鳥肌ものの演出マンガ - 花もて語れの感想

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花もて語れ

3.753.75
画力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
3.50
設定
4.00
演出
4.00
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鳥肌ものの演出マンガ

3.53.5
画力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

朗読を題材としたマンガ

本作は「朗読」を扱った唯一無二のマンガ作品ではないだろうかと思う。

「朗読」は非常にマイナーな芸術である。これを単純に説明すると、【文章の読み聞かせであり、「声」と「言葉のみ」で物語を表現するものである。】となる。では、「声による演劇か?」と問われれば違う。声による俳優といえばアニメやドラマの吹き替えを行う「声優」をイメージするだろうが、この「声優」と「朗読者」は別物である。たしかに朗読にもキャラクターを演じるというという一面はあるが、明らかに違うのが「地の文」の存在だろう。つまり風景描写や、人物の行動、心の声、作者視点の注釈などの「セリフ以外」の文章も声で表現されるのだ。声優がキャラクターに命を吹き込むというのであれば、朗読者は人の物語の世界そのものに命を吹き込んでいると言っても過言ではない。この奥深さを伝えたいというのが本作のテーマであろう。

「読書は黙読で十分でしょう?」「一人で読んだほうが自由に想像できるし、他人が勝手にイメージした声なんて聴かされたら、自分のイメージを壊されて、がっかりするだけよ」 

このセリフは第一巻で主人公へ投げかけられた言葉である。これはおそらく、このマンガを手に取っている読者の率直な気持ちを代弁したものであり、そして作者はこの言葉に応じる主人公を見せることで、本作の未来をかけたのではないだろうか? 「さあ!どうだ、これが朗読だ!」 と。

登場人物の成長過程について

本作の魅せ方は、「朗読」の表現力だけではない。朗読されるテーマによって、聞き手のエピソードにも影響を及ぼし、また同時に朗読者も、自らの経験を言葉に込めて読むという表現が使われる。楽器などでも演奏者の感情で、音の表現が変わるというのだから、「人の声」であればなおさらのことであろう。つまり主人公の精神的な成長なくして、朗読の完成は無い。と訴えているのかと思う。ところが本作においては、その成長過程に少々疑問が残る。というのも、本作の主人公は冒頭より【非常に内気で、人前では蚊の鳴くような声しか出せない少女である】という設定で始まっており、第0話とされたプロローグで朗読を知る教育実習生に出会い、主人公の才能が開花し、小学校の学芸会が思わぬ成功を呼ぶ。というストーリーが描かれている。そして本編である第1話は、そこから数年の時がたち、主人公が新社会人として描かれているのであるが、主人公の引っ込み思案の性格は治っておらず、それが原因で、同僚達とも馴染めず、また上司には叱られる毎日送っていた。という流れなのだ。小学生から社会人になるまでに、その性格に成長がなく、「え?その間何やってたの?」という疑問が残るのである。これは後々に、きっかけとなった教育実習生へ手紙を送るも返事がなかったという設定で、主人公の成長のきっかけになりえなかったという残念なエピソードがたされているが、少々違和感の残る部分であった。これは単純な制作の裏側を邪推したものだが、第0話はあくまでも「読み切り」として掲載されたもので、この話によって連載が決定されたからではないだろうか?長期連載にあたって小学生のままでは都合が悪く、内気なまま成人した主人公ということで仕切り直しを行ったものではないかと想像する。確かに違和感はのこるが、一度のきっかけで人が変わるということもあるまい。という解釈でここは読み進める他無い。しかし、やはりこの成長過程においてはその後も、気になる点がある。

結論から言うと、主人公は内気な自分を成長させ、最終的には朗読を教える講師になるという所まで成長するのだが、全体の巻数からみて、その成長過程が早すぎると感じるのだ。まず主人公が内気な性格になってしまった背景として、幼少の頃のエピソードが綴られているのだが、主人公は早くに両親をなくしており、引き取り手がなく、親族から煙たがられるというつらい経験をしている。そこで心優しい叔母に引き取られるが、この叔母は自身のことを、「お母さん」とは呼ばないようにと主人公に命じる。……という、すこし変わった環境が描かれている。

作者は、「内気な性格の原因」として「身内へ遠慮」という【壁】を表現したものかと思われるが、主人公が成人後に朗読に出会い、そこからの成長が急すぎると思われるのだ。一番の弱点だった人付き合いも、かなり早い段階で克服。会社にも自分の居場所があり、親友もでき、周りの人たちと非常に上手くやっている。つまり、主人公の成長は、割りと早い段階で完成しており、後半はどちらかと言うと、「朗読のテクニック」にしか伸びしろがなくなっていのだ。勿論それに付随する「ダメだった自分」「そんな自分を支えてくれた家族や友人」を織り交ぜてのエピソードはあるのだが、そこまでインパクトの強い思い出でもなく、それが現実的という解釈も可能だが、フィクションなのだから少しオーバーな演出があってもいいのではないかとも思えた。

