理解できる殺人
表現力が上手過ぎて怖い
恐怖を感じる一冊でした。殺人を犯す人間の物語ですが思わず共感してしまい、「早くこの人を殺せ」と思う個所が多々ありました。
まず始めに共感を覚えて、早く殺されれば良いのにと願ったのが早季子の両親とKくんです。
早季子の小学生にも関わらず、虐められて生きていくのがもうムリだ。という感情の描写が上手過ぎです。
「わたしは蝋人形、おがくず人形」と繰り返される言葉も、この一文だけで何もできなくて無気力でからっぽな人間という表現が心底現れていました。
コサカさんや裕也を殺した時の感情表現も上手過ぎると思いました。
「うるさい、うるさい、死ねばいいのに」「だったら杏奈のところに行けばいいでしょ!」前後の言動と、たったこれだけの心情ですが、この人をホントに殺したいという感情がとても現れていました。
イライラするのに止められない
早季子がとった行動の中で、Kくんたちにいじめられ両親に虐待され学校を早退した時のことです。
体のキズなどが気になり、保健室には行かなかった早季子の行動には、理解ができずイライラさせられました。
しかし、実際自分が小学生でこんな目に合っていたらと思うと、やはり早季子と同様の行動をするのではないかと、納得してしまいます。
フジコの時も、物をねだってくるクーコを突き放すことが出来ず、自分でなんとかしようとする行動にはイライラしました。
しかし、学校で孤立してりまうのが本当にイヤだったから、どうしようもなかったんだということにも納得できます。
その先も、仕事をしないでパチンコばかりする裕也と別れずにいることや、浮気や子育てなどフジコひとりで苦労を背負っているいる所ではイライラはピークでした。
特に、フジコがどしようもなくなった時に発する「どうしよう。どうしよう」という口癖はイライラを増幅させました。
イライラもさせられますが、主人公の行動が納得できるので、イライラしながらも続きが気になって引き込まれました。
読んでも後悔する「あとがき」
帯にあるとおり、この物語は「はしがき」に始まり「あとがき」までを読まないと後悔するところでした。
ただ、読んでも後悔しました。
負の連鎖は続くのだと思い知らされたからです。
9章でKくんは死なず、早季子は化粧品セールスの女性によって救われた、とあります。
早季子が救われて「良かった」という話で終わりたかったのですが、「あとがき」まで読み進めると、もうひとつの真実が出てきました。
化粧品セールスの女性コサカさんと叔母茂子の闇の部分です。
本当のラスト「あとがき」まで読んで初めて「殺人鬼フジコの衝動」は早季子の物語で始まり、フジコの人生を追い、フジコの生涯を執筆したのち早季子が死んで美也子も殺されてしまう。
「あとがき」のラストは小さな新聞記事です。そして、それはフジコのような殺人鬼の存在を示している文章になっています。
つまり、この一連の物語は「あやつり人形」と化した人間の物語であったと、今後もこの「人形」は茂子たちのために殺人を犯し続けるのだと伝えています。
読み終えて「こんな悲しい話がまだ続くのか。負の連鎖は無くならないのか。」と後悔する「あとがき」でした。
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