本当にリアルに近くてドキドキする - G線上のあなたと私の感想

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G線上のあなたと私

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ストーリー
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本当にリアルに近くてドキドキする

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ストーリー
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演出
4.0

目次

出てくる言葉がリアルそのもの

物語の始まりも、流れていく時間も、登場人物一人一人の言葉も、すごく自然なのがいいですね。作者であるいくえみ綾先生の特徴でもあると思うんですけど、「わかるな~…」って言葉を連発したくなります。

才能があるでもなく、ただ平凡に過ぎていく毎日。その中でバイオリンを通してつながった人間関係のおかげで、満たされていくものが確かにある。この感覚はすごい共感できる部分です。自分の日常の中の必需品ではない・娯楽や趣味としてのバイオリン教室。大人になってからだからこそ、何か目標があるでもなく、楽しむことが前提となる音楽。非日常になれる時間。非日常だからこそ、正直になれる。いつもは言えないことを言葉にできるから、自分の中でぐちゃぐちゃしているだけのものが整頓されていく感じ。そしてそれをいざという時に発揮するんです。だから音楽とか、趣味とか、自分だけの楽しいだけの時間って大切なんだなーって改めて実感します。汚いものがリセットされる感じがあるし、何より、仲間がいる。普段は絶対口に出せないことなのに、この仲間にだったら打ち明けられる、みたいな。持ちつ持たれつ、影響しあって元気でいられる感じ、すごく好きですね。

ジャンルとしては少女漫画になるので、もちろん恋愛模様が描かれているわけですけど、「人生のリスタート」みたいな部分を表現していたりもして、いろいろなことを考えさせてくれます。それぞれがそれなりの挫折・後悔を持っていて、それをぐっとこらえて立っている今の状況。まさにその場所からこれからどう動いていってくれるのかが楽しみです。

世代ごとの良さが出ている

一番の良さは、理人19歳、也映子25歳、幸恵41歳という年代のバラバラなメンツで、全員がバイオリン初心者という組み合わせ。最初は全員敬語で他人行儀でした。そこから少しずつ相手のことが見えてきて、複雑な部分も知って、どんどん仲良くなって、バイオリンだけじゃないつながりも欲しくなってくる。どんどん深くかかわって、尊敬したり、励まされたり、励ましたり、なくてはならないものになっていく。その過程が居心地がいいです。ハラハラしたりはしないけど、進んだり戻ったり、大人ぶって駆け引きしてみたと思ったら、子どもみたいに感情がダダ漏れしたりする、その不安定さがそのまま見れて楽しいですね。

理人と也映子がおそらくは主軸になった恋愛ですが、幸恵さんがいい感じで干渉してくれます。お互いのことをよくわかっているし、年齢を重ねているからこそわかることもたくさんある。幸恵さんはそれをじだんだ踏みつつ見守りながら、同時に自分も刺激を受けて家庭にいそしんでいく。あーいいなーって。そうやって関わりあいながらいつまでも変わっていくことができるんだろうなーって感じずにはいられません。

肩ひじ張らずに、自然に仲良くなれる関係って理想ですよね。大人になってからだと、会社関係の人とは全然素で話せなかったりするし、昔の友達もそれぞれの場所での生活があってなかなか会えないし、疎遠になって、一人になって、テリトリーがそんなにあったわけじゃないんだけど、すごく小さくなってしまった気分になる。そういう正直な気持ちを素直に言えるこのつながり、ほしいなー…。この3人組、本当にうらやましいです。

それぞれの恋

理人は兄貴の元婚約者がバイオリンの先生だっていうことで、ひそかに抱いていた恋心をたよりにバイオリン教室へ通い始めました。一目惚れだったんだろうなー…って妙に気持ちが分かってしまう。也映子の分析もよくわかる(笑)。兄貴が別の女と結婚した。じゃマオさんは…?兄の気持ちとか、マオ先生の気持ちとか、あまりはっきりとはわからないので何とも言えないけど、理人がすごく苦しんでいるってこと、もっと心の底からわかってほしかったなー…。兄貴を殴ろうとして転んで指を骨折したっていうエピソードが一番好きですね。理人っぽいというか。かっこつけでヘタレ。愛すべきキャラクターです。