恋愛について

主人公の恋愛については、非常に薄く描かれている。薄いというより浅いという感じである。ここは人によっては物足りなさを感じるのではないだろうか。例えば主人公の周りには同年代の男女がいるが、これが皆、小学生かお前は!と突っ込んでしまうような淡い恋心で終わっていたりする。またひどいのは、主人公が小学生の頃に出会った教育実習生の先生だ。どうも男前という設定のようではあるのだが、主人公の親友や、朗読教室の女先生、後でぽっと出するライバルキャラが、全員一人の男を絡めて「恋愛」に持ち込んでしまうあたりが、風呂敷は広げたが消化しきれなかった。という感じである。また恋愛における決着の仕方が、自ら引いたり、自己完結したり……と、あまり拗れる事なく終わっていく。勿論、本作は恋愛マンガではないのだから、そこに力を入れすぎると迷走してしまうのはわかるが、サブキャラはともかく、せめて主人公のエピソードだけはもっと深く描いてほしかったと思う。

ライバルキャラ

本作において、もう1つ失敗だったと思われるのが、このライバルキャラである。明らかに出るのが遅すぎたし、なんか強引に人間関係に絡めてしまったため、存在がペラペラなのだ。すごい才能のライバルキャラが出てきた。というだけで何も感じるところがなかった。なんとかストーリーに絡め、エピソードにも登場させて入るが、後付感が拭い去れないキャラクターである。

また、このライバルが朗読する「瓶詰地獄」という朗読の描写が非常に長く、丸々1+2話分にわたって描かれているのだが、このエピソードに於いては、「間延びした」という印象しかない。

これは作者自身も産みの苦しみを味わっているのだろうとおもうが、長期連載における弊害なのではないだろうか。大人の事情が影響したのかもしれない。しかし発表してしまえば、作品は作者のものではなく購読者のものとなる。なので、あえて偉そうなことを言わせてもらうと、作者の力不足を感じるところである。

他メディアへの展開があったら

前項でさんざんぱら酷評しておいてなんだが、本作はそれでも面白く、人に進められるような作品であり、自身はファンであると言える。良い作品に出会うと、毎度考えてしまうことだが、他のメディア展開は「ありか?なしか?」ということである。ここについて考察したい。

本作について調べた限りでは、どうやらメディア展開は行われていない。ナントカ賞というようなものも受賞していないようで、すでに連載も完結している。先に考察の結論を書いてしまうと、残念ながら本作の他メディアへの展開は非常に望み薄である。

しかし、アニメ化したら面白いだろうな!という作品であるのは間違いない。まず技術面において、作画はカット数はやや多くなりそうだが、バンク(繰り返し使うカットのこと)も多用できそうだし、何と言ってもアクションが少ない。立って喋るだけで、モブも着座のまま聞いてる。「稼動パーツ」が少ないということだ。これはアニメ制作では、枚数を抑えられて良いと思う。下手をすると302000枚以下の動画で作ることが可能かもしれない。

(あくまで参考程度に。12000枚台のアニメは、演出家が工夫しないと無理!と言うくらい少ない枚数であると補足しておく。クォリティの高いアニメだと1話あたり5000枚~8000枚で作られている。またアクション・エフェクトが多用されると1万枚を超えることもある。以上余談)

それに加えて、声優さんの演技力で見せる作品にもなるのは、売りの一つではないだろうか? 少々演者のハードルは上がるが、ここに相当な実力声優がキャスティングされれば、ちょっとした朗読ブームなどが起こるかもしれない。ブームにはならなくとも、「朗読」を世間に知らしめる手段としては有効だと思わる。マイナー文化であるがゆえ、朗読教会も惜しみない支援を送ってくれるのではないだろうか。また、ニコニコ動画やYoutubeなどでも、素人が「朗読」を行っている動画は多数あるが、プロの朗読は逆に少ない。これは朗読者が物語の著作権を持っていないからだと思うが、版権の切れた古い文学ばかりでは今の若者はついてこれない。そういった意味でも本作のアニメ化は、日本人の教養を高める意味でも意味があるのではないだろうか。また、日本の伝統芸能的なものが、妙に世界で受けたりする。文部省もこういったアピールは大好物だ。ここに一縷の望みがあるのではないかと思う。

ただ、書いておいてなんだが、【日本語】という複雑で難解な言語を英字幕にすることは多分出来ない。海外展開には更に字幕やコメンタリーにおけるプロの補足が必要となるだろう。

作者について

最後に、作者について。本作の作者、「片山ユキオ」氏の師匠は、「うしおととら」の藤田和日郎氏であるとのこと。同期のアシスタント達も、プロデビューした面々ばかりであるので、「流石!大御所の弟子!」 と思ってしまう。この「花もて語れ」も非常に面白い作品だ。もっと評価されていいマンガであると思う。調べてみると、この作者は、現在も別の作品を連載中であるそうだが、どうか、本作が、再評価されるようなヒット作を生み出してもらいたいと心より願う。

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