好きな気持ちってどうやって次に進むのか - G線上のあなたと私の感想

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G線上のあなたと私

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好きな気持ちってどうやって次に進むのか

5.05.0
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目次

まったくバックグラウンドの違う3人組

さすがいくえみ綾さん。登場人物たちのセリフや、流れていく時間がリアルそのもの。迷ってる気持ちって、言葉に表現するのがとても難しいものだと思うが、それをうまくあらわしてくれて、かみ砕いてくれているのがわかりやすい。そして、簡単に次の恋にいけるわけじゃないこと、もう始まっていると自分では気づけないことが、読者からすればもどかしいけれど、妙に共感できてしまう。絶妙な空気がたまらない。

バイオリン教室に通っている也映子、理人、幸恵。たまたま同時期に入って、グループレッスンを始めたメンバーだ。彼らはバイオリン以外には共通点を持たない。お互いに敬語で、他人行儀で、とても打ち解けあえるような空気ではなかった。だけど、バイオリンを弾いていると現実世界じゃない場所へ行ける。自分のつまらない毎日が非日常になって、輝きだす。大人のくせに発表会に出ようと決めて、3人で練習して、話をして、酒を飲んで…お互いを知っていく過程がとても自然で、劇的な出会いがあるわけじゃない。そこがまた心がくすぐられるし、こうやって人は成長するのかなーって思ったりする。

3人なら、お互いの事を知らないからこそ正直になれた。だけど、知り合っていくと、大切にしたいからこそ言えないことも増えていく。その葛藤や、好きだという感情への戸惑い、これ以上関係性を進展させることのメリットがあるのかどうか、本能に従うのが正しいのかどうか…悩む大人たちが好きだ。少女漫画よりは少しレベルを上げて、女性漫画の域だろうと思う。それぞれがすでに持っている後悔の気持ち。そこから動けないでいた今までを払拭し、前に進むきっかけをくれたバイオリン。やっぱり音楽はいいなー娯楽に無駄はないなーって思える、そんな漫画になっていると思う。

ポジショニングがベスト

この漫画のいいところは、それぞれの歳の差と経験値の差。理人は19歳大学生で、也映子は25歳無職(になってしまった)、幸恵は41歳の主婦というキャラクター。年代がバラバラだからこそ、分かり合えることがある。すべては幸恵という先輩の存在のおかげだ。どうしようもなくヘタレな理人と、大人になりきれない也映子のことを、幸恵がそっと支えてくれている。

単純に裏表なく励ましてくれる人の存在。それを大事にしようと思うからこそ、自分も素直に言葉を贈ることができる。そんな3人の関係性はまさに理想だね。理人にとっては、自分がわからないことをかっこつけずに相談できる場所であり、それを也映子や幸恵がからかいならがも全力で答えてくれる。也映子にとっても、寿退社当日に婚約破棄されたなんていうどす黒い過去を気にせずに、ただの也映子でいることを許してくれて、ただそばにいてくれる温かな場所だ。幸恵は2人のサポート役的なところがあるけれど、少し若返ったつもりではっちゃけることができて、2人の行く末を見守ることに楽しみを覚えつつ、単調な主婦の毎日では得られないドキドキを感じることができている。也映子も理人も臆病でヘタレ。特に理人はまだまだ人間ができてない感じで、也映子に自分が悩んでいることや好きかどうかですら相談してしまい、別の誰かと付き合ってみたりもしつつ心が也映子に傾く超ダメ男。幸恵の苦労は絶えない。それでも、関わりあうことが刺激になって、新たな学びを届けてくれる。常に新しいことや、今までに出会ったことのないものに出会うことが、若さを保つ秘訣なんだろうと思うね。何歳になろうとできる、アンチエイジングだろう。

好きな気持ちを乗り越えたい

理人がバイオリン教室に通い始めた理由は、兄貴の元婚約者であるマオ先生がいたから。彼女への恋心、兄がしでかしてしまったことへの申し訳なさ、それでも自分を見てくれないかと期待する気持ち…複雑で、幼く、でも確かに正直な気持ちがそこにはあった。

兄のことはムカつくけれど、マオ先生を自分が幸せにしたいと思っていたから理人にとっては好都合だったかもしれない。というかそもそも、マオ先生に抱いていた気持ちは恋だったのか?兄を申し訳なく思う気持ちからくる、同情だったのか?難しいところではある。告白することができたのも、切り替えて前を向けたのも、それは幸恵と也映子がいたから。理人はいい友達に恵まれたね。兄貴を殴ろうとして転んで骨折するという、ヘタレなエピソードが逆に好感度を上げているよ。

