未来を正確にに見ていたブレードランナー - ブレードランナーの感想

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未来を正確にに見ていたブレードランナー

5.05.0
映像
5.0
脚本
4.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

次に来る時代を確実に予測していた

主人公デッカードが屋台でうどんを注文するシーン。屋台の店主の人種は日本人だ。
アメリカの大都市には様々な人種が行き交っている。人々が扱う言語はベトナム語、ドイツ語、アラビア語など様々。
1982年に公開されたこの映画は、現在のグローバル社会を正確に予測していた。
移民法の改正以来、アメリカは多くの人種を取り込んでは発展を遂げていた。
アップルやグーグルの拠点で知られるカルフォルニア州は、大学の生徒に必ず他国の子供を受け入れるよう州法で制定している。
多様性を確保することが、未来のグローバル経済で生き残るための最も効率的な手段だったのである。
その割を食うように白人達は、アメリカ中央部の田舎の州へと追いやられることになる。それにともなう反動が、トランプ大統領の掲げるアメリカファーストに繋がることになる。
未来的SF都市に必要なのは他民族だとブレードランナーは予測していた。
ちなみにカルフォルニア州に拠点を置くアップルコンピュータが1984年に発表したテレビコマーシャルは、ブレードランナーの監督であるリドリースコットが制作している。

科学信仰の終わり

進歩すれば必ず幸せな未来が訪れると言い続けていたそれまでのSF作品とは違い、ブレードランナーは退廃的未来を描いた草分け的作品となった。
これ以降の作品は、アニメであれSFであれ、ブレードランナーと似たような背景になってしまったのは有名な話だ。
降り続ける酸性雨、搾取されて貧しくなった労働者、ゴミだらけの道路、廃墟みたいな落書きまみれの建物。
神が信じられていた時代に現れた科学は、次の時代の救世主になった。
祈りや神は必要とされなくなり、論理や科学技術を進歩させることが人間が幸福になれる唯一の手段だった。
ところが科学が進歩した現代になっても人間は幸福になれなかった。
環境汚染、核廃棄物、貧富の格差、エネルギーの枯渇、ブレードランナーは科学信仰の終焉も予測していたのである。
70年代、80年代のアメリカは、どこにでも綺麗なハイウェイが通っていて、明るい未来を予感させていたが、現代の田舎のハイウェイはいつまでも修復されることなくボロボロだという。
工場が閉鎖されたデトロイトは、ディスピア世界のような廃墟が広がっている。
もはや現代人は科学が明るい未来をもたらしてくれるとは信じていないが、82年に公開されたブレードランナーの提示した価値観そのままである。

科学信仰の次にやってきたのが、宣伝信仰だ。
ブレードランナーの背景に絶えず映り混んでいる企業名のネオン。
映画を見ているはずなのに、これほどの企業名がしつこく映っていることは82年には珍しいことだった。
飛行船に映し出される「強力わかもと」のコマーシャル動画はとても印象的だ。
どこにいても企業の動画がまとわりついてくる世界観はまさに現代の宣伝地獄時代を予見していたといえる。
ラストシーンのが死にゆくときにでさえ、TDKの広告が激しく背後で輝いている。
科学信仰はモノやお金が大量に溢れている時代のことだった。
それに変わる宣伝信仰とはモノやお金は不足しているが、情報が大量に溢れている時代のことである。
企業や個人は常に自分の人気やイメージを気にして世の中に宣伝を行い続けている。
ブレードランナーのバックグラウンドの中には、次の時代の流行のヒントも隠されていたのである。

無機質な世界の中にいる感情的な人々

SF的世界観の登場人物といえば、クールで無感情で冷酷なのが定番だろう。
現実世界で例えればブラック企業に命令されれば、何の疑問もなく不満も言わずただ黙々と働き続ける労働者のような人物だ。
ただし、この人物像は科学信仰が続いた場合の話だ。
ブレードランナーは科学が崩壊した後の世界を描いている。
ヒロインのレイチェルは自分がレプリカントであることを自覚したとき、情緒たっぷりに泣いてしまう。
ロイバッティも機械人形であるにも関わらず、仲間が死んだときには、自分のことのように悲しむ。
ラストシーンでは、自分の人生を振り返りつつ、涙のような雨の中で悲しげに死んでいく。
レプリカント達は主人公のデッカードよりも感情が豊かに見える。
デッカードが反乱を起こしたのは奴隷労働から解放されたかったからであり、感情が芽生えたからだ。
科学信仰が終わりつつある現実社会、ブラック企業批判が相次ぎ、企業やシステムに使われるだけの生き方は古い価値観になってしまった。
個人の感情や気分が最も大切にされる時代。国家や企業や個人は誰かの感情や気分を損ねると、生きていくことはできない。
感情や気分は、論理や科学からはほど遠い存在だが、ブレードランナーでは何度もこのモチーフを繰り返している。
人間よりも人間らしいレプリカント達が示してきたのは、科学の次の時代の到来を告げるパラダイムシフトだったのかもしれない。

次世代SFの金字塔として名高いブレードランナーに、ようやく我々の社会が追いついてきた。
この映画を注意深く見ていくと、自分達が目指すべき道がたくさん示されていることに気づく。

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他のレビュアーの感想・評価

間違いなくSF映画の金字塔。

原作を読んだ後に、それとは知らずに映画を見た。原作が非常にくたびれた荒廃した世界で主人公もかっこよくないイメージだったので、見始めてすぐには気づかなかった。青白い光、息苦しい湿った空気。閉塞感のある世界。ハリソン・フォードはカッコいいが。あ、でも、ハリソンフォードもカッコいいけど、ルドガー・ハウアーの美しさは群を抜いている。ヴァンゲリスの音楽もいい。原作とはずいぶん印象は違うが、レイチェルの迷い・デッカードの記憶、そんなシーンを見ると確かに原作というかフィリップ・K・ディックの世界は間違いなく踏襲はしているなと。記憶と現実、リアルとバーチャルのねじれ感。裏返って裏返って・・・って感じ?原作では重要な位置づけだったマーサー教の部分はばっさりカット。それはそれで良かったと思う。マーサー教はこの作品にはそぐっていないし、テーマが分散してしまうから。当時の映画興行的には、あまり成功とは言えなか...この感想を読む

4.54.5
  • はるごもりはるごもり
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