観るたび涙があふれてしまう
不良少年だからとかっていう枠でくくれない
この作品の本題というか根幹にあるテーマを考えると、こんな種類の子たちだからなどというチープなアイデンティティーを持ち出すことはできない。
14歳の中学生、その年頃の少女が秘める親への思いが克明に描かれていると思うからだ。親から見た子どもの心はこんな感じだろうという想像と、子どもの心から発せられる親への欲求は、きっとこんなふうにすれ違い続けているのだろう。思春期と呼ばれる時期からそのすれ違いが生まれ、反抗期を迎え更にこじれる。10代前半の子どもに親へのフラストレーションをうまくまっ直ぐに伝えられるスキルはない。親は子どものことを一番に考え行動しているという自負のもと、自分のやり方に子どもからケチをつけられるため憤慨(かずきの母の場合、憤慨とともに拗ねが入り面倒臭い親になっているが)してしまう、そんなどこにでもあるような日常が切り取られている映画で、実際自分も感じたことのある親へのネガティブな感情をつつかれるからこそ、涙が出るんである。更に子を持つ親として、かずきの母親の気持ちがわかる場面もあり、非常に沁みる。
不器用ながらも大事にする気持ち
そこへ現れた春山との出会いによりお互い(春山とかずき、かずきと母親)の胸の内が変わっていくのだが、その少年の生い立ちからなる孤独感が非常にオトナびた感覚を彼に与えたんだと思う。孤独と向き合いながら、不良グループの仲間たちの間で自分を見い出してきた彼の芯が、かずきと出会う事によって確立されていく。だからこそかずきは彼の芯につかまってなら、母親に自分の本心をぶつけられる、そう決意できるのである。
かずきの内面のピュアさに気づくことができて、かずきを大切にできるのは、春山が自分の芯を見つめられる少しオトナなスキルがあるから。ただ、不器用にしかできないところがまだ大人になりきれないところで、不良グループの中で暴れることで発散しようとする幼さにも繋がるのだが、怪我を負う春山は観ていて痛々しかった。
キャスティング大成功
少しミーハーな感想になるが、春山役を演じた登坂広臣、初めは全く興味がなかったのにめちゃくちゃいい奴にみえてしまい、映画を見終わってから翌日にも色んなシーンが蘇ってしまった。演技は上手かどうかわからないが、不器用さをかもし出す言葉運びや声のトーンが、リアル春山となって私の中に刻み込まれたんである。カニを食べ、もがき苦しんでいるシーン、口移しのあとの表情にドキマギさせられる始末で、そういう意味合いではキャスティングに文句はまったくないのだが、かずきの母親役を演じた木村佳乃が全然しっくりこなかった。若づくりしているちょっと「ハズレた」母親、という設定なのか、と100歩譲るも、何かふわふわし過ぎていて何度観ても違和感がある。ここが残念だった点。あくまで個人的意見だが。
最後にかずきを演じた能年玲奈(現在はのん、ですが)、よかったと思う。言葉のない目線だけで訴えるシーンがあったが、「見据える」演技が得意なのか、グッとくるものを感じた。母親とからむシーンが特によかったと思う。終盤で春山が入院し、その現実を受け入れられずに苦しむかずきが「ママ、助けて…」と悲しみをあらわにしたときの「ワーーー!!」と大声で叫び宙を泳ぐ目線、あのシーンは何度観てもめっちゃ泣く。娘に悪さをする悪霊みたいなものに対してどっか行けー!とやり場のない感情をぶつけているかのように見え、それがまた「ちょっとハズしてる」母親らしい愛情表現の仕方に見えて、妙にそこはハマッていた。そしてその気持ち、親なら痛いほどわかるというのもある。
親への貪欲な愛の欲求に涙
恋愛も描かれているが、大きなテーマは子どもを守る愛であって、親や大人たちへの素直な疑問符なんである。作中の響くセリフ「私、生まれてよかったの?」がそれである。日々の中で底の底の奥に埋もれていく「子どもを生んだ時の気持ち」や「あなたが笑ってここにいることが大事」というシンプルな思い。それは子を思うがゆえに親が敷いてしまうレールや作ってしまう過剰なルールが上積みされていくからだ。自分自身もそうであると自覚がある。大切にするべきものはたくさんあるが、本当に大切にするべきものの優先順位やタイミングやを、考えなさすぎなのかもしれない。
子どもの頃に寂しい思いをしたことのある人(筆者も片親家庭だった)なら一度は感じたことのある癒されないままの思いが、ここで描き出され、かずきを通じてえぐりだされ、気づくと涙していると思う。しかし、その切ない温度の涙は「ママ助けて」のあと気を失ったかずきをおぶって、なりふりかまわず駆け出す母親の姿に救われ、温かい涙に変わる。
子どもの漫画とあなどるべからず
この作品、自分が学生時代にリアルタイムに連載されていたコミックで、読んだこともあったはずなのだが、そのときはたいして心に刻まれるものではなかったが、今やっと初めてこの作品のベースがなんたるかに気づける、という深い漫画だったのか。大人が、親が、手に取るべき本で、観るべき映画なのかもしれない。
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