安直な名前のただの少女漫画と思いきや。 - きみはペットの感想

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きみはペット

4.704.70
画力
4.40
ストーリー
4.60
キャラクター
4.60
設定
4.60
演出
4.50
感想数
5
読んだ人
11

安直な名前のただの少女漫画と思いきや。

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.5

目次

攻撃され続けるエリート女性のつらさ

東大出でしかもその上ハーバード大卒のヒロインが、疲れた仕事の帰り道に偶然ダンボールに入った美少年を拾う…という、なにこのベタな少女マンガは?的に始まるこの漫画は、読み進めるにつれ、それだけにとどまらないことに気づくのにそれほど時間はかからない。このあたりの話の展開は、小川彌生の書くきれいな画風には似つかわしくないくらい(失礼かもしれないけど)内容はヘビーなような気がする。まず主人公であるスミレはなにしろ自らが高身長、高収入、高学歴。ついでに美人。そんな彼女が付き合った相手は、印刷部の吉田くん。もちろん身長も収入も学歴も彼女より下。それでも彼女はうまく言っていると思っていたのに、彼は普通の女の子と浮気して妊娠させて破局。それでも彼女は気丈にふるまっていたけれど、気づいているのは「社会的に上というだけで悪者になるわけね」。このセリフはよみながらかなりずどんと落ちた。女性の幸せには学歴もなにもいらないのか。吉田くんのいう「彼女(浮気相手)といるほうが楽なんだ」。これは浮気して逃げた男としては最低なセリフだろう。怒りを表さないスミレに、なんで?とは思ったけれど、さほど悲しんでないわよという顔をするほうがこの手合いには聞くのかと思ったり(「泣いて暮らしているように見える?」の描写は気持ちよかった。)関係ないけれど、この漫画には名言と言えるものが多数でてくる。それを読んで感じるのも、この漫画の醍醐味のひとつ。
こういった描写はこのあたりよくでてくる。スミレにミスを指摘された契約社員が(この彼女はあとではうんと成長して、いい女性になる)、あえて社食でスミレに泣きながら謝るところ。それを見かけた上司が、「彼女は君と違って弱いんだから」などという。スミレはこの時点でいったいどれほどのストレスを抱えていたのか考えると、一介のOLだった私が言うのもなんだけれど。逆に胃が痛くなるような思いさえする(ちなみにスミレは胃弱である)。その生活にはいってきたダンボールに入った美少年モモは、実生活にはなんの役にも立たない、ただ可愛いだけの生き物。その「ペット」呼ぶべきものかもしれないが、その彼にスミレがどれほど癒されたのか、想像には難くない。

彼氏とペット両方手に入れたら。

そしてスミレには彼氏がいる。その彼氏に「ペットとして男の子を一人飼っている」などと言い出せるはずもなく…。それに彼女は、その彼氏、蓮實くんにはそれどころか、デート中に豆ができたことさえも言えない。その気持ちはとてもよくわかる。好きで好きでしょうがない相手とデートしているときに、そんな格好悪いことは言えるもんじゃない。(豆しかり、トイレしかり)。それはでもスミレがそれだけ蓮實くんのことを好きな証拠。それがありのままのスミレちゃんじゃないのというモモのセリフは、私もそんなことを言ってもらいたいと思ってしまうくらい愛情深いものに感じた。
もともとスミレはペット以外に心をなかなか開くことができない人だけれども、別に周りにいい格好をしたいとかそんなんでなく、ただただ言えないだけなのに、人はそれを見て、冷たい人だと誤解する。そうでないとあえて無理に振舞っても付け焼き刃のそれがうまくいくはずもなく…。その悪循環を打ち破ってくれたのがスミレにとってのモモだったんだろう。彼にであってスミレはどんどん変わっていく。きつい物言いも、険しい顔も。家に帰って自分以外の生き物がいることがこれほど劇的な変化をもたらすのかと思うほどに。もちろんそれを彼氏にいえるはずもなく、ペットを飼っている前提であるけれど、それはあくまで「犬」であり、そのために近所に住む幼馴染ユリちゃんにわざわざ、蓮實くんがくるときにはミック(犬)を借りにいっている。このあたりはかなり面白い。
そして蓮實くんは、3高である上に、性格も素晴らしく良い。多少思い込みが激しいところもあるけれど、十分愛すべき人物である。だから難しい。

「ペット」のモモと「現実」のモモ

もともとモモは幼少からバレエを志すダンサー。出会いの妙さから、スミレは「甘えないで」だのと仕事してる大変さを前面に出していたけれど、その大変さはモモも変わらなかった。「甘えてたのは私だったね」なんてスミレの性格ですんなりいえるところが、モモを信頼していたからこそのような気もする。新聞社のなかで重要なポストに移動したときも、伊丹(イヤミ)部長にイヤミを言われたときも、瓜山さんと言い合いしてしまったときも、モモは常にスミレに寄り添う。しかも彼は、本当にペットとして一緒に暮らし始めた早いうちからスミレのことを愛していた…なんて、読み手はそれにあとから気づくのだけれど、その切なさは考えるとつらすぎて。好きな女性が好きな男性と来ていく服の相談とか、電話でどういったらいいかアドバイスしたりとか。スミレちゃんはもちろんそのときはそれに気づいてないわけだけど、本当、「そりゃないぜ、ベイビー」だって。
あと、紆余曲折を経て二人が結婚しますが、そのシーン。モモがスミレを抱きとめるあの表情は、完全にペットではなく一人の立派な男。素晴らしい。小川彌生さん、絵うますぎ。

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