ブラックユーモアの散りばめた自分探しの話
この作品の冒頭は「ブスになりたい。誰からも愛されるブスに。」
もうこれだけで「なんで??」と疑問が湧いてきそうな気になる台詞ですよね。
普通ならブスのほうが損な筈‥世間一般的なイメージだとそうなのに、この作品は全く逆のことを言っています。
美人、というだけでこんなに人生苦労しなくてはならないものなのか‥というのがこの物語の筋です。
主人公の泉は誰が見ても筋金入りの美人ですが、その顔のせいでストーカー行為を受けた女性に嫌がらせを受けたりと悲惨な人生を歩んでいます。
自分というものをしっかり持った性格なら良いのですが、もともと臆病な性格も断って、唯一自分を愛してくれる既婚の画家とモデル兼不倫の関係を持っています。
彼女の唯一の居場所は彼の愛人でもあり絵の中、だったんですね。他にお金持ちの中学生だったり、少しぶっ飛んだおばあちゃんが数少ない彼女の親友のような存在です。
だから彼女は美人であって男に怖い目に合わされるよりも、自分に自信を持って愛されるブス、になりたかったんだと感じます。
泉に片想いした美大生、泉の失恋
美しい容姿の泉に片想いした男性の中に、天然パーマメガネの美大生、赤松が出てきます。彼もあるキッカケがあり泉と交流を持つのですが、その美しさからある一度だけ泉にモデルをやってもらい彼女の絵を描きます。
しかし、愛人である画家、青山仁に泉はあっさり捨てられます。原因はその赤松の描いた泉の絵のあまりの出来栄えに「もう自分には泉を美しく描くことができない」とプライドを折られたようです。
唯一の居場所であり、愛した人でもあった仁に捨てられたことで泉は絶望に近い感情に落とされたと思います。ただでさえ自分に自信がない上に男性恐怖症、臆病な性格の泉に居場所が無くなるというこては、生きている意味を失う事に近い絶望があったと感じられます。
愛人と妻の奇妙な関係
後で少し強気でぶっ壊れたテンションの仁の妻、ゆっこが出てくるのですが、なんだかんだいって世話焼きの彼女は夫の愛人である泉を毒づきつつも影でサポートしてくれる存在になります。
青山仁はその後外国で酔って川で溺れ意識不明になるのですが、その重体の仁と泉を再会させたのも彼女です。ゆっこは自分の得もちゃっかり考えてはいるのですが、この一言が大きく泉自信を変えていくような気がします。
そして、赤松も、お金持ちの中学生のつねも、ぶっ飛んだおばあちゃんのトキもそれぞれめちゃくちゃな事をしていますが、何だかんだ言って泉なことを心配しているのです。
泉には居場所がない訳ではなく、自分から居場所があることを否定していた、ようにも取れます。
それに気づいた時、泉は自分の顔が好きになります。そして自分の事を強く肯定出来るようになります。ブスにならなくても、この顔が好き、と赤松に公言できるまでになります。
この物語は自己肯定感の高さはいかに重要か、他者に承認欲求を気にして生きることは自分をどれほど傷つけているか、を感じさせてくれる作品です。
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