さすがフランス映画 - バルタザールどこへ行くの感想

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さすがフランス映画

3.53.5
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
2.5
演出
3.0

目次

バルタザールどこへも行けず

まさしくフランス映画らしい小難しい映画であった。「バルタザールどこへ行く」というタイトルから想像すると、バルタザールというロバがどこかに行ってしまい、それを探す物語ではないかと思っていた。しかし、実際はそんな感動的なラストを迎え得る物語ではなく、かなり重々しい物語である。ロバの視線を通して人間世界の醜さや悲劇さを描いていくといった内容なのであろう。とても痛切な仕上がりになっているが、あまりにロバの扱いがひどすぎると感じた。ロバに対する暴力といい、サーカスをやらされたり、労働させられたり、人間世界の醜さよりもロバの数奇な人生の方が圧倒的に目に留まる。途中で檻に入れられた動物が映されるが、その描写から人間に飼われる動物の悲惨さも本作では描こうとしていることが伺える。そこを鑑みると私としては、本作は人間達の醜さを描いているというよりも、人間に虐げられる動物の悲劇を描いているという印象が強いと感じる。

言葉も発しないバルタザール。切なげな眼だけが彼の感情の表れである。その描写を観るたびに、バルタザールよ逃げ出せ、と思ってしまう。しかし、彼はひたすらに周りの人間に振り回されるだけで、最後はぽっくり死んでしまう。あの死骸は本当に哀れである。こうした終わりまで観たとき、バルタザールは結局どこにも逃げることができず、哀れな一生で幕を閉じたのだなと感じた。つまり、バルタザールはどこへも自分の意志では行けずに一生を終えたのであり、そう考えるとタイトルは逆説的な意味を含んでいるのではないかと思える。実に皮肉がたっぷり込められているなと思い、やはりフランス映画だなと改めて思い知らされる。

マリーという女性

冒頭のシーンのあの幼く可愛いらしいマリーがまさかこんな奔放な人生を送るとは実に意外な展開であるが、実に女性という〝性〟を強く感じさせる展開であると思った。

まず、幼馴染の清き青年との約束をすっぽかし、性悪の男性に身を捧げてしまう。最初は嫌っていたにも関わらず、何故身体を許してしまったかと言えば、結局は自分に言い寄ってくる男というものに自分が誘惑し得る快感というものがあり、またどこか悪い男に身を投げるスリルに、マリーは負けたのである。そして、親に反対されても彼を頼りにする、心中感にまで発展し、最終的にはぽいっと捨てられてしまう。このようなマリーはまさに女性という〝性〟を生きていると感じた。

その極め付けが「不幸が好きなの」というセリフである。マリー自身に悲劇のヒロインぶろうという意志があることが伺える。同じ女性だけに女性という〝性〟に振り回され、そのような行動を起こしたくなる気持ちも分かる。しかし、あまりにマリーは奔放すぎてしまった。その結果悲劇的な人生を送ることになってしまったのである。ただ対象としてバルタザールのことを考えると、自分の意志で選んで、そのような道を辿るようになったのであるから、彼よりはましな一生なのだろうと思える。逆にバルタザールのような動物の哀れさをより強調する効果があるのではないかとも考えられる。

マリーの最初の幼い清い頃から最後に至る転落。果たして彼女は自分で選んだとはいえ、どこまでそこに耐え得るのだろうか。この物語はその結末までは描かれているわけではなく、あくまで転落までである。この物語後、マリーは逆転できるのか。悲劇のヒロインは無事にハッピーエンドを迎えるのか。このまま数奇な人生で幕を閉じるのであろうか。前者であってほしいが、バルタザールの一生に引っ張られる要素があるのではないかと考えると、後者が有力なのかもしれない。

こういったことを考えたくなるのは、マリーを演じたアンヌ・ヴィアゼムスキーという女優が綺麗且つ陰鬱な雰囲気を兼ねそろえ、女性という〝性〟の部分を強く感じさせてくれたことが大きいと思える。終盤でのおじさんに身体を売ってしまう描写などは転落の絶頂、性を売りに出すという、まさに女性という〝性〟の描写の極め付きであると考える。女優の力量が足りないと、ただ身体を簡単に売ってしまう残念な女性に見え、安っぽいシーンになる危険性がある。しかし、アンヌ・ヴィアゼムスキーの身体のラインが素敵であり、彼女の独特な雰囲気がその危険性を廃止し、このシーンを深みのあるものにし、マリーの女性という〝性〟をさらに浮き彫りしたと感じた。

ロバの数奇な一生だけの話ではなく、やはりなんだかんだマリーという女性も物語の中心として光っていた。

夜の映像が綺麗

白黒映画の中、本作の印象的な映像は夜の映像である。夜に忍び込む際の悪グループたちの足の描写や、満月の描写は実に素敵だった。暗闇がこうも綺麗に陰影を出せるのは白黒映画だからなのか、本作が工夫して撮影しているのか実に素晴らしい。この闇夜が綺麗だからこそ。本作が描きたい人間世界の醜さつまりは闇といったものが、また印象深くなるのではないだろうか。

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