四クールにすべきではなかった
BLOODシリーズを踏襲
『BLOOD』シリーズは発表当初、知る人ぞ知る作品だった。
少なくとも、世のアニメ好き、漫画好きでもその名前を知っている人はそれほど多くはなかっただろう。筆者が『BLOOD』の名を知ったのは、ゲーム雑誌で紹介されていた“やるドラ”が初めだったと思うが、そのときから独特の世界感が記憶に残る作品だったと記憶している。
血に塗れたセーラー服の少女、小夜のビジュアルは、それだけ印象に残るものであった。ふくよかな赤い唇が特に印象深い、肉厚的な小夜のビジュアル。荒々しくも洗練された作画は強烈なインパクトを与えた。調べてみれば『キルビル』などで知られる映画監督のクエンティン・タランティーノも『BLOOD』が好きだという話だから、やはりそれだけ世間に強く存在感を示していたのであろう。
本作品『BLOOD+』は、アニメ作品『BLOOD The Last Vampire』からの流れを踏襲し、「吸血鬼との戦い」「吸血鬼を倒すことが出来る、小夜という少女」がキーワードになっている。
ただし、肉厚的で濃い作画だった『BLOOD The Last Vampire』とはやや毛色が異なり、キャラクターデザインは総じてあっさりとしている。テレビ放送されることを見越して、若い世代に受けるよう設定されたのだろう。結果的に、『BLOOD+』は狙いどおり若い女性を中心に人気を博し、二次創作市場を中心に盛り上がりを見せた。
最大の難点は構成
『BLOOD』シリーズ共通の独特の世界観とキャラクターを引き継いだ『BLOOD+』だが、その仕上がりには一つ大きな問題があった。
それは、ストーリーと脚本である。
『BLOOD+』は、今でこそなくなった4クール作品(一年放送)のアニメであった。12話が主流の今の時代でも、濃い密度で満足感のある作品が多いというのに、その四倍ともなる50話はいかんせん長すぎたのだ。
『BLOOD+』のメインストーリーは、小夜とディーヴァという翼種の女王二人の因縁と争いが主軸になっていることは改めて言うまでもない。だが、そこが明らかになるのが、そもそも遅いのだ。
小夜の宿敵・ディーヴァが登場するのも後半。ディーヴァのシュヴァリエとの争いもなんだかよくわからないうちに始まり、終わっていく。また、シフ編など、「これはストーリーに必要なのか」と考えさせられてしまう中だるみが非常に多いのも特徴的だ。
また、基本的にホラーアクションを謳っているのにも関わらず、戦うのはほぼ小夜だけ。しかも大した派手なアクションもなく、剣を振り回して立ち回っているだけ。小夜の成長というべきものもなく、アクションシーンにもメリハリがない。
シフたちに至っては、物語の途中に突然登場したかと思えば、物語においてさして重要な鍵となることもなく消えていくといった、これまた視聴者大困惑のキャラであった(これらのあらゆる唐突を、キレイな結末を持たせるおかげでうまくまとまって見せているのが更に憤然とさせる)。
これらの緩急のない退屈な展開は、カイの弟・リクがディーヴァによって殺されるまで続いたように筆者は思っている。
逆に言えば、そこから一気に物語は盛り上がり、「今までのだるい展開はなんだったんだ!」と視聴者の目を覚まさせてくれただろう。
当時は一年放送が珍しくなかっただけに、時間枠を多めに取ったのかもしれないが……。ジョージの死で終わる沖縄編、小夜とハジの過去が明かされるロシア編、リクが小夜のシュヴァリエとなり、死んでいく話、ディーヴァとの最終血戦……と物語の要所要所だけを抑えていけば、25話でも十分に終われる話だったろう。
ストーリーや設定の骨格が良いだけに、この構成は非常にもったいないといえる。放送局との絡みだとか大人の事情だとか色々あるのかもしれないが、正直いって『BLOOD+』は四クール使って放送するアニメではなかった、というのが筆者の正直な意見である。
アニメ本編よりも、見るべきはオープニングとエンディング
前項で『BLOOD+』のアクションはメリハリがないと述べたが、それは作画にもいえることである。
もともと、『BLOOD+』のキャラクターデザインはあっさりとしているのだが、そのせいでアクションやアップといったスピード感のあるシーンで存在感を発揮しきれていない。
長じて本編の作画も乱れがちで、それがまた視聴者をがっかりとさせた。
しかし、オープニングとエンディングアニメーションの美しさだけは別格である。
特に三期目にあたる「Colors of the Heart」のアニメーションは素晴らしい。『BLOOD The Last Vampire』の例の濃い作画を踏襲したかのように、小夜とディーヴァの争いが荒々しくも叙情詩的に描かれている。
三期だけでなく、テーマソングとアニメーションの一体感はどのクールでも素晴らしい。そうそうたる豪華アーティストたちが楽曲提供をしていることも、オープニング・エンディングを盛り上げる要因の一つであろう。これだけの面子を取り揃えているアニメも今は珍しい。どれだけ金がかかっているんだ……。
作画や構成には難があるものの、独特の世界観でアニメ界に名を残した『BLOOD+』。若い世代を中心に人気を獲得したこの作品は、キーワードを共有した『BLOOD C』にやがてバトンを託した訳である。
完璧な作品とは言い難いものの、確かに光るものがある惜しい作品であった。まさしくナンクルナイサ、である。
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