良作・ワルサーP38
面白い作品だが、ルパンらしさはあるのか
長年愛されている作品だけあって、人にオススメのルパンのシリーズを聞くと見事に意見が分かれる。「『カリオストロの城』は名作だがあれはルパンというよりジブリ作品だ」「クリカンルパンよりやっぱり昔の山田ルパン」「笑えるルパンのほうがいい」「ハードボイルドこそルパン」などなど、意見は様々だ。
実は、アニメスペシャルでも映画でも『ルパン三世』シリーズを見たことがない筆者は、何から見るべきか悩み、とりあえず手にしたのが『ワルサーP38』であった。これが人生初めてのルパンである。
ところが、この作品がルパンらしい作品であるかというと、初めて見た筆者でも悩んで頭をかしげてしまう。
というのも、『ワルサーP38』はルパンらしさがあまりなく、それよりも単発の作品としての魅力が映えているように思えたからだ。
何故なら、ルパンはともかく、次元、銭形、不二子、五エ門たちの活躍がほとんどないのである。最後に梅干しに未来を託した五エ門はともかく、次元はほぼ活躍がなし。不二子ちゃんは盛大にやらかすし、銭形は前半でほぼリタイアしてしまう。この五人をして「ルパン三世」だと思っていた筆者は、ちょっと肩透かしを食らった気分になった。
しかしながら、アニメ作品としての面白さは指折りである。ルパンと失われた愛銃ワルサーP38との因縁、犯罪者たちの暮らす島、世界の要人たちと衛星……と様々な思惑と展開が絡み、一時間半とは思えないほど充実した作品となっていた。ルパンが敵組織に取りこまれてしまうのも意外で、離反者である暗殺者連中と脱出するために共闘するという流れも魅力的だ。
世の中には数多くアニメ作品があるが、暗殺者集団をまとめあげられるカリスマ性と知性を持ち、作戦指揮をとれる主人公はルパン三世を置いて他にはいないだろう。ゆえにこの流れは、『ルパン三世』ならでは、むしろルパンでなければ出来ないものであった。
ゲストキャラクターの配置が良い
当初はルパンらしさが欠けているように思えた今作であるが、逆にいえば、それだけゲストキャラクターが良かったとも言える。
自由を求め、ルパンに協力したヒロインのエレン、腕利きの暗殺者でありながら次元と仲良しになるボマー、大物感ハンパないゴルドーに悪逆非道のラスボスのドクターと、それぞれ役割をしっかり持ちながら物語を広げていく。
ヒロイン・エレンの孤独な死は、それまでの小さなエピソードでエレンというキャラクターが掘り下げられていたからこそ、ラストでしっかりと無常観を煽り、切ない想いにさせられる。
ドクターことかつてのルパンの相棒の凶悪さもいい味を出している。似非ラスボスのゴルドーが、自分の圧倒的強さをアピールするためにルパンに一度撃たせてみるという大物感をプンプンさせているのに対して(しかも声が内海賢二氏だからなおさら無敵である)、どこまでも利己主義でセコくて凶悪で胸糞悪い、本当にコテンパンに悪役であるドクター。奴こそが最中でもっとも悪い存在でありルパンの真の目的である――となると、配置が上手いなぁ、と思わず舌を巻いてしまう。ドクターとの対決では、ちょっとルパンには珍しい(はずの)殴り合いも良い。因縁がこもっている、まさしく男と男の対決だ。
こうしたキャラクターと、キャラクターの魅せ方が良いからこそ、最後まで飽きずに物語を見届けることが出来る。
着目すべきは伏線回収と畳み方の上手さ。これぞルパン
更にもう一度、ルパンらしさについて言及させて頂こう。
筆者は、まだ『ルパン三世』シリーズに触れて間もないが、当作品にはアニメの脚本のお手本というべき、全ての伏線をキチンと回収してくれる「安定感」があると思っている。この「安定感」こそが、ルパンシリーズに寄せる視聴者からの期待の大部分だ。
劇中のどんな小さなワンシーン、セリフでも、「これはきっと後々大事になるぞ」と考えさせてくれる。ここが上手い。
例えばあっさりと効きすぎてしまう解毒剤も、「いや、こんな簡単に毒が解けるわけない」と怪しさをプンプンと匂わせておいて、終盤近くになるまで本当に何もなく、「あれ、大丈夫だった?」と肩透かしを食らう。しかし、やっぱり実はクロで、ということは解毒剤を作ったドクターが怪しくて……と芋づる式に真相がわかるというナイスな仕掛け。
いやー、ルパンにはめられた。まるでベテランだらけの落語家にハズレがないと信じてこんでしまう、『笑点』のような作品だ。
五エ門の梅干しもそう。個人的な意見になってしまうが、めちゃくちゃ緊迫感のある必死な状況で「拙者がやる」と息巻いた挙句に、大量の汗を流して「……梅干しのいろ」と言ってのけた五エ門先生の器ハンパない。超キュート。『血煙の五エ門』にも期待したい。
解毒剤を手に入れたかが最後まで明かされることはなく、気になるところではあるが、ルパンなら作れるだろう、と信じてしまうのがまたにくいところだ。
当初は独特の作画で、ちょっと手に取るのをためらったことを後悔するほどの良作。それが『ワルサーP38』であった。
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