芥川龍之介が描いた人間
芥川龍之介の作品特徴
芥川龍之介は近代の代表的な作家のひとりです。
芥川の作品の特徴として、題材を古典文学にするという点があげられます。今昔物語や源氏物語などの古典文学作品を原点とし、芥川流に書き換えて表現されています。代表作の『羅生門』や『鼻』も古典文学が原点です。
古典文学には複雑な心理などはなく、野性的な人間像が描かれています。芥川が古典作品を題材とするのは、古典文学にある「野生的な美」に魅せられたからだと言われてます。
芥川は文学で、人間の内面を書くというのも特徴です。芥川が人間の内面を描こうとした理由は、時代が関係していると考えられます。
芥川が生きていた時代は近代化がすすんでいた日本です。近代は機械が発達したことで生活が楽に豊かになっていった時代です。しかし、同時に人の大切さが忘れられ、これまで築いてきた民俗独自の文化が失われていった時代でもあります。
そんな近代時代は、「自己」が重要視されています。自分はどのような人間なのか、人間の本質はどのようなものなのかなど、人の内面に注目し自分と向き合うことが重要だという考えが広まりました。芥川もこの考えに共感し、文学で人間を表現しようとしたと考えられます。
『羅生門』のテーマ
『羅生門』をよみ、この作品のテーマはエゴイズムだと思いました。仕事を失い、自分の道がわからなくなった下人が自己発見をすることが描かれているのだと感じました。原点は『今昔物語』の巻二十九にある話なのですが、この話では下人にあたる男がはじめから盗人です。しかし、芥川の『羅生門』では下人に書き換えられているため、下人から盗人への変化を描きたかったのだと考えられます。自己発見をした下人が悪の道に走るという点が人間の本質を表していると感じました。生命がなくなりそうな状態では、綺麗事を言うことはできず、自分の損得感情で動いてしまうのだと思いました。
また、舞台が門という点が重要だと思います。門はこちら側と向こう側をわけるものであるため、異界につなぐものという考えがあり、古くから特別なものでした。下人は老婆との出会いで、これまでの考えを捨て生まれ変わります。門を超えた下人はこれまでとは全く違う生き方をしているのだと思います。このある状態から変化したことを強調させるために舞台を門にしたのだと考えられます。
『羅生門』は芥川が大失恋した後に書かれた作品です。芥川は結婚まで考えていた相手がいましたが、芥川側の家人の反対により恋は成就しなかったとされています。この家人たちの反対理由は、相手の女性が非嫡出子であったからだと言われています。この経験が『羅生門』を書くきっかけになっているのではないかと考えられます。
『鼻』のテーマ
原点は『今昔物語』の巻二十八にあります。この原点とくらべて、『鼻』は禅智内供の心理描写がおおいと感じました。また、禅智内供が人の意見を常に気にするという点から自己確立の問題が描かれているのだと思いました。
禅智内供の鼻は五六寸あると書かれています。一寸が3.03cmなので五六寸というのは約15〜18cmだと考えられます。単純に邪魔になるので短くしたいという気持ちはとてもわかると思いました。しかし、禅智内供は鼻を短くする理由が邪魔になるからということよりも、人に馬鹿にされるからという理由がおおきいです。自分の意見より人の意見を重要視してしまう姿が描かれているのだと思います。
このことは、鼻が短くなった禅智内供の行動でもわかります。はじめは鼻が短くなったことで過ごしやすくなったと喜びますが、鼻が短くなってもなぜか人に笑われます。禅智内供はこのことをとても気にして、最後には鼻を最初の長い鼻に戻してしまいます。
禅智内供は自分を他人のなかに見出していて、他人の評価が重要なのだと感じました。このことは、現代にも言えることではないかと思います。他人の評価がよいと出世し、また、その評価をよくするために自分をつくる姿は現代でもよく見られることです。
禅智内供は他人の意見を重要視したために、最後には過ごしにくい長い鼻になってしまいます。このことから、芥川は、他人の評価を気にし過ぎると過ごしにくいということを表現しているのだと感じました。
また、禅智内供は僧侶であるという点も重要であると思います。僧侶は一般的に修行により、人間の欲を捨てた人たちとされています。そのため、本来なら他人の評価など気にしないはずです。しかし、禅智内供は他人の意見に振り回されてしまっています。このことから、他人からの評価は修行をして欲を捨てたとされる人でも惑わされてしまう、大きなものだということがわかります。
大きく醜くなっている部位が鼻であることは、鼻の位置に関係していると考えます。顔はその人物を象徴するところです。その中心にある鼻が大きく醜いとその人自体の象徴になってしまうのだと思いました。
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