信じる者の幸福
本格推理と心理戦から学園コメディと人類の希望を考察できます
物語は主人公の鳴海歩を中心に、月臣学園高等部などが舞台となっています。ブレードチルドレンといわれる存在や天才の兄との戦いを巡って物語が進んでいきます。構成としては、序盤が「推理マンガ」、中盤が「心理バトル」、11~15巻が「クローンや人類の起源」などテーマが変わっていきます。序盤の名探偵コナンや金田一少年〜みたいな事件、解決の展開から、ブレードチルドレンを巡る戦いに移っていくスピード感が面白いです。この作品以降、従来の事件から解決といった流れではなく「変わった推理物」が出てくることになるのですが、スパイラルが原点かもしれません。「推理物」と思って読むと予想を裏切られます。前半はそれなりに「推理物」ではありますが、ストーリーが進むと、推理対決、心理戦、頭脳戦、火器やライフルなどの銃撃戦にも発展していきます。カノン・ヒルベルト戦が面白かったと思うのですが、物語の終盤にはクローンを巡る論争など深い問題に発展していきます。
信じる者の幸福とは何か
物語の途中であやめの花言葉が何度か出てきます。あやめは2月頃から咲き始め、5月のゴールデンウイークの頃に全盛期を迎え咲きます。信じる者は報われるともいうし、信じる者は馬鹿を見るともいうから、どちらが正しいなんて誰にもわかりません。幸福になれるから信じれるようになるのではなく、信じれるようになったときすでに幸福であることに気付けるようになることが大切です。初めは自分では自分のことを信じれなくても、自分のことを信じてくれている身近な人の存在が自分を信じられるようになるキッカケになることもあることに気づけることが大切ですね。
今の日本の若者が自己肯定感がないことやアメリカなどの先進国に比べ自分の職業に自信を持ってない大人が先進国でもポイントが低いことはOECDの調査でも明らかです。また日本は諸外国と比べて自己を肯定的に捉えている者の割合が低く、自分の将来に明るい希望を持っていないことが、内閣府が6月3日に公表した「平成26(2014)年版 子ども・若者白書」より明らかになりました。特集「今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの」では、日本を含めた7か国(韓国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)の満13~29歳の若者を対象とした意識調査結果を元に、日本の若者の意識の特徴について「自己認識」「家庭」「学校」「友人関係」「職場」「結婚・育児」の6つの項目から分析しています。日本は諸外国と比べて自己を肯定的に捉えている者の割合が低く、自分自身に満足している割合は、「アメリカ」がもっとも高く86.0%、「日本」がもっとも低く45.8%でした。また、自分には長所があると回答した割合も「アメリカ」がもっとも高く、「日本」がもっとも低かったそうです。自らの将来に対するイメージについて、日本は諸外国と比べて自分の将来に明るい希望を持っていないという結果になりました。
「信じる力は運命すら変えられる。」
これは主人公の兄,鳴海清隆が鳴海歩に言ったセリフです。自分を信じない弟が成長して自信をもっていくのが物語のテーマとなっています。先ほどの内閣の調査からも日本人は何事にも自信を持ち、自分を信じていくことが大切だと、この作品のテーマから伝わりますね。
仕掛けてくる相手の思考をいかに読み、先を行くか。
物語としては、終盤にクローンや創造主などの人類の起源に迫りますが、最終的に主人公鳴海歩と「彼女」との関係性に収束させています。本作の結崎ひよのは、どんな辛い時や敗北した時でも歩を信じ、支え続けていました。しかし、兄である鳴海清隆の最大の罠が潜んでいて、計算して演出された架空の人物だったのです。「彼女」の今までの行動は全て任務のためのものでそこに本心はなかったかもしれません。ですが、物語の中でともに行動する上で見えないほどの細い糸のような絆ができ、それを信じることができたのです。「推理の絆」は、それまでのバトルで積み重ねてきた歩と「彼女」の企業秘密なのです。「彼女」が歩に言った「たとえ世界中が敵に回っても 私がいます」という名言からも、この「世界中」の中に「結崎ひよの」が含まれているとなると奥が深いです。
ヒーローとヒロインの関係性
作中に歩とひよのがラブコメ的な、何となく「そういう二人なんだ」っていうシーンがもっとあると嬉しかったのですが、作中では終盤には何度かありましたが、カットされているなと感じました。作者の城平氏が「二人を対等な存在にしたかった」と書いている通り、最後のシーンでようやく二人は対等な関係になったのだと思います。こういう風にすることで二人が対等な存在として向き合えるのならば、未来は明るくて希望があるのだと思えます。
レビューだけでは作品の良さが伝わりきらないですが、コミックだけでなく、小説や外伝のスパイラルアライブも読むことで作品全体をリンクさせることができるでしょう。
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