考えて策を練り、戦に挑むようになっていく。サブローの回想とか、考えていることが全然表現されないので、まさに「信長様の考えていることはまったく分からない」と言えます。そこがおもしろいですけどね。後から、あーその作戦か!って気づかされる。よくここまで自然に、現代っ子の考え方を入れながら歴史を崩さないなーって感心しきりです。
時間の流れも全然崩れませんよね。平気で何年も経過させます。サブローはなぜか最初から順応が早かったですが、戦に出て平気で人を刺すこともやっている…のですよね?今川さん攻めるときも殺しまくったから返り血浴びているんですよね…?「運動神経いいから」ってサブローはよく言っているけど、今まで剣も銃も握ったことがないであろうに、その辺はさらっと流しちゃってます。戦争中の様子より、それに勝ったか負けたか、うまくいったかどうかが重要だということでしょうね。それよりもサブローがどうやって人を味方につけていくかや、謀反がどのようにして起こるのかといったドラマがおもしろい。
これだけ忠義を尽くす明智光秀が織田を討つ?
ここからの問題は、どのようにして織田信長は死ぬことになったのかということですね。「本能寺の変」だけは、諸説ありすぎて何年経っても解き明かされていません。というか、これから歴史の書物が新たに出てきて、その謎が分かる時なんて来るんですかね…もはや謎は闇に葬られた状態とも言える。そんな歴史的出来事を、この漫画ではどのように表現し、完結させてくれるのでしょうか。
「信長協奏曲」という題名の意味を考えてみると、明智光秀となった本当の織田信長と、織田信長に成り代わったサブローがつくっていく時代のことをさしていると考えるのが自然ではないでしょうか。明智光秀に再会するまではほんの序章。サブローが信長という人間を作り上げるまでの章ということです。明智光秀は、自分に成り代わってくれたサブローに感謝し、忠義を尽くして働きます。秘密を共有した戦友なわけです。今までの定説では、本能寺の変において、明智光秀に追い詰められた織田信長が自害する、ということになります。もし、その通りのことが起こるなら、サブローはそこで自害することによって命を落としてしまうか、もしくは現代に戻り、もう一度新たに人生を歩み始める可能性もあるでしょう。戦国の世を生き抜いたという確かな記憶が残っていれば、たいていのことには動じない武将のような生き方ができるはず。しかし、「協奏曲」と言っているのだから、明智と信長の2人には最後まで協力関係を崩さずにいてほしいというのが個人的な希望です。もしかしたら、あの本能寺の編で確かに織田信長は死んだ。明智光秀となった本当の信長が。そしてサブローは現代へと舞い戻る…とか。隠居してそのまま生き続けるでもおもしろい。最近では本能寺の変において信長は死んでなかった説も浮上しているし、どんな終わり方でも割と納得できそうです。
歴史ファンタジーってなんでこんなに楽しいのか
歴史ファンタジーって、書物に残る史実を漫画にしてくれているだけです。はっきり言うと。なのに、なんでこんなにおもしろくなっちゃうんでしょうね。要は、それだけ人となりや生きてきた人のエピソードって、歴史が移ろったとしても、面白いってことなんですよ。現代だったらこんなことしないよねって思ってても、自分たちもそういう歯車の1つに過ぎないことに気づかされたり、先人たちの過去の経験があってこそ、今の自分たちの生き方があるんだなーと考えることができる。確かに現実に起こったことだし、今より発達してない時代の出来事であるにもかかわらず、「す…すげー…」というイベント・人間が必ずいる。そして世の中はそういう偉人がつくったようなものだと知るわけです。現代人がサブローみたいにタイムスリップしたら、どんな人でも偉人になれそうですよね。度胸があれば。
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