軽快な映画作りに定評のある矢口監督作品ではあるが
『神去村』とは全く別作品
『WOODJOB!(以下、ウッジョブ)』の原作は、三浦しをんのお仕事小説『神去村なあなあ日常(以下、神去村)』だ。
『神去村』はエンタメ作品としては珍しい、“林業”を取り扱った作品として注目が集められ、一時期書店で平積みになっていたの記憶している。結構良作だと筆者は思っているのだが、あまりメディアなどで取り上げられなかったのが残念であった……とかいって調べたらシリーズ累計35万部いったヒット作ですね。
『ウッジョブ』の監督は、『スウィングガールズ』『ウォーターボーイズ』と同じ矢口史靖。どちらも軽快なテンポで、かなりの良作として世間の知名度を得ている。
矢口監督が手掛けたのなら、『神去村』も良い映画になのではないか……と期待してDVDを借りた筆者であるが、結果的にはがっかりしてしまった。
というのも、原作の面白さが、映画ではまるで表現しきれていないように感じたからである。
このような、原作がちょっとマイナーな作品を映画館で観るのは、原作ファンか、矢口監督ファンか、あるいはほどほどの映画好きか、話題作りか、暇人かのいずれかだと思われるが、『ウッジョブ』はこれら全ての観客を満足させるには足りない作品であろう。特に原作ファンにとっては物足りないことこの上ない。
では次項から、この映画の最たる問題点、『神去村』と『ウッジョブ』の違いについて詳しく取り上げたい。
筆者が思うにこれは結構深刻な問題で、文芸と映画の埋められない差が顕著に表れているように感じるのである……。
『神去村なあなあ日常』と『ウッジョブ』の違い
先にも述べたように、『神去村』は林業を取り上げた小説だ。主人公・平野勇気が神去村で林業の仕事をしながら、村独特の“なあなあ”な暮らしに少しずつ馴染んでいく、という話の流れになる。
一方、『ウッジョブ』では、林業はあくまで添え物として、田舎暮らしをメインとして取り上げている。
お節介だが親切な村人たち、騒がしいが元気な子供たち、自分の仕事に誇りを持つ林業従事者、日本人なら馴染みのある、というよりありすぎる田舎の風景たち――と、ここに大きな問題点がある。
『神去村』が祭り、仕事、近所づきあい、全てを包括したムラ社会について描写しているのと違い、映画『ウッジョブ!』が取り上げたのは、都会の人間が都合良く造り上げた「田舎の村」というテンプレートな偶像に過ぎない。
これは、原作の本質、主題が歪曲されているように感じられ、どうにも『神去村』ファンとしては不愉快である。
もちろん、テーマをキャッチ―に、わかりやすいほどわかりやすい作品にしなければ、映画館に客が集まらないのかもしれない。
だが、ぶっちゃけ1800円払って、女性狙いのテレビドラマのような映像作品を見る価値はない。
客が観たいのはあくまで“映画”であって、“テレビドラマの延長”のような作品ではないのだ。多額の製作費と時間を使って映画を作り、そのうえでこれほどの価値しかない作品を垂れ流すだけならば、日本映画の衰退も推して知れるというものである。
三浦しをんは小説の面白さをエンターテイメントに特化する形で表現している作家なだけに、メディア展開を仕掛けた側がそれを理解していないのは甚だ残念だ。何も『ウッジョブ』に限った話ではないが、名作を実写化するのなら、それ相応の覚悟を持って作品づくりに励んでもらいたいものである。
興味をそそられる『ウッジョブ』の客層
しかしながら、前述の筆者の意見は、世間的には少数派の“いちゃもん”であるかもしれない。
というのも、『ウッジョブ』について興味深いデータを見つけたのである。筆者が調べたところによると、『ウッジョブ』を観るため実際に劇場に足を運んだのは6:4で男性、しかも会社員が多かった、というのである。
おそらく“林業で暮らす”、という宣伝に惹かれて映画を観たものだと思われるが、これはなかなか興味深い結果だ。
筆者は先の項でこき下ろしたが、都会の人間、ないしはサラリーマンにとって、田舎暮らしというのはやはり、理想の象徴であり、それ以上に逃避が具現化されたライフプランである。
そこで、『ウッジョブ』の内容は彼ら会社員のニーズにばっちりあてはまった作品といえるだろう。ひと昔前は、田舎暮らしといえば農業であったが、それも現実的な情報(インターネットや、実際に農業経験者の話)によって夢が冷め、彼らのネバーランドは崩壊の危機を迎えている。そこで新たに、林業という蜃気楼が登場し、彼らが興味を持って求めた結果、映画館に客が集まったのではないだろうか。
そう思うと、筆者が原作の内容にそぐわないと酷評した『ウッジョブ』の宣伝や内容であるが、こうした会社員男性らにターゲットを絞った映画だと思えば、客層を見事に絞った戦略を展開し、成功した良作であるともいえる。
とはいえ、原作好きからすれば、そんなことに原作付き小説を利用するなよ、とやっぱりちょっと憤慨したいのであるが。
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