7SEEDS 今、読むべき作品
いわゆる「終末系マンガ」作品
世界や人類の終末をテーマに扱った漫画は珍しくない。例えば「AKIRA」や「ドラゴンヘッド」、「アイアムアヒーロー」も有名な例である。これらの作品は、日常から終末へ向けての変化が描かれているが、「7SEEDS」は既に終わった世界で生きていく人たちを描いている。描写としては、さいとう・たかを先生の傑作「サバイバル」が近い。
作品の冒頭は、メインの少女ナツを含む数人がどこか分からないところに拉致されたような描写で描き進められるが、だんだんと「ここは、世界が終わった後の日本だ」ということに気付いていく。登場人物と同時に読者も少しずつ真実に気付かされていく形式なので、始めの部分は特にミステリー感を楽しむことが出来る。
違和感を感じながらも、日常に帰る為に必死に困難に立ち向かい、なんとか乗り越えてきたそれぞれのキャラクター達が、「苔むして原型がわからなくなった、恋人との思い出の横浜の観覧車」や「修学旅行でみた、海に沈んだ長崎の平和祈念像」を発見し、ここが自分たちが日常を過ごしていた日本に間違いないんだと思い知らされた時の絶望感は異様なものがあった。
キャラクターだけでなく、おそらく多くの人の体験やきおくにある象徴的なモチーフと感覚を利用することによって、深い共感と絶望を読者に伝えてくる。
世界観に対する説得力の強さ
また人類の滅亡に際して国が行なった政策が、もちろんフィクションでありながらも妙な説得力をもっているということも、読者を引きつける大きな要因になっている。
「優秀な人材を冷凍保存し、種として未来に残す」
「優秀な遺伝子をもった子供をつくり、サバイバルにおける英才教育を施し育て、残す」
「地下シェルターの建設とシステム」
文字だけを見ると非常に非現実的ではあるが、中身の描かれ方により不思議と納得させられてしまう。例えば、主に主人公達が施された冷凍保存は解凍時に失敗していたり、チームによって時間差が生まれていたりする。英才教育の状況下で育ったキャラクターには、能力は素晴らしくても精神的に不安定な部分が色濃く見られる。地下シェルターは、おそらくこの中では最も実現の可能性は高いが、人間の不完全な部分の露呈や、その状況下では実際に起こり得そうな病気の発祥により失敗に終わる。
特に地下シェルター編で、生き残る為にはどの方法でも選択出来たであろう政府のお偉いさんが、(実際には成功した)冷凍保存の方法を選ばずに、「あんな非現実的なプロジェクト」と称していたことなどが読者の共感を掴むのだろう。
そして、そこに生まれるそれぞれの残虐さや悲劇などが、強大な敵や大戦がなくても十分に「終末」を演出しているのである。
キャラクターの掘り下げが秀逸
この作品が特に優れていると感じる部分は、とにかくそれぞれのキャラクターの魅力である。この作品には非常に多くのキャラクターが登場する。そして、はじめに冒頭の説明でナツのことを「主人公」ではなく「メイン」と記したように、主人公級のキャラがあまりにもたくさん出てくる。もちろんメインは、花であり、ナツである。が、嵐も、蝉丸も、安吾も…と悩んでしまう。
それでも物語が混乱したり破綻したりしないのは、各キャラクターがしっかりと作り込まれているから。まるで本当に存在しているかのように、一人一人がそれぞれの年齢分の人生を積み重ねて来たような分厚さがあるのだ。だからブレない。脇役も含めれば100人近くなるであろうそれぞれの人生が、しっかりとこの作品の核になっている。
そして、キャラクターに対して読者が共感するために必要なのは、欠点である。欠点は読者自身の経験やコンプレックスを刺激することで共感を呼び、またキャラクターがそれを克服することで魅力に変わっていく。
とくにナツはその典型的な例で、人付き合いが苦手で元ひきこもり。発言は出来ないし自信も無く、人の目ばかり気になる。一般的に見ていて「なんだこいつ」というキャラなのだが、正直、彼女の感覚を理解出来る読者は多いのだ。そして、私たちが10巻20巻30巻と読み進める中で、彼女は少しずつ変わっていく。ひとつのきっかけや大きな出来事がきっかけではなく、積み重ねた経験が人間に変化をもたす様子を見守ることが出来るのである。
それはナツに限ったことではなく、「強く逞しいが芯のところで協調性に欠ける、花」「能力は高く友達思いなリーダー格だが、それゆえ精神が不安定な安吾」のように、全てのキャラクターが何かしらの欠点を持ち、そして成長や変化を遂げて来ている。
彼女たちの不完全さが、読者の心を掴んで止まない。
これからも見守っていきたい作品
「終末」系マンガを読む時にまず思うのは、「これ、どうやって終わるんだろう…」だ。
はじめは色々と考えてみたが、私は考えるのをやめた。この世界をどうやって生きていくか、今目の前にある困難にどう立ち向かっていくかを、登場人物のキャラクター達と一緒に楽しんでいきたいと思う。私がこの作品を「今、読むべき」と評価するのは、キャラクターと共に読者自身の変化も促すような名作だと感じるからだ。
※評価において画力を少し下げているのは、流行の絵柄ではないから。絵で食わず嫌いしている人が結構いるので…。画力でいうとそれはすこぶる高く、非現実な現実世界を完璧に演出している。
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