未知の世界 競技ダンス
競技ダンスとは何か
我々一般の人からするダンスのイメージは様々である。ヒップホップ系の若者向けのダンスから、なんだか高貴な貴族たちが嗜むような社交ダンス等。このダンスをテーマに扱った作品は少数ながらも存在し、ある種「ハズレ無し」といえるジャンルであると言いたい。その数ある中でもおそらくは最も広い幅の層に受け入れられる作品が本作品であろう。競技ダンスとは、映画「シャル・ウィ・ダンス」でも一斉を風靡した社交ダンスのことであり、一見するとオジサン・オバサン世代の趣味とも思われがちな世界であるが、実に熱く激しい競技であり、「スポーツ」として認知されている。この事自体を知る人も少ないだろうが、演者は息を切らして汗を流すし、それでありながら泥臭くならず、華麗であることが必要とされているといったスポーツなのだ。日本では数年前からフィギュアスケートブームが到来しているが、それに通じるものがあるので今後何かのキッカケで一大ブームに返り咲く可能性があるだろう。
そして本作は、これをクラブ活動として高校生が挑戦していくものである。
登場人物の魅力
主人公はどちらかと言えばパッとしない新一年生。体格も小さく「何か光るものがある」少年ではなかった。そして同じくほんわかと可愛らしいが、幼く内気な同級生の女の子とともに成長していく姿が、多くの人の心をつかむだろう。少年誌ということもあり、努力・友情・勝利という要素は強いが、それは王道であり不快にはならない。またその他の登場人物も非常に魅力的で個性豊か。包容力があり厳しくも優しい三年生の先輩。まだ未熟ではあるが頼もしい二年生、手強いライバルたち。いずれも本作を彩る大切な魅力といえる。
また作画においては、女性たちのスタイルや指先の表現、表情などが非常に色っぽく描かれており、ドレス姿に多くの少年たちは魅了されたことと思う。
本作の弱点
魅力のある登場人物が多かったためか、巻数のわりには主人公よりも先輩たちにスポットが向くことが多く、主人公の心情はそれほど深く描かれていない。ライバルと戦うために猛特訓をする!という展開も案外さらっと描かれており、ガチガチノバトルというものにはならない。主人公が温和な性格だったりすることも影響するのだろうが、この点において物足りなさを感じる人がいるかもしれない。
しかし演出がいい!
主人公は他のダンス作品に見られるような天才系主人公ではない。が、それでも本作品の最後の大舞台となるクイックステップのシーンは鳥肌がたった。胸に熱いものがこみ上げ「おお!」と声を上げそうになるような高揚感を覚えた。凡庸な少年が成長する姿は、スポ根というジャンルの最も大きな魅力であるが、すっと胸に入ってきて、読者にも熱い感動を覚えさせる。
また一方で退くものもいる。元々体の弱い選手ではあるが一流の選手がいるのだが、彼は途中で体力の限界に陥る。その際、パートナーである女性が彼を引き止め、それを静かに受け入れる。しかし彼は舞台を降りることなく、激しい競技の続く中、パートナーと静かに社交ダンスを続けるというシーンがある。姿は美しくもあり、観客を魅了した。ライバルは彼らを認め賞賛する。これは実に気持ちのよい演出であった。
以上が本作のレビューとなるが、ダンス漫画はハズレ無しと言うほどハイクオリティな作品が多く、胸熱展開を望む読者を掴んで話さない。他の作品も是非ご覧あれ。
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