大河ファンタジー『アルスラーン戦記』の振り返り考察レビュー - アルスラーン戦記の感想

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アルスラーン戦記

4.334.33
画力
4.33
ストーリー
4.83
キャラクター
4.50
設定
4.17
演出
3.83
感想数
3
読んだ人
4

大河ファンタジー『アルスラーン戦記』の振り返り考察レビュー

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

現実にも通ずる名言とアルスラーンの姿勢

奴隷制度と宗教問題のあり方について問題定義する場面が多々見受けられるアルスラーン戦記。

主人公のアルスラーンはパルスの王子としてこの問題を解決すべく苦悩するわけですが、戦略の師・ナルサスに言われた言葉が、その後のアルスラーンの在り方を大きく変える事になります。

ナルサス「蛮人は、他人にも大切なものがあるというのを理解しないのです。」

そう告げられたアルスラーンは、相手を理解する事の本当の意味を理解します。押し付けの正義ではなく、互いに理解し尊重しあう事が解決の糸口になる事を、ナルサスの助言から察したのでしょう。

これは現実社会の人権問題や宗教問題にも通ずるものがあると、私は思います。つい目をつむってしまう不都合な現実や、自分の問題を逃避して他人を蔑んでしまう人の愚かさ。それに気づかせてくれるアルスラーン戦記だからこそ、娯楽歴史作品としても非常に魅力的なのです。

また、身分に奢る事なく自分と他者を平等に扱うアルスラーンの様は、一部で「王子らしくない」と言われていました。

より良い国づくりを目指す彼は、驚くことに母国を蹂躙したルシタニアが信仰するイアルダボート教典に目を通します。その姿を偶然目にした直後、呆れつつもどこか楽しそうな表情を浮かべていたのはギーヴでした。王族を毛嫌いするギーヴが寛大な心を持つアルスラーンに主君の器を見出し始めたシーンでもありますが、これが何とも感慨深い。未知のものを理解し、共存しようとする姿勢や心の強さが美しく描かれています。

荒川弘の画力が冴え渡る!馬の表情から見る逃走劇の過酷さ

アトロパテネ大戦の敗北後からペシャワール城塞にたどり着くまで、息つく暇もない逃走劇を繰り広げたアルスラーン一行。まだ子供であるアルスラーンやエラムはともかく、同行する大人達のハイスペックさを見せつけられ「意外と楽な逃走劇なのではないか」と思ってしまう場面がありました。しかしアルスラーン一行が乗る馬の表情を見ると、どれだけ過酷な逃走劇であったか、パルスの広大な土地を駆け回っていたかが、手に取るように分かります。

例えば敵に追撃される最中、アルスラーン達の表情にまだ少し余裕がある中で、馬達は息を荒げ、見るからに疲労困憊している様子が描かれていました。それが痛々しくも面白い。主人公よりも馬が感情表現豊かな漫画が、今まであったでしょうか?少なくとも、私は知りません。

人物でもなくセリフでもなく、馬の表情から状態の過酷さを描くオールマイティな荒川弘の画力が遺憾なく発揮されている点でも、アルスラーン戦記は田中芳樹×荒川弘の代表作と言えるでしょう。

シャブラングが主人と同じく無双している面白さ

ナルサスに先んじてペシャワール城へ向かう途中、合流したファランギースの馬を見たギーヴは以下のようなことを口にしました。

ギーヴ「ファランギース殿の馬は少々疲れているようだ。一緒に俺の馬に乗らないか。」

一見、ギーヴがいつものようにファランギースを口説いているだけに見えるのですが、確かにファランギースの馬は、並んで歩を進めていたギーヴやアルスラーンの馬よりも疲れた様子でした。事実、散り散りになった際に一番猛攻を浴びたのはダリューン・ファランギース組だったとされます。

一方、ファランギースと同行していたダリューンの愛馬・シャブラングはというと、引き続きナルサスの捜索に駆り出されたにも関わらず、以前と変わらぬ様子で荒野を駆けていました。この通常馬とシャブラングの対比は、シャブラングが名実共に「名馬」である事を象徴する重要なシーンだと思うのです。そういった何気ない発見の面白さも、アルスラーン戦記を読み返してしまう理由の一つかもしれませんね。

ダリューンのあからさまなからかいは過去の仕返し?

「ナルサスの情婦」を自称するアルフリードに翻弄される親友の姿を面白がっていたダリューンですが、以前、これと真逆の立場で似たような事がありました。

ナルサスの山荘を訪れた夜、「セリカにいい女はいたか」と質問されたダリューンが、何やらはぐらかしていたあのシーンです。

ダリューンの反応から察するに、おそらくいい女が居たのでしょう。しかし今のダリューンがアルスラーンの臣下である事を第一にしている以上、「いい女」とはそれ以上の関係に発展しなかったものと思われます。少なくとも、好んで語るような件ではなかったはずです。

言ってみればナルサスはダリューンが踏み込んで欲しくないと思った所に土足で上がり込んだ訳ですから、自業自得!因果応報です。

ダリューンの異常なニヤニヤ顔は「いい女」の仕返しだったのかと思うと、また違った楽しみ方が出来るようになりますよ。

舞台になっていない国の数だけ、物語が広がる!

6巻現在で国名が登場しているのは、パルス、ルシタニア、マルヤム、シンドゥラ、トゥラーン、チュルク、ミスラ、セリカの8つ。この内パルス、シンドゥラを中心としたエピソードがありますが、その他の国は物語の舞台として未使用のままになっています。

またカシャーン城塞を脱出した直後にペシャワールへ向かう事になりましたが、この時、もうひとつの選択肢としてパルスの港町・ギランの名が挙がっていました。

アルスラーンが向かう先々で新たなドラマが繰り広げられて来た経緯からも、この先舞台となる新天地で新たな物語が繰り広げられる事が予想されます。

着実に力をつけていく一方で、それと比例するように増えていく敵勢力。物語で異彩を放つ蛇王ザッハークらの取り巻きが暗躍しているのを含め、アルスラーンたちの動向と今後の活躍に、期待せざるを得ません。

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