誰もが持つ人間の欠陥に付き合える主人公の素晴らしさ
西尾維新さんの作品は言葉遊びによるコメディの感じが強いけれど、これは少し違う!
西尾維新さんの作品の一番の笑いどころは言葉遊びだと思っていますが、本作はその笑いどころが少な目ですね。決して笑えない訳ではありませんが、主人公が監禁されているという状況下で笑うに笑えないと言った感じです。作中のほとんどが監禁シーンですが、小学生による行動であるため所々に隙があり、そこが序盤はかわいらしさとし見えて好きです。しかし少女の不十分である内面が見えてくると全体的に不気味な印象の一作になりました。少女自身や少女の家庭環境の抱える欠陥を描くこの作品は西尾維新さんの特色を活かした、今の社会の歪さを表した問題提起の作品ともいえると思います。
少女の欠陥は誰もが持つもの。
少女は行動の順位づけを至上としていて、友人の死を目の当たりにしてもそれは揺らぎません。ここまでに至ると現実では日常生活に支障をきたしますが、軽度の人なら多くいることでしょう。少女自身の異常さに周囲がついて行けなくなり、少女が孤立してしまうのは自明のように思います。素晴しいのは主人公で、当初は自棄のように付き合っているのだろうと思えましたが、最終的には少女を救うに至るという感動しきりです。主人公としては少女の両親の死に様を見てしまったり、延々と監禁されたりと嫌なことばかりであったのに、少女を見捨てるという選択を最後までしないというのはそう真似できるものではありません。少女自身や少女の家族のように人は誰しも少なからず問題を抱えていますが、本作の主人公のように寄り添うだけでも力になれること、生きる希望を与えられるのだということを再認識しました。
とりあえず登場人物が少ない利点。
基本的に登場するのは少女と語り部たる主人公で、他は出てきても死んでいるかすぐに死ぬかという感じでした。よってキャラクターの多さによる混乱が発生しないので大変助かりました。それにすべての登場人物との関係性を濃く描写するというより、主人公から少女に対する感情の変化を細かく描写されているので、感情移入し難いシチュエーションながら徐々に物語に入り込み少女のことを深く考えるようになりました。主人公はかなりの楽天家で自分のことはほぼ後回しにしていますが、少女のことを気にかけていることがよく伝わりました。主人公と少女が共に過ごした時間は短いですが、エピローグで少女が主人公が監禁中に話して聞かせた物語が希望となったということを読むと、離れていた間の時間さえも二人の絆を育んだのだと思えました。またこのエピソードで離れていた間のことも想像できるほどの作中の描写が深いものだと思います。
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