ジャズという「人生の一向き」を知る - BLUE GIANT の感想

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漫画レビュー数 3,136件

BLUE GIANT

4.504.50
画力
4.17
ストーリー
4.00
キャラクター
4.17
設定
4.00
演出
4.83
感想数
3
読んだ人
6

ジャズという「人生の一向き」を知る

3.53.5
画力
3.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
4.5

目次

ジャズへの情熱が伝わってくる

『BLUE GIANT』はジャズを取り上げた作品である――というと、なんとも「わかってない」前説となりそうだ。

というのも、ジャズを取り上げた作品というと、今の時代は特段珍しいという訳でもないからだ。大ヒット映画『スウィングガールズ』もそうであるし、漫画『坂道のアポロン』もそうだ。ジャズ直接を扱った訳ではないが、アニメ『カウボーイビバップ』やゲーム『九龍妖魔學園記』のBGMとして、各作品のファンの耳にも馴染みが深い。

だが、真っ向から「ジャズ」という音楽ジャンルに向き合い、ジャズの置かれた厳しい環境(CDが売れない、そもそも世間から認知すらされていない)を描いているのが、『BLUE GIANT』の特徴であり魅力だ。『スウィングガールズ』はジャズを始めたばかりの女子高生の話であるし、『坂道のアポロン』はジャズがメインという訳ではないから、ジャズそのものを本格的に描いているのは『BLUE GIANT』独自の武器であるともいえる。

そして、もう一つ重要なのは、『BLUE GIANT』が少年漫画的な成長物語とサクセスストーリーを軸にしているということだろう。

厳しいジャズの環境と、まだまだ未熟な自分の力量、それでもなおひたむきに、自分の愛したジャズに向かっていく主人公・宮本大の姿は、そこらへんの少年漫画の主人公よりはるかに主人公らしく、情熱的でまっすぐだ。まるでひと昔前のスポーツ漫画のように、まぶしく輝いてるのである。そんな宮本の姿に、元気づけられる読者も多いのではないだろうか。

情熱を持っているのは宮本だけでなく、ピアニストの雪祈やサッカーから転身したドラマーの玉田といったジャズプレーヤーたち、そしてジャズを愛する聴客にとっても同じことだ。

熟年のプレーヤーたちはもちろん、長年ジャズを愛してきたジャズバーの聴客たちが宮本たちのジャズを聴く耳(評価)は、大変厳しい。ときおり、罵声を浴びせられたり、皮肉を言われることもしばしばだ。

だが、そんな彼らが頭を抱え、集中して耳をこらし、若き才能が奏でる音楽一節一節を丁寧に丁寧に汲み上げていく姿は、真摯であり必死である。その姿を通し、読者であるわたしたちは「趣味を超えた人生の一部」たるジャズの姿を垣間見ることが出来るのである。

そのような本編にて登場した脇役キャラクターが、後日談(ボーナストラック)として関わってくるのもまた印象的だ。おそらく彼らが語っているのは主人公・宮本大の未来の姿なのだろうが、彼が今度いかにして栄光への道を駆け上がっていくのか、漫画の続きが楽しみになってくる。

無音、なのに伝わる

『BLUE GIANT』の恐ろしいところは、「無音を操る」ということにあるだろう。

例を取り上げれば、サックスの演奏シーン、メンバーとのセッションシーンがそうである。

演奏するキャラクターのかく汗、観客の顔、表情筋の動き、バーの暗い店内からあふれ出す活気。

効果戦やトーン、コマ割りなど漫画の表現全てをフルに使い、その場の全てを表現するその力こそ、『BLUE GIANT』最大の魅力であると同時に、そこらの漫画家が簡単に真似できない無二の技法である。

筆者が特に驚いたのは、一話まるまるセリフのない42話だ。雪祈を主役とし、何気ない日常の風景が描かれているだけなのに、退屈に感じることもなく、むしろ「聞こえないはずの音が聴こえる!」 と不思議な現象に見舞われるだろう。

こんな技法が、平凡な漫画家に出来る訳がない。こういった構成をぶち込めるからこそ、石塚真一の漫画家としての実力がうかがい知れるというものであろう。

地元民だからこそ

個人的な話になってしまうが、筆者は仙台市出身である。故に、幸いなことに『BLUE GIANT』をより思い入れを持って読むことが出来ている。

国分町のバー、広瀬川の流れ、定禅寺ストリートジャズフェスティバルの光景などなど、仙台市民ならお馴染みの風景が、作中では盛りだくさん。しかも、その情景のことごとくがシチュエーションとマッチして、まさしく「適材適所」というべき使い方をされているから嬉しい限りだ。

特に「うわっ」と声を上げてしまいそうになったのが、震災時のガソリンスタンドの混雑描写だ。

震災当時、市民たちは食料の確保や通勤・通学のためにガソリンが必要であったが、ガソリンの数が圧倒的に足らず、三時間待ち四時間待ちが当たり前だったのである。そこは我慢強い東北人、騒ぎも起こさず粛々と並んでいたのだが、そこに大のようなガソリンスタンド店員の努力があったことは言うには及ばない。

被災地に住む筆者でさえ、「うわー、あったあった、そういうこと」と思わせるほど、その土地に根付いた言葉、風景、描写を差し込んだ漫画。しかも、作者石塚

真一は、仙台市の出身という訳でもない。これだけ密な取材を重ね、漫画として昇華させたことに、地元民として敬意を表したい。

しかし、とても肝心なことを言わなければならないのだが、仙台にデニーズはない。

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