一方のマオ先生。なんだ、やることやってるんじゃないですか。傷つけられたっていう悲しみの印象が強かったけど、まさかのバイオリン教室の中にお相手がいたとは…なんかまだまだ裏エピソードがありそう。理人を玉砕させてくれたことには感謝したいと思います。これでやっと理人は進めるね。

そして主人公の也映子。寿退社当日に婚約者から別れてくれと言われるという…そんなことってあるんだろうか。詐欺じゃん。他に好きな人がいるのに、結婚ぎりぎりまでずるずる引きずるなんて、そんな男最低だ!それでも、也映子の母親の言葉はかなり響きますね。

いつまでも悲劇のヒロインやってられないんだからね

うわー…きつい。でも確かに、悲しいって気持ちばっかりではどうにも進む余地がない。どんなに傷をつけられても、そこで動かず立ち止まっていることは無駄なんですよね。これから生きていくためには稼がなくちゃならないし、動かなくちゃならない。苦しいときこそより強く、母親ってすげーなって感じます。

自分が相手を好きかどうか

理人はまだ自分たちの気持ちに気づいていないみたいです。彼女が気づいているけどね。也映子は気持ちに蓋をする。歳の差とか、彼女の存在とか、体裁とか、いろいろなことを考えて、婚活に逃げる。でもそんな簡単に次の人なんて見つからないって。そんな2人から同時に相談を受けて、つかず離れずでうまく取り持ってやらなきゃと、奮闘する幸恵さんが素敵です。そして多実ちゃん素敵。

大人って、人のことを客観的に判断する能力が否応なしについていくにもかかわらず、自分のことはおろそかになりがちですよね。人のふりをみて理解したつもりになって、我がふり直すところまでは至れてないというか。気持ちに正直にしたがって行動していいのは10代のころだけだよって決めつけている。若い人には若い人の生き方があり、それを見せつけられて老いた自分と比較されるのも、プライドが許さないのではないでしょうか。いつまでも自分は若いと思っていたいものですからね。諦めたくないと言いながら諦めている気もしてくる。まさにこの状況にあるのが也映子だなーって思います。

これから何がどうなって付き合うのか見もの

果たして也映子、理人が、どんな答えを見つけることになるのか。いくえみ綾先生の作品では、どうなるか全く読めません。基本、いくえみ綾先生の作品では、うまくいってほしいなと思う人ほどうまくいかないでめっちゃ回り道することが多い漫画ばかり。終盤までもやもやさせまくってくれることでしょうね。もう十分、恋は始まっている。その気持ちを認めるまで、そして行動するまで、丁寧に描かれると思います。確かに、思いのまま青春ぶっこいて動けるほど、リアルな大人事情は甘くないですから。行ったり来たり、揺れながらでも、確実に明るい方向へ進んでいってほしいなと思っています。

これからの展開は予想できませんけど、願望としては理人&也映子の結婚式で幸恵さんが仲人スピーチをしてくれることを願っています。これははずせない…。そして、バイオリンを合奏する。もちろん曲は「G線上のアリア」。なんだかんだ、節目で必ずいい働きをしてくれているのはバイオリンですよね。3人組を1つにしてくれたのも、足かせになったのも、逃げ道になってくれたのも、全部バイオリンですから。ここからの展開も楽しみです。

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好きな気持ちってどうやって次に進むのか

まったくバックグラウンドの違う3人組さすがいくえみ綾さん。登場人物たちのセリフや、流れていく時間がリアルそのもの。迷ってる気持ちって、言葉に表現するのがとても難しいものだと思うが、それをうまくあらわしてくれて、かみ砕いてくれているのがわかりやすい。そして、簡単に次の恋にいけるわけじゃないこと、もう始まっていると自分では気づけないことが、読者からすればもどかしいけれど、妙に共感できてしまう。絶妙な空気がたまらない。バイオリン教室に通っている也映子、理人、幸恵。たまたま同時期に入って、グループレッスンを始めたメンバーだ。彼らはバイオリン以外には共通点を持たない。お互いに敬語で、他人行儀で、とても打ち解けあえるような空気ではなかった。だけど、バイオリンを弾いていると現実世界じゃない場所へ行ける。自分のつまらない毎日が非日常になって、輝きだす。大人のくせに発表会に出ようと決めて、3人で練習して...この感想を読む

5.05.0
  • kiokutokiokuto
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