音楽を通して人間のグレーゾーンを巧みに描く
衝撃的な始まり
一番印象的なのが、最初の1巻だと思います。普通お互いに幸せ~な気持ちから入るのに、完全なるマイナスからのスタート。アキは自分の人生に絶望と焦燥感を感じながら、音楽ではない何かを求めてその辺にいたリコに声をかけた。リコは今のバンド一色の高校生活を楽しんでいるだけの普通の女の子。出会いは本当に奇跡みたいな偶然のすれ違いでした。
一目惚れって信じますか?
そんなナンパ言葉ってないですよね…リアルに言われたらなんだこいつ、って思うけど、アキぐらいかっこいいひとから声かけられたら、リコみたいな純朴な子はついていってしまいそう…そして簡単についていく…でも、アキの鼻歌にリコのほうも震えるほど心が動いていたというダブルの一目惚れ(仮)。ただ女子なら一度ならそういうことを妄想してしまうものだと思うので、すごくよかったと思います。そしてアキの黒いイメージの描写と、リコのまだ何も知らないまま付き合うことを決めた白いイメージの描写…この対照的で年齢差もあるこの二人が、これからいったいどうするんだろう…?というインパクトが抜群でしたね。だいたいこの漫画を描いている青木先生は、他のシリーズでもエロ要素と人の嫌なところを正直出しているのですが、今回の物語でもばっちりたっぷりにその要素が出ています。
そして、リコと高樹プロデューサーの出会い方…なんでこんな印象的な出会いをこんな上手に表現できるんでしょう…そしてロート製薬というナイスチョイス!
グレーでありながら複雑な愛を抱えている
いろいろな関係性が複雑に絡み合い、気持ちもすごく複雑で優柔不断なものが多いのが特徴的です。でもそれでも離れられない…葛藤がそれぞれに出ています。まっすぐなのがリコぐらいなものです。
アキと高樹の関係性は、最初の数巻を読んでいるだけじゃアキへの愛や過保護ってどういうこと?って感じなんですが、どんどん読み進めていくと、高樹の抱える気持ちが見えてきてアキをすごくすごく、宝物にしているのがわかってきます。音楽だけじゃ売れないということがわかっているからこそ、悪役になってでも自分が信じた才能の芽は必ずヒットへと導いてみせる。そんな強さがわかってくるので、苦しいですね。好きだ~!!っていう愛だけじゃないんだってことを、このマンガでは教えてくれています。幼くて、もっと欲望にまみれた感じの想いに、理性だったり社会の嫌なものだったり、いろんなものがぐちゃぐちゃに絡んで本質を見えなくしていく…そんな葛藤が苦しんだけど、どうにか収拾つけてほしくてどんどん読み進めてしまいます。どこかにハッピーを求めて。
アキと心也もそうですね。お互いが、お互いの立場にひどく嫉妬している。才能と努力。一緒のようで交わることのないものを対極において、対立しているようで惹かれあっているのが伝わってきます。それでもやっぱり心也よりはアキの複雑な気持ちを応援したくなりますけどね。アキが辛くてどうしようもないときほど、いい歌をかく…辛いときほどいい歌をかくってどんだけせつないの。でも人生みたい。辛いことがないと愛がわかんないもんね。
ユウちゃん、ソーちゃんいてこそのリコ
高樹さんの若いときのグループ、クリュードプレイというグループ、そしてマッシュたちのグループ。いろいろな時代を越えて、それぞれが抱えてきた闇と光が、マッシュたちの新しいバンドにどう反映されていくのか。これはこれからも見どころになってくると思います。何しろまだ完結はしていないので。
現代っ子は、勘がよく、やさしいですね。女子がいるグループなので自然とそうなるのかもしれないです。男ばっかりだとまっすぐで熱くても後かっら収拾つかないことが多いけど、女子がいるからいいところにおちつくというか。そして、意外と全然馬鹿じゃない。リコはアキが音楽をやっている人かもと気づいていたし、子どもなりに大人を思いやる力・そして若いからこそのまっすぐな気持ちを持っている。ユウちゃんはリコしか見えてないけど、引き際もわかっている男の子。そして偉大なソーちゃんはまとめ役・ブレーンとしていなくてはならない存在。ぽちゃっとして優しそうなのに、ズバッと言えて支えにもなってくれて、どんだけかっこいいキャラ!イケメンだったら許されなかったくらいです。なのでキャラ設定も秀逸だと言えると思います。
テーマにもなっていると思うのですが、「音楽が楽しくて、音楽がやりたくて、仲間と楽しくい続けたいだけでは、絶対に生き残れない。」という音楽の世界。才能だけでも、努力だけでも、絶対に手に入らないもの。それをリアルに伝えてくれている気がします。出会いとタイミング、運も、ルックスも、音楽の才能も…全部を兼ね備えている人は決していない。だけど、やり続けるならみんながいるから作れるものを作ろう。誰一人も欠けては絶対に足りないはずだから。そう信じたいっていう気持ちが泣けます。
リコ&アキにとにかく幸せになってもらいたい
まだ完結していないからこそ言えますが、もう本当に、とにかくリコとアキには絶対幸せになってもらいたいです。最高の歌声を持つリコ、最高の作曲能力を持つアキ。だけど出会いには音楽がなかった…泣ける…もう応援せずにはいられません。最初の出会いは、はっきり言って全部を知っていると最悪なんですが、それがかけがえのない出会いだったと思わせてくれるラストをまだまだ期待しています。どんどん好きになっていく・必要な存在になっていく。それってもう出会えただけで奇跡みたいなもので、絶対に手放してはいけないものだと思うんです。人との関わりがぐちゃぐちゃになっているわけですが、リコという光があり続ける限り、すべてが輝いていける気がしています。というかそうしてほしいです。
最終的にはまっすぐな気持ちだけがリアルだと信じたい
大好きだからこそ、傷つけたくなる…純粋だとわからないと思うんですが、大人になるほどわかってきます。憎いからその人ばかり見ているのか、大好きだからその人ばかりを見ているのか、どっちにしろ心臓が高鳴るときは同じ音しか出てないので、頭が錯覚を起こすというか。憎くても大好きでも、心臓って鳴るじゃないですか。高樹も、アキも、心也も、瞬も…みんな暗い闇に包まれた葛藤を持ちながら、輝いているものを探している。もう20巻も超えている超大作ですが、一人一人の想いが深いので、全部を語り切るにはもう少しかかるんだろうなと思います。マリのこともありますし。やっぱり腐女子からするとマリみたいな女は嫌いになってしまいますね。美人って大変だな…とだいぶ上から目線な同情すら湧いてきます。
うまく全部の気持ちを代弁してくれている言葉に、アキのセリフがあると思います。
でも僕は 世界平和よりも 大きな愛よりも 這いつくばるような小さな歌を まだ作っていたかった
うーーーん泣ける…全部読んでからまた1巻を読むと泣けてくる…!いつまでも子どもではいられない。でも子どもってなんだよ、大人ってなんだよ、正直にいては生きていることさら否定されるんだろうか。価値がないものなんだろうか。それでも信じて進んでいってもいいだろうか。そんな気持ちにさせてくれるので、ついつい感情移入してしまいますね。働いていくということについても言えることを、少女マンガとはいえグサリと突いてくれていると思います。
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