幸せな日常と復讐 - 武士の一分(いちぶん)の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

武士の一分(いちぶん)

4.504.50
映像
4.00
脚本
4.00
キャスト
4.00
音楽
3.50
演出
5.00
感想数
1
観た人
1

幸せな日常と復讐

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
5.0

目次

藤沢周平・山田洋次監督コラボ3部作

小説家藤沢周平と山田洋次監督による時代劇映画3部作である、「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」「武士の一分」は江戸時代の武士の生きざまを描いた映画である。私は、この3作品のおかげで日本映画が好きになった。時代劇にはあまり興味のない方で、テレビの時代劇も特に見ず、水戸黄門でさえよく知らない。そんな私だが、この「武士の一分」をきっかけに、他の2作品も見たくなり、3部作のファンとなったのである。「武士の一分」はやはりキムタクが主演するということで、映画館へ足を運んだ。それまでは、日本の映画はテレビの放送か、DVDで十分だと思っていた。なんて失礼な考えだったのか。そういう意味でもこの作品は大好きな映画の1本でもある。

俳優木村拓哉

元スマップの木村拓哉が時代劇に初主演したのもこの映画の見どころだ。数々の主演ドラマをヒットさせた彼の演技は、いつも自然体なところが魅力的である。きっと彼は私人としても自然体で、自分らしくありたいと飾らない人なんだろう。私は以前から、そんな俳優としての木村拓哉のファンである。今回は江戸時代の武士の役で登場するが、最後の果たし合いの場面では、剣道経験者である彼の腕前を見ることができる。何事にも負けず嫌いだと聞く彼だから、殺陣の場面には力を入れて役作りに励んだに違いない。

つつましい武士の生活を清く描く

下級武士の住まいは平屋のこじんまりとした一軒家であった。小さな庭があって、縁側でつがいの小鳥を飼っている。土間の横に食事をする今でいう居間があり、その奥に床の間のある部屋が続く。こざっぱりと整理された部屋に、夫婦が穏やかに暮らす日常を思い浮かべる。食事の場面では、一汁一菜のお膳が用意され、漬け物でお椀の米粒をきれいにさらえるという仕草を、木村が自然に演じている。土間では、加世が背を向けて用事をしている。余談であるが、加世を演じる壇れいは、宝塚出身女優の中で、最も和服の似合う女優だと私は思う。庭には、洗濯の物干しがある。目が見えなくなった新之丞が、その物干しに頭をぶつけそうになるシーンがある。そばにいた徳平に、新之丞が「今、殺意を感じた」と軽口を叩く。くすっと笑みがこぼれるシーンである。平凡な日々の中にある幸せを、夫婦の暮らし通して山田洋次監督は描いているのだろう。

夫婦愛

武士として生きる意味を見失って葛藤する夫、新之丞に妻の加世は献身的に尽くす。しかし、加世は夫を思うあまり騙されてしまう。最後には妻を離縁した新之丞の誤解は解けるのだが、追いやってしまった妻を戻すことはできない。そこに新之丞の食事を世話する女として、なにもかもを知った徳平が、加世を連れてくる。目の見えない新之丞は、女の作る料理でそれが加世であると気づくのである。この場面が私は一番好きだ。

「武士の一分」私見

この作品が公開されたのは、2006年である。11年も経っていたのかと改めて思う。この映画を見に行った日のことは、はっきり覚えている。先にも触れたが、私は、俳優としてのキムタクファンである。スマップも好きだが、それほどでもなく、でもスマップの中ではやはりキムタク押しになる。彼の仕草には男気を感じる。そして演技は自然体なところが良い。3部作では、「たそがれ清平衛」、「武士の一分」、「隠し剣鬼の爪」の順が私の好みのランクである。残念ながら、真田広之には木村拓哉も負けてしまう。真田には、にじみ出る男らしさと凄みがあった。木村のそれは、当時まだ30代だったのもあろうが、真田に比べると深みが物足りない気がした。3作品ともに幕末の東北の小藩である架空の海坂藩を舞台とし、山形県の庄内藩をモデルにしたとされている。映画を見てから、一度は庄内地方を訪れてみたいと思うようになった。その地方の方言の中で、「~でがんす」という語尾が心地よく聞こえた。脇を取り巻く役者では、徳平を演じる笹野高史がコミカルで良い。新之丞と軽口を叩きあう場面がよくでてくる。ちなみに私は、軽口という言葉をこの映画で初めて知ってから、それを時々使うようになった。桃井かおりが演じる、叔母の波多野以寧も面白い。新之丞が床に伏している時も、ずけずけとあがりこんできて、本当にうっとしがられるが、嫌な感じがしない。明るい雰囲気を山田洋次監督は作りたかったんじゃないかと思う。一方、盲目となった新之丞が果たし合いに向けて相手を倒すため、剣の腕を取り戻そうと道場で修行をする。悲壮感が漂っている。穏やかな暮らしと果たし合い、この正反対の場景を組み合わすところは、「たそがれ清兵衛」とよく似ている。最後に、この映画を見に行った日は、年末の仕事納めの日だったと記憶している。区切りのついた日の夕方に、家とは反対方面の電車に乗って、隣町のショッピングモールにある映画館へ行った。ほっとする映画を見たかったからだ。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

武士の一分(いちぶん)が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