だからこそ、殺した。
酷薄男の告白
ある男がいた。その男は昔から動物が好きでこよなく愛する優しい男だった。月日は流れ男はある女性と結ばれ沢山の動物を飼った、だか酒に溺れるようになってからというもの男は擦り寄ってくる動物を嫌悪するようになる虐待し妻にも手を挙げるようになる、でもどうしてかペットとして飼っていた黒猫のプルートーには何故か手を挙げなかった。主人公の男は更に酒乱となりある時そのプルートーにも手を挙げてしまい片目をくり抜き木に吊るし殺してしまう。その晩その男の屋敷は原因不明の火事になり屋敷は全焼、残った壁に首にロープを巻き付けた大きな猫の姿が焼き付いて残っていた。衝動的なその殺意に男は後悔しプルートーに似た猫を引き取るが…。
短編小説となっているこの小説は超短編とでも言えるほど短い話、早い人であれば十五分ほどで読めてしまうが印象に残るお話。ホラーと言うよりも不思議で黒猫の復讐劇?と言える。主人公である男が酒に溺れてかつては愛していた筈の動物たちに虐待をしてしまう、ポーが動物好きで虐待するような男だったかどうかは分からないけれど男が酒乱というところはポー自身と同じだ。プルートーはとても賢い猫だったと男は語っているけれどその具体的な賢さは書かれていないのでどの点がと疑問に思う、猫は元来自由気ままで頭が良く不思議な力を持っていると言われているけれどこのプルートーはかつては愛してくれた男に復讐した、というところが賢いということなのか。主人を絞首台へ送れるほどの力を持っていたのだからプルートーは相当賢い猫だった。
エドガー・アラン・ポー、日本デビュー作品
この「黒猫」は1843年に発表されたゴシック風の恐怖短編小説。その後日本では1887年(明治20年)に饗庭篁村(あえば こうそん)によって翻訳された、日本で初めてポーの作品が翻訳されたものでもあった。ただこれは外国語が得意ではなかった饗庭篁村が友人に口訳してもらいそれをもとにして意訳したもの。その後明治間にも櫻井鴎村、平塚らいちょうが訳したものは「青鞜」にも載せられるなど沢山の方が翻訳している。話もとても短いので翻訳しやすかったのかなと思います。
今では著作権も切れているポーの作品は青空文庫にて何度でも読み返すことが出来る、何度読み返してもこの作品は恐怖小説と言うよりも猫の復讐劇とどうして慈悲深く動物を愛していた筈の男が虐待するようになったのか、そしてやっぱりラストシーンの不思議。新しく引き取ったプルートーに似てはいるけれど胸にほとんど一面に白い斑点を持った呵責者はどこに行ったのか。ラストについて考察します。
成し遂げられた復讐、ラストシーン
「私」は新しいプルートーに似た猫までも殺してしまいそうになった時、止めた妻の頭を斧でかち割ってしまう。困った私は壁に死体を押し込みモルタルで固めて壁の中に妻を隠してしまう、それから一隊の警官によって家宅捜索が行われたが見つけることは出来ない筈だったが、その固めた壁の奥から猫の鳴き声が、慟哭するような悲鳴が聞こえてきて警官たちは壁を崩す。そして現れた妻の腐乱しかけている死体の頭の上には赤い口を大きく開け片目を光らせたあの忌まわしい獣が座っていた。
ラストシーンを省略すればざっとこんな感じですが、ここで疑問なのはまずどうして壁の中に塗りこめた妻の頭の上に猫がいたのか。片目がないということからこの猫は白い斑点を持ったプルートーに似た猫ではなくプルートー。でもプルートーはもう随分前に「私」によって殺されている。それなのにどうして死体の頭の上にいたのか、そこで猫の鳴き声が聞こえなければ「私」は絞首台に行くことはなかった、かつては愛してくれた筈の主人に殺された猫の復讐ということなのか。そしていつの間にかいなくなってしまった呵責者のプルートーに似た猫はどこに行ったのか。妻も可愛がっていて猫が殺されることを庇ったということは酒乱になった男の幻覚ということでもないし、プルートーの生まれ変わり?この衝撃のラストシーンは色々と考えてしまうところが多いけれど正しい正解はポーに聞いてみないと分からない気がする、私の考察は原因不明の火事で全焼した屋敷の唯一残った壁に焼き付き残った猫の姿、それはプルートーの呪ってやるという宣言だった。その宣言通りに白い斑点を持ったプルートーに似た猫はプルートーの生まれ変わりでありまた主人の前に現れる、そしてかつては愛してくれた筈の主人を自分を殺した方法と同じように首にロープをかけられ吊られる絞首台送りにした。というふうに考えた。
その猫が私を慕っていたと知っていればこそ、猫が私を怒らせるようなことは何一つしなかったということを感じていればこそ、吊るした。プルートーを殺した「私」の動機。どうして”こそ”殺してしまったのか。ただ単にこの「私」はあまりにも酒に溺れすぎておかしくなってしまっていたということなのだろうか。それとも誰しもそんな歪んだ感情を持っているということなのか。考えればこそ、分からなくなる。
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