切り裂くようにベルリンの街を疾走する、スタイリッシュなドイツ映画 - ラン・ローラ・ランの感想

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切り裂くようにベルリンの街を疾走する、スタイリッシュなドイツ映画

4.34.3
映像
4.1
脚本
4.7
キャスト
4.6
音楽
4.7
演出
4.3

目次

新鮮で痛快な、ひたすら走る映画

1998年ドイツ映画。本作はトム・ティクヴァの出世作で、この年ドイツ国内で最もヒットした映画になりました。この、当時においては相当実験的な趣もある破天荒な作りの作品が、かくも広く熱狂的に受け入れられたのだなあと、それほどまでに当時においては人々にとって新鮮で、痛快な映画だったのだろうなあと思います。

ベルリンの壁が崩壊してちょうど10年目に製作されたこの作品の舞台は、始めから終わりまでベルリンの街中。何かを切り裂くようにひたすらベルリンの街を失踪するローラの姿は、型破りでやぶれかぶれで、でもとても自由なかんじがします。

映像表現もやはり自由で挑戦的なものです。監督のトム・ティクヴァはどのようにキャリアを築いてきたかについてはよく知りませんが、デヴィッド・フィンチャーのように音楽関係のPVなどを手がけて来た人なのでは?と想像するほどに、音楽的でドライブ感のある映像です。アニメーションを上手く取り混ぜている辺りもさもありなんですし、全編に渡ってのクールな映像のインパクトと音楽のセンスの良さにわくわくとさせられます。ティクヴァはこの作品をきっかけにアメリカにも進出を果たしますが、やはり多くの作品で音楽を手がけており、彼のスタイルと絶妙な音楽のマッチングは切っても切り離せないものなんでしょう。

原題は「Lola rennt」で単に「ローラが走る」の意ですが、日本語題にもなっている「Run Lola Run」は英題。このタイトルは語感もキャッチーで忘れ難く、なおかつこの映画のせき立てるような疾走感をよく表していてむしろ原題よりいいなと思います。

随分前の映画なのに、「ラン・ローラ・ラン」というタイトルと、不器用なかんじの真っ赤な髪のローラのビジュアルのインパクトはずっと記憶に残っていたし、古びることないクールさを感じさせます。

バタフライ効果を面白く見せる

この映画はなんといってもアイデアありきで、若いエネルギーと勢いに満ちたそのパワーに圧倒されるように最後まで見せきってくれます。ストーリーは「20分後に何としても恋人の元に10万マルク届けねばならないローラが、現実を三たびやり直す」というもの。

基本は同じところからリスタートし、同じ過程を繰り返すのだけど、例えば犬に吠えられる、通行人とぶつかる、車に轢かれそうになる、そういった些細で偶然的な出来事がその後の結末をいずれも大きく変えてしまう。

これは「力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象」すなわちバタフライ効果のことですね。蝶のはばたきひとつが世界を変えるのだ、と。

日本にも「袖触れ合うも他生の縁」という言葉がありますが、そうして一瞬袖触れ合ってしまったら、そこにはある感情が生じ、ある言動が起こり、その蓄積がその人の人生の流れを変えてしまう。

切り裂くように走り抜けて行くローラに「一瞬触れ合った」人々が、その後どうなったか、ということを、フラッシュバックのような映像で見せる演出も面白かったです。やはりどこで、どういう風に触れるか、あるいは触れないかで三たび違う人生になっていくという面白さ。

刹那的で破滅的な恋人たちの魅力

やはり圧倒的に「ローラ」の映画なのですが、主演のふたりがいかにも刹那的な、破滅的なカップルといった風情でなんだかいたいけで。全然だめだめな人たちなのに、いつの間にか手に汗握って「がんばれ、がんばれ」と心の中で応援してしまうのでした。

フランカ・ポテンテは、けしてすごい美人ではないし、ちょっと太めで女優さんにしてはスタイルもなんだか微妙。でも目力があります。頑なまっすぐさがひたすら走るローラに良く似合っていました。彼女が叫ぶとコップが割れて、鏡も割れて、人々は耳を塞ぎ、ルーレットは彼女の賭けた位置に止まり。そんな整合性も何もない爆発力がこの映画の魅力なので。

彼女はこの映画の後数年間監督のガールフレンドだったようですが、お互いがアメリカ進出した頃に別れています。2000年代には「ボーン・アイデンティティ」のヒロインをやったり、ベニチオ・デル・トロの「チェ」でもヒロインと活躍していましたが、このところあまり見かけない気がします。ハリウッドで女優をやっていく上での40の壁って、相当クレバーに自己プロデュ−スしないと、なかなか難しいものがあるんだろうなあ・・・。彼女に限らず。

私的にはボーイフレンド役のモーリッツ・ブライプトロイが良かったですね。俳優一家のサラブレッドという出自なのに、なんともあのチンピラ感が可愛くて。いや、実はお坊ちゃんだからこそチャーミングなチンピラだったのかも。

始めの二たび、「死んだ」後に、ベッドで取るに足らないことを語らうふたりのシーンが差し挟まれるのですが、赤いフィルターでとてもきれいに撮影しており、二人がはっとするほど美しく見えました。親密な感じがして素敵でした。

そして突如「別れるなんて!ありえない!」とばかり、現実がリワインドされる。最後は型破りのハッピーエンド。映画ってつくづく何でもありで楽しいなあと思います。

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