徐々に目覚める兄弟愛 - レインマンの感想

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徐々に目覚める兄弟愛

4.24.2
映像
4.0
脚本
3.0
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
5.0

目次

遺産目的だった主人公

金銭的に困難な状況に追い込まれていた為、物語冒頭から主人公チャーリーに良いイメージを持つことができませんでした。

しかし、それは振り返って考えてみると、制作側の意図的なものだったと考えることができます。

物語冒頭から、良い材料がひとつも揃っていません。むしろ、悪い面を全て吐き出しているかのように感じられるのです。自分勝手に兄レイモンドの元を訪ね、施設から連れ出す行動にも、一般的な感覚からは理解を超えています。

物語冒頭から、主人公であるチャーリーは悪役なのです。

これは物語を描く手法として、悪役として、落とすところまで落としておき、後に、観客の株を上げていく作戦が取られているだと考えられます。とことん悪く描くことで、人間性が良くなった場面を描けば、チャーリーの印象は物語最後には良くなってしまうのだと考えられるのです。

そういった意味では、非常にズルい作り方をされた物語だと考えることができます。

レイモンドの能力

この映画が上映されていた当時、サヴァン症候群という病名は一般的なものではなかったと考えられます。

日本においても、この映画が上映された後であっても、世間一般に浸透はされませんでした。

しかし、この映画の影響を受けた作品が出版され、ドラマが放送されることで、少しは日本の社会においても浸透されたのではないでしょうか。その代表例が、SMAPの中居正広さんが主演をされていた「ATARU」というドラマ作品だと考えられます。中居正広さんの好演ぶりもあって、ドラマ「ATARU」は人気作品となりました。そして、映画化もされ、知名度としては広がったのではないでしょうか。

しかし、個人的には、その前に、この作品の存在があったことを忘れないで欲しいです。

物語の内容や描写において、当作品の登場人物であるレイモンドは、「ATARU」以上のものを見せつけていたように思います。落ちたマッチの数を一瞬のうちに数えてみせたり、一度見たものの記憶力は相当のものでした。

これは、観客に凄いと思わせることで、レイモンドの能力を印象付けようとしていた狙いがあったのだと考えられます。

そして、その狙いの意図するものは、サヴァン症候群という病気を世間一般に認知してもらいたかったのでないでしょうか。

実際の現実社会におけるサヴァン症候群は、そこまで能力が特化するものではありません。記憶することに長けていたとしても、数を一瞬にして言い当てられるということは、演算能力の高さも兼ね備えていなければなりません。いくら能力に長けているとしても、2つの特化した能力を同時にもっている例は皆無に等しいのです。

過剰な演出をしていることは明らかで、事実に基づいた症例を描いているのではありません。

ただ、こういった病気があることの世間の浸透を図りたかったのだと考えられるのです。

唯一の笑わせる場面

チャーリーの恋人であったスザンナ役を演じられたヴァレリア・ゴリノは、凄く優しそうな顔立ちが印象的でした。特に、目尻が下がった垂れ目で、大きな目が特徴といえます。その特徴ある目が、優しい雰囲気を醸し出しているのだと考えられます。

また、恋人チャーリーの良心ともいえる存在であり、チャーリーの悪い部分を指摘する役割を担っています。

言い換えれば、内面的には母親のようであり、姉のような存在といえるのではないでしょうか。

子供のような一面があり、自分勝手なチャーリーとは相性の良い人物像と考えられます。そんなチャーリーとスザンナのベッドシーンが、唯一の笑える場面として、本編に用意されていました。チャーリーとスザンナの部屋の物音や声を聞きつけ、レイモンドが部屋に入ってきてしまうのです。

メイクラブ真っ最中のチャーリーにとっては、とても気の毒な場面です。

何も知らないレイモンドにしてみれば、単純な好奇心で部屋に入ってしまったに過ぎません。悪意があって、部屋に入ってきたのではないのです。現に、スザンナはそれを理解しており、レイモンドに対し、怒っている様子はありません。驚きつつも、瞬時に状況を理解して、チャーリーをなだめています。

この場面で描かれているのは、事故であり、トラブルなのです。

そして、それは意図的なものであり、笑わせる要素のない本編において、観客を笑わせようとしたのだと考えられます。そういった意図が感じられるのは、この場面がゆっくりとした時間で描かれている為です。レイモンドが物音や声を聞きつけ、チャーリーとスザンナの部屋に入っていくまでを、ゆっくり焦らしながら制作されています。

観客の気持ちとしては、「部屋に入っていけない!」という気持ちが強くなっていくのです。

しかし、観客の気持ちや願いを裏切り、レイモンドは部屋に突入してしまっています。ドキドキさせる瞬間ですが、こういった場面で、レイモンドが部屋に入ってしまうのは「お約束の展開」だと考えられます。そして、その「お約束の展開」を裏切ることをせず、焦らすようにすることで、場面そのものを強調していると考えられます。

