くすっと笑えるひと冬の極寒ハートウォーミング
都会青年と天然な田舎町の人びととのひと冬の極寒ハートウォーミング
都会から来た悩みを抱えたひとりの若き脚本家の青年は北海道富良野町へ向かう高速バスに乗っていた。ところが目的地の富良野を目指していたにも関わらず真冬の北海道の大自然の洗礼(猛吹雪)を受けバスは道の途中で立ち往生してしまう。吹雪で交通機関がマヒするのは実は北海道あるあるだが、都会育ちの彼にとっては思いがけないとんだハプニング。そこでひと晩の宿を探してようようたどり着いてしまった北の大地北海道の小さな小さな田舎町。たったひと晩の猛吹雪をやり過ごすだけだったはずなのに、立ち寄った居酒屋でなぜか大歓迎されてしまい、訳も分からぬまま町の人と成り行きで思い切り飲み明かしてしまう。そして記憶が飛んでしまうほど大酒を飲んだらしい挙句の翌朝、彼は何故かアラレもないコスチューム姿になっていて見知らぬ部屋で目が覚める。そして、気付いたら荷物の入った大事なリュックと防寒用のダウンジャケットを紛失していて一文無しになっていた。携帯電話も財布もない。極寒の北海道で寒さをしのぐ防寒着もない。茫然自失になり途方に暮れるも知り合った町の人たちはそんな彼に温かく寝床と仕事を世話してくれるのでありました(彼らにも責任の一端はあるのですが…)リュックとダウンジャケットを見つけるまで仕方なくその町に留まることになり、誘われるまま親しくなった町の人たちの営む小さな便利屋を一緒にやることになってしまう。だかしかし、北海道の田舎町ではヘヴィな不便が大量発生(ほとんどが雪かき)都会ではペンより重いモノは持たない脚本家の彼が毎日真冬の雪国の豪雪地帯の除雪という肉体労働に勤しみがら、次第にこの町で起こる様々な事件や出来事に巻き込まれていく。
個性的な豪華キャストが本気で田舎住まいの北海道人を演じている
ストーリー自体は奇抜なものではないと思うのに、地方の田舎住まいの人たちのおおらかな天然さに振り回される都会の青年のオタオタぶりに思わずくすっと笑いがこぼれる。そしてキャストの俳優陣の豪華なこと。過酷な時期の地方ロケの映画だったので、登場人物が出てくるたびにちょっとびっくりしました。また上手に若手の方とベテラン勢の方を配役していて、監督・脚本の鈴井氏のセンスの良さに感嘆して思わずうなってしまいました。 それと地方が舞台の映画の場合難しいのがその地方の言葉(つまり「方言」)ですが、こちらも皆さん完璧ではないけれど、なかなか皆様上手であります(何様と思われそうなので弁解しますと、当方はリアルに北海道の田舎出身です) 本気で方言を使いまくると何をしゃべっているのかわからなくなるので(ドキュメンタリーなどでは字幕スーパーが出ている時もままあるので…)脚本では程よい使い方に抑えられたのかと思いますが、もともと北海道で活躍されていたTEAM NACSの皆さんは時々スポットで本気レベルの方言をぐいっと織り交ぜてくるので北海道の人たちはそこでちょっと笑みがこぼれるかと思います。都会の方たちはネットで調べて翻訳(?)してみると面白いかもしれません(笑) それと、オープニングテーマソングが人気ロックバンドのストレイテナー「The Place Has No Name」です。ハイセンス!ストレイテナーの皆さん(特にホリエさん)が鈴井さんと親交があるそうです。そしてエンディングテーマソングをなんとロックの大御所スピッツの「雪風」 こんなに豪華にして大丈夫ですか!と思わずまた感嘆の呻き。オープニングからエンドロールまで掴んだハートは逃さないと言わんばかりの大盤振る舞い。鈴井さん、舞台が北海道のど田舎なのに色々ととんでもなく豪華です!!でもどちらも「田舎」という単語とかけ離れてそうなかっこいい曲なんですが不思議とマッチング。真冬の透き通った清涼で凛とした空気のようで映画に美しい花を添えています。
次々に起こる事件と新たに明らかになっていく驚くべき真相・・・
小さな田舎町に起こる様々な事件。仕事に行き詰まり都会から逃れて戻ってきた人。都会から恋人を追いかけてきたキャリアウーマン。本気の恋に落ちる若くてかわいい女子と冴えない熟年オヤジの凸凹カップル。毎夜彼らが集うのは強烈個性のママ(おネエキャラ)が仕切る町で一軒の小さなコスプレ居酒屋。これが高齢化と過疎化に悩む地方の田舎町の苦悩というシビアなリアリティーありつつも、アンリアルっぽい出来事というか程よく明後日の方向に外した笑える話と個性的な登場人物や設定などがミックスされていて、本来、生真面目にテーマにしてしまうと地味で冴えない作品に成りかねない難しい設定なのですが、巧妙に笑いのエッセンスをふりかけているので絶妙に飽きさせることなく物語に入り込んで楽しむことが出来ます。そして、単なるドタバタコメディーに収まることなく、神妙なストーリーも同時進行していくので「この先どうなっていくのだろう?」という先の読めなさも織り交ぜられていてワクワクします。 主人公の青年がこの町にたどり着いて留まることになってしまったのは全て偶然によるアクシデントの産物であったはずなのだけれども…実はそこにも思いがけない人間ドラマがあったりするのであります。ウィリアム・シェイクスピアの『真夏の世の夢』という作品をご存じでしょうか。ひと晩に起きる様々な人たちの織り成す人間ドラマが一匹の妖精の登場でこんがらがって大騒ぎになった挙句最後にはすべてがハッピーエンドに収まる秀逸な喜劇ですが、まるでその作品のような味わいを感じました。これはひと冬の「真冬の夜の夢」ですが。社会的な問題提起も示しつつ、人生とは何かと言うことにも触れつつ、それらを笑いを織り交ぜて表現することで、自分をもって偽らず人生に前向きに向き合うことの大切さや、運命的な人と人との出会いをハートフルに描いている秀逸な作品だと思います。
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