緑葉を食い尽くす芋虫が人間なんだとお叱りを受ける映画サルカニ合戦
高畑勲監督の魅力
宮崎駿監督とは違い、物語の本筋を初めから示してくれています。言うなれば高畑勲監督は一人称での進め方で、宮崎駿監督は三人称の描き方だと私は思います。今回の主役は狸であって、自然破壊を進め自分たちの世界を広げようとする人間と敵対する映画です。しかし、人間界のリサーチをしつつ、ハンバーガーを美味い美味いと頬張ったり、人間を滅すると意気込んでいたものの、人間がいなくなった世界の不便さにも憂いを馳せたり、狸らしからぬ人間のような気持ちが描かれていて、作中数人の死者が出ている映画なのに、どこか安心して観れる映画になっています。環境保護や自然との共存は宮崎駿監督もナウシカやもののけ姫で描いています。しかし、宮崎駿監督が作品を手がけると、観る側も若干の覚悟のようなものを持たなければいけないようなきもちになります。作品の流れとしては、悲惨な出来事が人間側で起こって、それは何故か原因を追求していくと、結果人間たちが自分で撒いた種が原因の災いであった、という流ればかりです。人間側を絶対悪にして描かれているように思います。しかし、高畑勲監督の作品の狸たちは、人間がいることで受けられる恩恵を認識し、そしてそれを天秤にかけて揺らぎます。もし人間が一人もいなくなったらハンバーガーが食べられなくなる、という事実に戸惑います。それを振り切るほどの憎しみをこの狸たちは持っていません。人間とは闘いますが、それも不毛だと悟ります。そして共生へと進んでいきます。この狸たちの進化はすごいなあと。平成だからか、とも思いましたが、優しく説き伏せるような作品を手がけるのが高畑勲監督なんだなあと思いました。
労働運動の延長作品と言われていますが、
私はバブルが弾けた時代に産まれたので、その運動がどういった趣旨で行われ、どれだけ深刻であったのかということはわかりません。ですが、強制されることに対して抵抗をすることはわかります。他の方の作品レビューを観ても、やはり監督自身の生い立ちが深く影響されていると評価されています。薄っすらと歴史をなぞっただけなので詳しくはわかりませんが、運動を起こせば何かが変わると信じられていた時代、工事の邪魔をして抵抗を見せれば食い止められると信じた狸たちの運動が似ているというのはとても理解できます。結局、大きな波に飲み込まれてしまえば、あちこちで起こる反発は大した影響力を持たないのだなあと。無抵抗のまま従わされるのは癪であり、自分たちの意思を示したいと思うものもいれば、もはや自分たちの力が到底及ばないことを悟り、流れに従うものもいます。最後のシーンで、狸たちも、破壊された自然で残された環境の中生きていこうとするもの、人間に化けて人間としての道を歩むものと分かれます。運動の沈静化とともに活動をしていたものの行く末を描いているようだと仰っている方がいます。すごい考察力だなあと驚きました。そこまで深く考えず、人間と狸の可愛くも悲しい合戦だと思っていたので、調べてみてより考えが深くなりました。
新しいものを手にする時は何かを諦める時
テレビの料理番組での天ぷらを見つめる狸たちの愛らしさ、ハンバーガーを頬張り何故集会を開いているのか一瞬忘れてしまう狸たちの純粋さ。工事現場で死者を出す働きをした権太はもし大怪我をしなければ何処まで抵抗し続けたのでしょう。体力気力が尽きるまで一緒に活動をしてくれる仲間は最後まで権太と手を取り合って人を殺し続けるでしょうか。できる限界まで来たら、人間との共生を憂いて生きる気力も失うのでしょうか。もし化け学も何も持たない普通の狸なら、制限された山で暮らしながら餌を求めて人間の生活圏まで下りてくるでしょうか。共生の意味が私にはいまいちしっくり来ません。実際、狸の生活を壊しているのですから、人間は畑を荒らされようが文句は言えないはずなんです。しかし、荒らされてしまった人間が直接狸の領域を侵したわけではなく、空いている土地に住んでいるだけでその責任を一身に背負うのは間違っていると思います。実際に空き家も多く描かれていましたし、その境目を再び動かしては行けない、そのルールを守ってこその共生だと思います。どうして強い方が弱い方へと度を越す攻め方しかしないのでしょうか。不思議でなりません。民主主義とは、という話になって来そうなのでもうこれ以上言いませんが、狸が泣きをみて、しかし進化するものも現れていることから、いつか猿の惑星のような狸の逆襲劇が始まるんじゃないかと。
日本昔話のような親しみを感じます
他のレビューを拝見しても、子どもでもわかりやすいような復讐劇で、結果は負けてしまいますが、日本昔話のような親しみを感じます。私はサルカニ合戦に似ているなあと少し思いました。猿は意地悪で一方的で、しかし最後は臼に潰されて死んでしまいます。序盤はこの流れで狸は人間を事故死させます。似ているなあと、絵本を見ているような錯覚がありました。悪いことをしては必ず自分にも返ってくるという教えのようですが、相手に悪気がないと、エンドレスで終わりのない争いになってしまうんだなあと、絵本のようにはいかない世の中の成り立ちを見た気がしました。
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