最高 - リスボン物語の感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

最高

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

ヴィム・ヴェンダース一番の作品

ヴィム・ヴェンダースが監督し、脚本も書いています。脚本があまり上手ではない、と言っていましたが、私は彼の脚本が大好きです。とても感覚的、視覚的なお話になるからです。これはミステリーのストーリーテリングを使った、映画と人生の話です。少しドキュメンタリー風に撮られていると思いました。映画についての話ですが、主に出てくるのは音響技師や、バンドといった、映画の脇役の人たちです。ここからたくさんの謎が生まれます。いったい主役はどこにいるのか、と見ている人は思います。また子どもたちが現れ、さらに謎が深まります。彼らは、大人とは違い、何も説明してはくれません。主人公は街を散策しますが、完全には言葉の通じない国、あてになる人はあまりいません。いったいどのように話が終わるのか、と思いハラハラしますが、最後にドラマの視点となるカメラマンのフリッツが現れ、やっとこの映画をどう見るべきかが分かります。謎が解決したときやっと、複雑なストーリーなどなく人生についての映画だった、と気付きます。純粋な目でしか映像を撮れないなんてことはない、ただ楽しく撮ればいい、というメッセージと同時に、人生も同じように生きられる、ということが伝わってきます。

俳優さんたち

主人公を演じるフォーグラーはとても自然体で上手です。途中でキレたりするところが、すごくリアルでした。他のヴェンダース監督の作品にも出ていますが、非常にうまいです。観客が感情移入しやすく、信頼できるキャラクターを演じることができます。マドレデウスが登場する場面は幻想的できれいです。旅のバンドなので、簡易的な感じのセットなのも良いと思いました。子どもたちも自然です。最後に登場するフリッツだけが、すごく疲れていて現実的な感じがしました。謎が解けたのと同時に、それまでの純粋なキャスティングが良い意味で壊されていると思いました。もうポルトガルは遠い国ではない、現実的な生活と仕事の場所になった、という意味にもとれました。純粋な映像を撮ろうなどと思わず、もっと現実的なっていいんだ、というメッセージとも繋がっていると思いました。ポルトガルの映画監督の、オリヴェイラ監督がゲスト出演していますが、なんとなくこの映画と、オリヴェイラ監督の作風は似ている、と思いました。ヴェンダース監督の作品はもう少し、分かりやすい感じがします。

親しみやすい映像

ハンディカメラ、身近なものを使った音作り、車のワイパー越しに見える景色など、本当にそこに一緒にいるような感覚になる、ホームビデオのような映画です。最初にヨーロッパを車で旅する場面は、本当にちょうどいい長さです。一緒に旅している感覚になります。車が壊れたからリスボンまで連れて行くように頼むシーンは、ヨーロッパ的だな、と思いました。最初から最後まで、洋服の色などに青色が目立ちますが、海の町リスボンの雰囲気が感じられます。この作品は、音響技師やバンドなど、音が重要な役割を果たしている映画でもあります。マドレデウスの音楽は、リスボンの海と関係してか、波の音のように響くときがあり、主人公も宿の外にいる鳥の鳴き声や、人びとの声などを録音しています。ヴェンダースはリスボンに音楽的な何かを感じたのか、自然の音をたくさん取り入れている気がしました。映像についてのお話だから、音楽という対比になるものを持ってきたのかもしれません。文学も少し出てきます。夜、主人公はフリッツの読んでいた詩を読みます。その詩は難解なので、フリッツがどういう人かが、この時点で少し分かります。最後に明らかになる通り、フリッツは気難しい人間なのですが、この物語の中で、一番純粋に映像をとろうとしている人物でもあります。主人公も子どもたちもピュアに見えますが、実は一番ピュアなのはフリッツです。ピュアだから難解になってしまうのです。それはヴェンダース自身の葛藤のように思えました。物語の視点となる監督はピュアではいられない。全知の神でなくてはならない。だから葛藤の少ない音響技師を主人公にしたのだと思います。また、脚本を書くのがなぜ苦手と言っていたのかも分かる気がしました。おそらくピュアでいられなくなるからではないでしょうか。純粋な目で撮りたい、言葉や知識に惑わされない目でものを見たい。そんな葛藤も、この物語の結末では、丸く収められています。無理にピュアな映像をとる必要はない、思ったように好きなように作ればいいと。だからこの作品では脚本を書いたのかな、と思いました。私個人の意見としては、映画に文学や哲学といった要素は、特になくてもいいと思います。だから深みがないとはならないと思います。一番大切なのは、物語を物語にしている構造だと思います。複雑だったり、単純だったり、それは表からは見えません。ですが確実に、見ている側には伝わり残っていきます。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

リスボン物語を観た人はこんな映画も観ています

リスボン物語が好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