マイノリティ映画の一級品
障害をもつということ
障害を持つ人を主題に置いた映画は数多く上映されています。例えば、「ギルバート・グレイプ」では、レオナルド・ディカプリオが知的障害を持つ子どもを演じました。「フォレスト・ガンプ」では、トム・ハンクスが知的障害を持つ成人を演じ、これも日本で有名な作品になっています。特に欧米ではナチスの障害者迫害の歴史や障害を持つ人の権利運動が盛んに起こり現在に至っているので、日本と比べて「障害者」に対する理解が進んでいると言われます。実際に知的障害を持つ人がサムの友人として登場する点も、この作品の特徴であると言えますが、これは障害を持つ人を受け入れる社会の体制ができているからこそ可能なことです。
ビートルズを用いる点
多くのアーティストが本作のサウンドトラックのためにビートルズのカバーを提供しています。ビートルズはジョンレノンの反戦運動のおかげもあって「ラブ&ピース」の象徴のように扱われることが多いですが、それ以上に「ワールドミュージック」であると点に考慮しなければなりません。アイ・アム・サムのサウンドトラックも世界中で売られて、グラミー賞にもノミネートされました。ルーシーの名前が「Lucy in the Sky with Diamonds」から来ているという点から考えても分かる通り、本作はビートルズについての前提知識を要すると言えます。作品に散りばめられるビートルズの知識は、「健常者」と「障害者」の共通性を引き出すことによって、ネガティブな「障害者」概念を脱構築していく機能があるのではないでしょうか。
物語としては単調でないか
「アイ・アム・サム」の物語は、単調なものであるとも言えます。親子が引き離されそうになるが、愛は強かったというのはいかにも映画だなという感想を持たざるを得ません。これは、日本のテレビドラマで障害を持つ人が主題に作品が作られるときも同様です。日本の場合は、俳優の演技力も含め「お涙ちょうだい」のドラマ・映画だと酷評される場面が少なくありません。
最も重要な部分はどこか?
それではこの作品の重要な部分は何か。私は俳優の演技力がすべてであると思います。サムを演じたショーン・ペンはこの作品でアカデミー主演男優賞にノミネートされていて、後に「ミルク」でゲイを公表した活動家ハーヴェイ・ミルクを演じ、アカデミー主演男優賞を受賞しています。ルーシーを演じたダコタ・ファニングは成人した今も第一線の役者として活躍しています。そしてなにより、サムの友人を演じた知的障害の当事者が輝かしい演技をしている、それがこの作品の最大の売りではないでしょうか。
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