時代を突き破った
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舞城王太郎に芥川賞を当たることのできない日本文壇
結局芥川賞ってのは、出版業界の戦略的な部分が影響するか、文壇にしがみついた大御所(笑)がその権威性にしがみつくだけの賞に成り下がってしまったんだな、という下馬評に信ぴょう性を持たせる結果となってしまったのが、本作「好き好き大好き超愛している」の落選という事実であろう。
過去幾度も、当選確実と言われた作品が、なぜか候補止まりということはあったように思う。例えば、好みはさておき、いまやノーベル賞と引き合いに出される村上春樹も、結局デビュー作から数作、候補とされるも受賞に至らず、「村上春樹に芥川賞をやれなかったのは文学界の汚点」とも称される事態である。しかも、その作品がおもしろくないのであったなら仕方ないところではあるが、どう考えてもシンプルに面白いし、ただ、その当時の文学界の主流作風とは違ったアメリカンスタイルであったというだけで、結果、昭和のきな臭い日本では評価を受けることはできなかったというだけなのだ。
その再来と言えるのが、舞城王太郎の登場であろう。メフィストという、文学界において一線を画するノージャンル賞から突如として現れた新星は、インターネット社会の中、文字・文学・本・小説というものがどういった形で生き残っていくのか、という問いに対して、それとの調和を図りつつも、攻撃的な文学性を内在させるという「新しい形」での答えを体現した救世主的存在ではなかろうか。純文学でありながら、エンタメ要素を存分に備えているし、エンタメ要素ばかりかと思えば、言葉のリズム・文章の抑揚など、少し音読してみればその流れの極めて日本的謙虚さを兼ね備えていることなど、誰にも明らかなことである。
舞城王太郎が芥川賞を受賞できないのは仕方ない
本作が候補になった際、権威派サイドのクソ選考委員どもがそろいもそろってネガティブ評価を下していて、ああどうせが偉そうにのたまいやがってクソちんこ野郎共め、とか思っておったのですが、そりゃあ70歳そこいらのおじいちゃんたちには到底理解できたものではないな、というのがとりあえずの感想。現実的な意味において、こういった変態性の高い、というか確実に新しい、少なくとも古いものからは逸脱したものを簡単に理解できるおじいちゃんなど、もし本当に存在したなら、それは文壇の現状に対して極めて逆説的だし、こういった場面で、「世代交代」というものが生まれ、社会は進んでいくのだと思う。
単純に、例えば本作では、急に文字がでかく描かれるシーンがいくつかあるが、こういったものから、そこにある「何か熱い感情」というものを読み取ろうとするのは、やはりアニメとか、そういった視覚的な方向からのメッセージ性というものを幼い頃から受けてきた比較的若い世代の人間に限られてしまうだろう。
また、「超愛してる」なんてタイトルも、そもそも古い側の人間からすれば正しい日本語ではないし、これを評価できる人間からすると、「あえて今風なばかっぽいタイトルをつけてるけど、中身は本格的に感動できる作品だし、そういったギャップが最高」ということになるのだが、古い方たちからすると、そういったギャップを楽しむための入り口であるタイトルの時点で、ただでさえひどいと感じているであろう最近の若者文化に対するアレルギー的感覚から、一切を受け付けないでいるのだと思う。本当に残念なことだけれど。
文学が進化する姿を、時代との関係で体現しているこの作品。そして、グッチ裕三が文学性を備える日がくるとは!
ただ、若いはずの私からしても、俺やら僕やらがティン子的なもの刺されたり抜いたり抜かれたりが忙しい本作に関して、「意味不明・・・」と言わざるをえない部分があるのもまた事実だ。
そこでストップしてしまうのか、あるいは、意味不明だが、とにかく暴力的に、こちらサイドにいろんなものを投げかけまくってる体裁に小気味良さを感じるか、もしくは読者各人の所有する的外れな想いとかに微妙にひっかけられる感じが読めた感をくすぐってくれて、結果的に我々の心臓を右に左に振りまくる総合エンターテイメント的な力を備えていると言えるのか、完全に読者の持っている性質に委ねる部分が大きいのだと思う。
ある本を読んだ時に、「ふむふむ、これはこうで、こういった伏線があって・・・」などという客観的なレビューがありふれる作品というのは、結局誰しもに客観的評価を許してしまっているという意味において、極めて教科書的なものでしかないのである。「好き好き大好き超愛してるとか、タイトルとして成立してんの?」「超とか、なんでちょっと90年代のルーズソックス時代ひきずってんの?」のような、昭和の人間からすれば新しく、かつ、今の若者からすれば少し気恥ずかしさの残る古臭さを備えた超時空的なタイトルからくりなされる天才的作品、「グッチ裕三」という語感をこれほどまでに文学性に消化させるものはないであろう現代の秀作は、今後しばらくは表れないだろうと確信せざるを得ないのが、悲しさの残る点である。
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