チャーリーが激怒するのは容易に想像できる展開であり、それで怒られるレイモンドも可哀そうに映ります。気の毒ではありますが、滑稽な状況であり、客観視していると笑えてしまう展開だと考えられます。

ヒューマンドラマを描いた真面目な映画作品だと考えられますが、観客の二時間弱という集中力をもたせる為、意図的に笑わせる場面を挿入することで息抜きさせたかったのだと考えます。

物語本編においてベッドシーンの意味は薄く、場面が挿入されている必然性は弱いのです。やはり、物語性だけではない制作の意図がそこにあると考えるのが自然です。そして、レイモンドがスザンナのセクシーな吐息をモノマネしているのは、ウケ狙い以外の何ものでもないでしょう。

以上の点から、本編の中で唯一として、観客に笑わせる意図をもって制作されている場面だと考えられるのです。

理解し合えない兄弟

チャーリーとレイモンドのすれ違いと、二人の距離感が、ヒューマンドラマとして描きたかったことだと考えられます。

レイモンドの物に対する執着は異常なもので、特に、日用品や消耗品として使う製造メーカーへの拘りは異質なものでした。これは、チャーリーだけではなく、一般人の感覚としても異質に映るものです。しかし、この場面があることで、観客が悪役であるチャーリーに感情移入できる余地が生まれます。

元々は、施設から勝手に連れ出したチャーリーの自業自得とも取れます。

しかし、物語展開から、製造メーカーに拘って他のメーカーのものを一切受け付けようとしないレイモンドの姿は異質なものであり、悪役であるチャーリーに同情してしまう余地が生まれてくるのです。

ただ、重度の症状を抱えたレイモンドの方からは歩み寄ることに期待できず、チャーリーが歩み寄ること以外には選択肢はないのです。

ここが、この映画作品の仕掛けといえる肝の部分です。

こういった状況であれば、チャーリーが歩み寄らなければならず、物語冒頭では悪役として徹していたチャーリーが変化せざるを得ない状況なのです。そして、チャーリーが本当に心の底から腐った人間なのであれば、レイモンドを放っておき、そのまま置き去りにする行動もとれたと考えられるのです。しかし、チャーリーはその選択をせず、最後まで面倒をみようと行動しているのです。

観客のチャーリーという人物像にもっていた印象が覆る場面であり、観客の心を一気に惹き付ける場面だと考えられるのです。

離れ離れだった時間

チャーリーとレイモンドを隔てる壁として、同じ環境で育ってこなかったという事実が考えられます。

幼少期には一緒に遊んだ記憶が、僅かに残っていました。

しかし、離れ離れに過ごした時間が、二人の距離とそのまま比例していたのではないでしょうか。

ただ、本編の中で流れる時間は、長い時間ではありません。そして、上手くいかないまでも、兄弟としての愛情には目覚めていったと考えられるのです。離れ離れで過ごしたであろう時間と、本編の中で流れた時間を比較すると、明らかに本編で流れた時間の方が短いでしょう。

その時間の短さは、やはり兄弟という事実であり、兄弟としての絆であり、愛情だと考えられます。

重度の症状を抱えるレイモンドの兄としての、弟に向けられた愛情をしったとき、チャーリーの気持ちを汲み取ると堪らない感情が湧きあがってきます。

本編の物語の後、チャーリーはどんな人生を送ったのでしょうか。

きっと、兄の存在がなければ、悪役まっしぐらで犯罪にも手を染めていたのかもしれません。

レイモンドと過ごした時間は、チャーリーにとってかけがえのない時間になったことでしょう。そして、人間の心を取り戻せたという事実でもあると考えられるのです。

物語冒頭でのチャーリーの姿、そして、最後のチャーリーの姿の差異が、この映画作品の魅力の大きさと考えることができるのではないでしょうか。

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他のレビュアーの感想・評価

豪華なキャスト

とにかくキャストが良かった。トムクルーズとダスティンホフマンが演じた兄弟がなんとも愛おしく思えるくらいのめり込んだ。設定もなかなか面白い。チャーリーはしばらく会っていなかったサヴァン症候群の兄レイモンドに、父の遺産が大半入ってくることを聞き、お金目当てで近付く。最初はなんだこの最低な弟は!と憤ってしまったのだが、だんだんとレイモンドに惹きつけられ、そしてチャーリーの心はあたたかいものに変化していく過程が観ていて涙を誘った。チャーリーの根の優しさや、レイモンドの純真無垢さがこのストーリーに厚みを持たせている点だと思う。なぜチャーリーはレイモンドを見捨てられず、面倒を見るようになったのか、それはただ単に兄弟だから、というだけではなく、幼少期の「レインマン」、つまりレイモンドとのあたたかい思い出にあったように思う。そし自分のせいで病院に入院することになってしまったレイモンドに対する罪悪感がず...この感想を読む

4.04.0
  • hearlohearlo
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