恋愛ドラマや恋愛映画にうんざりしている人に
他人の家の木に、恋をする
「さまざまな愛にまつわる短編が11編つまっている」という言葉の清らかさとは裏腹に、この本の内容は本当に偏っていて、かなりグロテスクで吐き気がしそうなものも多く「これって愛なの?」と疑問に思ってしまうような短編もありました。
でも、そのなかでわたしが好きだったのは冒頭にあるアリ・スミス作の「五月」で、この話は他人の家の木に本気で恋をする女性とその旦那さんの愛を2人の視点から語っています。家のなかにその木を移植しようとフローリングをはがしにかかったり、食事の支度以外はずっとその木を見続ける時間に費やしたりとその女性の木に対する愛はわかりやすいほどに常軌を逸しています。その異常さにどうしても不幸にならざるを得ないというか、あまり良くないラストを感じてしまっていたのですがこの話のラストは素晴らしかった。
どうしようもない、理解もできない状況のなかで
レイ・ヴクサヴィッチ作の「僕らが天皇星に着くころ」は皮膚が少しずつ宇宙服に変わって宇宙に飛び立ってしまう奥さんとその旦那さんの物語で、何故そのような病気にかかってしまうのかなんて理屈はぬきにして、その奇妙な状況の中でこの物語はとにかく愛について焦点をあてています。奥さんの宇宙服は次第に完成していきふわふわと浮いて宇宙へ飛び立とうとします。
「これはきっと夢だ。だって理屈に合わないじゃないか。いろんなことがまだ途中なんだ。何ひとつうまくいかない!何か、何かいい手があるはずなんだ。考えればきっとわかる。頼むモリー、もうちょっとだけ待っててくれ!」
まったくもって変で理解できない状況のなかで愛だけが浮き彫りになるから、愛というものを感じやすいのかもしれないですね。
正直、読みたくない描写も多い
岸本佐知子さんの編訳が嫌いなわけでは決してないのですが、わたしが気に入った短編は11編中3編くらいでした。わたしも昨今の恋愛ドラマに嫌気がさしていた部類ではあるのですが(どうしてあんなに不倫ばかりするのでしょう)それでも恋愛小説には胸をときめかせたり清らかであって欲しかったようで、この本のアブノーマルさにはついていけませんでした。特にイアン・フレイジャー作の「お母さん攻略法」なんて気持ち悪さしか感じませんでしたし、悪ふざけにもほどがあると怒りを覚えました。愛=性欲の対象であるという部分がわたしには受け入れがたかったですし、今まで無害な本を読んできたのだなとしみじみ感じました。
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