実際のアメリカの大多数を生きる、もっさりした人々を愛情をもって描く - ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅の感想

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実際のアメリカの大多数を生きる、もっさりした人々を愛情をもって描く

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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目次

実際のアメリカは巨大な田舎である

2013年アメリカ作品。

2016年秋、アメリカでは大方の予想を裏切って、トランプが大統領に選出されたわけだけれど、マイケル・ムーアのような、地に足のついた知性を持つ少数の人々を除いたほとんどの人々は、慌てふためき、驚きをもってこの現象の分析を試みている。メディアでは色々な後付けの意見が溢れ返っているが、現実のシュールさについていけない空白的な無力感のようなものがいまだに漂っていると思う。

外国人から見たアメリカと言えば、ニューヨークであり、ロサンゼルスであり、あるいはマイアミやシアトルやサンフランシスコ、ワシントンD.C、ボストン、ラス・ヴェガス・・・。そうした主に沿岸部の大都市がすぐに思い浮かぶけれど、よく言われるように、実際のアメリカは詰まるところ、巨大な田舎なのであり、内陸部の広大なエリアには、隠れたマジョリティーであるところの、多くの田舎者たちが生活を営んでいる。

彼らは取り残された人々であり、搾取されつくした人々であり、もうとっくの昔に破綻を迎えていた。その彼らを、ヒラリーを象徴とした、大きな資金力と発言力を持つハイクラスのインテリや支配層はあまりに軽く見積もっていた、というのがごくごく平たく言えば今回の選挙結果の大きな原因のひとつと言われている。

1%の大都市部の金持ちが、99%のその他の人々を搾取するアメリカ。それは、10%の白人が90%の黒人を差別し支配していたかつての南アフリカをどこか思わせる。

「今のアメリカとは、大多数の人々がそういうやるせなさを抱えて生きている国である」という認識が、この映画の太い背骨としてあると思う。

「ネブラスカ」は、1%側でない、「大多数のアメリカ人のたましい」に触れる作品であると思う。アレクサンダー・ペインは、よくぞこれを見つめ描いてくれた。そんな心意気を感じた作品。

身につまされるようなリアリティーと可笑しみ

「ネブラスカ」で描かれるアメリカは、多くのハリウッド映画で取り上げられる、おしゃれで便利で都会的なアメリカでは全然ない。ものすごくもっさりとした人々が、狭いコミュニティーで、もっさりと暮らしている。

舞台は、タイトルの通りネブラスカであり、ネブラスカは、カンザスと並んで、アメリカ合衆国のちょうどど真ん中、西からも東からも、北からも南からもちょうど同じくらい、つまりどこから見ても最も沿岸部から遠い、「ど」田舎にあり、見るべきものが何も無いと揶揄されるような土地柄である。

ロード・ムービーを除いて、こうしたアメリカ内陸部を舞台にした映画としては、「バグダッド・カフェ」や「パリ・テキサス」なんかがぱっと思い浮かぶけれど、実は、いずれも外国人監督が撮っている。よそ者の目で見るからこそというところがきっとあって、だからこそ、ネブラスカ・オマハ生まれのアレクサンダー・ペインが愛着を持ってたびたびネブラスカをロケ地に選んでいるということには大きな意味があると思う。

ネブラスカで生まれ育ったペインだからこその、げんなりするような、身につまされるようなリアリティーと、でもどこかにそうした人々に対するかわいらしさと愛を感じる可笑しみのあるまなざしをもって、この作品は描かれている。

偽の宝くじ当選を巡って、人々が豹変する世知辛さ、みじめでなんともスケールの小さい人々との攻防。だから何度も偽だって言ってるのに。いかにも上手い仕掛けだなあと思う。

店から出て来たウディから強奪しようと、太った双子の従兄弟が壁に張り付いて待ち伏せているところなんて、吹き出してしまうような滑稽さだった。こういう笑いの感覚は、「サイドウェイ」を思い出させる。なんだか他人事と思えないひやりとした感覚を含みつつの自虐的な笑い。コーエン兄弟にも通じる、こういうセンスにぐっとくる。

そして、偽の宝くじの賞金をなんとしても受け取りに行くのだという、けがしても、入れ歯を飛ばしてもなんとしても行くのだという父親の頑迷さ。それは表面的にはただ愚かなように見えるけれども、ウディの心のまっすぐさと、人としての矜持の表明でもある。それはせせら笑うようなことのか?それを映画は問うている。その上で、デヴィッドは、ただ受け止める。表面上の正しさや、道理や、損得ではないのだ。それは、あなたを尊重するということなのだ。

心意気を貫く

この作品は、2014年の様々な賞レースにノミネートされ、大きな成功を収めた。主演のブルース・ダーンの素晴らしさは説明するまでもないけれど、彼のみならず、この作品のキャスティングは絶妙だと思う。息子役のウィル・フォーテや、母親役のジューン・スキッブも、故郷の町に住む親類たちも、皆、有名な俳優ではないけれど、すごく説得力がある。いかにもアメリカ人ぽくだらしなく太ったデヴィッドの元彼女とか、うわーというリアリティーだったなあ。

そして、個人的にこの映画の最もいい所は、モノクロ作品であるところだと思っている。とてもムードがあるし、生々しい人たちが美しくもなく生々しく暮らしているさまを、どこか詩的に、デタッチ的に描くことに成功している。

もっとも、アレクサンダー・ペインは、小津安二郎に影響を受けているので、ぎりぎり耐えうる微妙で絶妙な不自然な間や、ミニマムな美術表現といった小津的要素がこの作品には多く取り入れられており、そうした効果もあると思う。

キャスティングや、撮影に関しては、製作のパラマウント映画は、メジャーで分かりやすい俳優を起用せよ、カラーで撮れというリクエストを出していたにも関わらず、監督はいずれもこれらを蹴って、「心意気」を貫き、結果素晴らしい作品に仕上げた。ペインは偉い監督だと思います。

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