マオ先生だって、次に進んでいないわけじゃなかった。悲しくても、いつまでも引きこもっているような女じゃない。理人をキープせずにこっぴどく振ってくれたマオ先生は、本当にいい人なんだろうね。理人が前に進めるようにしてくれて、本当にありがとうと言いたい。

主人公の也映子に関しては、理人への気持ちが恋だと認めることが年齢差的にダメだと思っていて、むしろ理人のどこがいいのかとか説明ができない状況だった。理人が自分を頼ってくれることや、本心をさらけ出してくれること、そして自分が正直に気持ちを伝えることができるだけで、やっぱりそれは好きなんだと思うよ。也映子は恋に臆病になっているし、25歳という年齢だからこそ、ある程度は相手の行動の意味が理解できてしまうのがネック。すぐには動き出せないブレーキがかかる。4巻でようやくお互いが正直にその言葉を口にできるけれど、理人はまだちゃんとわかってはいなくて…幸恵のフラストレーションがたまる一方である。

逃げてもまた戻ってこれる

理人はマオ先生からフラれた後に、同じ大学生の子と付き合っているような雰囲気になる。しかし、それが恋だとは自分で思っていなくて、フラフラしっぱなし。それでもつなぎとめてくれている彼女はすごいわ…でもそれも、堪忍袋の緒が切れれば終わり。どうやったって、理人を正直にさせてくれて、かわいくさせてくれるのは也映子だけなんだから。まだまだ彼はそれに気づけないけれど、必ず気づくときが来てくれるはず。

一方の也映子は、婚活へ。それは理人からの逃げでもあった。でもそれが逃げであると薄々気づいていはいるのが大人のめんどくさいところ。後に引けない彼女を踏みとどまらせてくれるのは、やっぱり理人の存在と、幸恵の言葉だね。つかず離れず、そばにいてくれる彼女が、どうか家庭でもしあわせでありますように。多実ちゃんがいるから大丈夫か!

人のことはよく見えているのに、自分の事は見えなくなる。その典型例が也映子であり、大人だからこその悩みだ。理人は自分の事も他人の事もまだまだ見えていない男だから、3人で支えあって生きていく必要があるよね。

どこがゴールになるかはまだわからない

幸恵が支えてくれているとはいえ、やっぱり踏ん切りつけるのは本人たち以外にはできない。也映子はすでに正直な気持ちで行動できている気がするけれど、まだまだ理人がアホで…イライラしまくりの展開だ。歩み寄ったり、離れなくてはならなかったりする、その揺らぎを楽しむのがこの漫画であり、もやもやする気持ちが不思議と居心地のいい気分にさせてくれる。決してマイナスではなくて、少しずつ成長しているからこそ感じるそわそわ感だからだろう。いくえみ綾さんの作品では絶対そうなるから、もしかしたらそれぞれに別の相手を見つけてしまうこともあるかもしれないが…この漫画に関してはもう絶対理人と也映子がハッピーになってほしいと思っている。

バイオリンで始まった物語であるし、節目で発表会があるときには気持ちの節目も重なっている。ラストもきっとバイオリンで締めくくってくれるのだろう。それを楽しみに、読み続けていこう。

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他のレビュアーの感想・評価

本当にリアルに近くてドキドキする

出てくる言葉がリアルそのもの物語の始まりも、流れていく時間も、登場人物一人一人の言葉も、すごく自然なのがいいですね。作者であるいくえみ綾先生の特徴でもあると思うんですけど、「わかるな~…」って言葉を連発したくなります。才能があるでもなく、ただ平凡に過ぎていく毎日。その中でバイオリンを通してつながった人間関係のおかげで、満たされていくものが確かにある。この感覚はすごい共感できる部分です。自分の日常の中の必需品ではない・娯楽や趣味としてのバイオリン教室。大人になってからだからこそ、何か目標があるでもなく、楽しむことが前提となる音楽。非日常になれる時間。非日常だからこそ、正直になれる。いつもは言えないことを言葉にできるから、自分の中でぐちゃぐちゃしているだけのものが整頓されていく感じ。そしてそれをいざという時に発揮するんです。だから音楽とか、趣味とか、自分だけの楽しいだけの時間って大切なんだ...この感想を読む

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