壮大なファンタジーロマンの真髄が味わえる3部作のひとつ
前作「ホビット 思いがけない冒険」に続く物語
前の作品は観たけれども、この「ホビット 竜に奪われた王国」を観たころには内容はすっかり忘れていて、観ていないも同然のような気がする。そもそも「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズは本で読んでその世界観には魅力を感じたのだけれども、いかんせん昔のイギリス英語の翻訳だからか文章が回りくどく、なかなか頭に入ってこないその描写にイライラして読むのを止めた記憶がある。その後映画を観たので、こういうことだったのかと本だけ読んだのではわからなかった頭の中の空白が埋められたような気がした。それのスピンオフ(と呼ぶべきか?)なので、この「ホビット」シリーズが出たときには飛びついたのだけど、実際には「ロード・オブ・ザ・リング」ほどの深さはないように思う。でも深さを感じないかわりに、純粋に娯楽として楽しめるところが多い。今回の「竜に奪われた王国」では、樽に乗って激流を流されながらの戦闘シーンや、竜の支配する城に入ってからの冒険とかあのあたりは、前後関係など何も知らなくとも夢中になれる面白さがある。
オーケンシールドの不思議
彼はドワーフな割りに端正な顔立ちをし(それは甥のキーリにも通じる)、なにか他とは違う雰囲気を醸し出している。だが冒頭の登場シーンはよかったのだが、彼はそもそも王子であるからにはそれなりの器というものが感じられてもいいのだけど、後半ただの恨みにかられたオジサンにしか見えなくなってきた残念感がある。そもそもエレポールの入り口の鍵穴を見つけられなかった時、あきらめが早すぎたように思う。鍵もその辺に捨ててしまうし。なにかもっとこう思慮深さというかそういったものが必要なのではないかというシーンが多々あった。溶かした黄金を流し込みスマウグを固めようとする作戦も立派な口上に比べるとあっさり失敗に終わるし。一人スマウグの寝床に入り込みアーケン石を探してきたビルボを必要もなく疑うところは、この人どうしたのかと思うくらいのダメ差加減だった。
あと湖の町でエレポールに向かうことが統領に見つかってしまったときのとっさの演説がうますぎる。あのうますぎる演説が映画に入っていた気持ちを若干現実に戻したように思う。かなり不自然に感じたシーンだった。
オーランド・ブルームとエヴァンジェリン・リリー
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでもエルフの美しさはよく描写されているが、今回の作品ではほぼ敵のような扱いで、意外な面を見ることができた。オーランド・ブルームのレゴラス王子は完全なハマリ役だろう。あまりハマリすぎると他の役柄をするときに影響がでるかもしれないけど、この役はもう彼以外演じることはできないと思う。オーランド・ブルームの他の作品はもちろん「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズがあまりにも有名だが、私が印象に残っているのは「エリザベスタウン」の彼だ。大失敗して傷つきながらも新しい人生の喜びを見つけていく主人公をリアリティたっぷりに演じている。それに比べたらエルフは感情の浮き沈みよりも、アクションのほうが大変なのかもしれない。決してバタバタしてはいけないし、エルフ特有の身の軽さやその弓づかい、全てに優美さが求められる。それを彼は完璧にこなしている。
対して彼の相手役エヴァンジェリン・リリー。相手役というにはあまり進展もなにもないようだが、この彼女「LOST」でその顔を初めて見た。正直「LOST」の時もなにか演技に深みがないというか、表情もあまり手持ちがないのか何パターンかあるどれかを使って演技しているような、何かそんな感じがした(「LOST」自体はかなりハマって最後のシーズン以外は全部観たのだけれど)。今回はもしかして大抜擢ではないかというような役の位置で、私も彼女を久しぶりに見たものだからなにかこう親のような気持ちになってしまった。久しぶりに彼女を観て思ったことは、手持ちの表情は若干増えたのかもしれないが、その演技の深みのなさは相変わらずだったこと。アクションシーンはうまくやっていたと思う。でもどうしてもその表情の少なさが気になってしまって、キーリに対する気持ちとかもっと出してもいいのではないかと思ったりもしたが、でもこれは彼女にでなく、映画監督に言うべき言葉かもしれない。とはいえこうは言っても、実は私は彼女のことは嫌いではない。
食べ物が意外においしそうなこと
イギリスのダークファンタジーと言えば真っ先に思いつくのが「ハリー・ポッター」シリーズだけど、あの魔法学校の食事はカラフルで可愛らしく量も種類もたっぷりなのだけど、あまりおいしそうには思えない。それに比べて「ホビット」シリーズの食事は粗末で硬そうなものばかりなのに、なぜかおいしそうに見えてしまう。今回冒頭のあたりで、オーケンシールドがバーのようなところで食事をしているシーンがある。皿にのっているのは硬そうなパンと硬そうなチーズとオリーブのようなものが乗っているだけ。彩りもなにもあったものでないのに、かなりおいしそうだった。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでも、葉っぱに包まれたお弁当のようなものがおいしそうだったことを覚えている。この「おいしそうではないのにおいしそうに見える不思議」は他にもある。「マッドマックス」でマックスが食べていたドッグフードやら、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」のキーライムパイやらたくさんある。この「おいしそうでないのにおいしそうに見える」ことは、普通においしそうなものよりも印象に深く残るように思う。
ガンダルフに対する不信感
そもそもこの魔法使い、シリーズ始まって以来すごい!と思ったことがない。そして白なのか灰色なのかはっきりしない。もっと「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズを観ないとだめなのかもしれないが、いつもなぜ気付かない!とか、なぜできない!とかが多すぎて、毎回突っ込んでしまう。今回もそういうシーンはたくさんあったのだけど、一番印象的だったのは、ビルボが指輪をもっていることをガンダルフに告白しようといいかけるシーンがある。ビルボのボケットの中の手にはすでに指輪が転がされているのだけど、口ごもった挙句ごまかしてしまったビルボの言葉にまるっきりだまされてしまっている。武闘派ではないのなら、せめてそのあたりのことはお見通しでないとだめなのではないかと思ったりする。その魔法もスマウグの吐く炎ぐらいのインパクトがあったこともないし、唯一すごいと思ったのはビルボの誕生日にホビット庄でやった花火だけというのは、魔法使いとしてはあまりにもお粗末なような気がする。あと闇の森の前で他にやることがあるとか言って「わしの馬だけ置いておけ」と言ったところは、絶対周りの不信感がすごかったと思う。「ホビット」シリーズ3部作の最後ではそんなガンダルフを見直せるシーンがあったらいいのだけど。
あともう一つガンダルフ自身の評価ではないけど、対峙したサウロンの登場の仕方があまりにも安かった。あれはちょっとないと思う。
次に続く終わり方
今回の映画では激怒したスマウグが湖の町へ向かうところで終わる。怒り狂ったスマウグが行った湖の町には大弓と最後の黒い矢がある。ドワーフたちを助けたバルドはかつてスマウグの鉄のウロコを剥がしたものの殺し損ねたものの末裔だったという展開は個人的に好みでワクワクした。その彼がきっと待っているに違いない次の作品はぜひ観てみたいと思う。
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