「世界名作劇場」シリーズのターニングポイント
「世界名作劇場」シリーズの作品とは
“名作”とあるように、既存の小説や童話など、特に昔から世界の人に親しまれてきた外国の作品を原作とした作品で、それを1年間の長期にわたって丁寧に描いていくシリーズ。一時期、フジテレビの日曜夜7時半と言えば名作劇場というくらい人気を博していた。
シリーズ20周年の作品
「世界名作劇場」に含まれる作品については諸説あるが、現在最もポピュラーなものは日本アニメーションが制作するようになった「フランダースの犬」以降の作品とするもので、これを第1作として数え、本作は第20作に当たる。つまり、シリーズ20周年作品、というわけである。だからこそ、日本アニメーションは力を入れたのであろう。まず、それまでにない豪華な声優陣を配した。林原めぐみ、池田秀一、水谷優子、緒方賢一、納谷六朗、増岡弘、矢島晶子(敬称略)など、軒並み当時全盛期の声優を起用した。そして、「世界名作劇場」シリーズ初のオリジナル作品を採用、舞台が現在(放送当時の1990年代)であること、日本が登場すること、主人公が日系人(母親が日本人)であることもシリーズを通じて初である。
作品自体は悪くない
伝説の「ヒカリクジラ」を求めて海洋調査船“ペペロンチーノ号”で世界中の海を旅していくストーリーは悪くない。海の話らしく環境問題や生態系についての問題を投げかけている。また、旅の途中で亡き母について忘れていた記憶を取り戻すというストーリーは、親の愛情をテーマにしているともいえる。さらに、物語途中での相棒の死は命とはどういうものかを考えさせてくれるストーリーになっている。今の子供たちにも勧めたい作品ではある。
シリーズにはふさわしくない作品
しかしながら、「世界名作劇場」シリーズとしてふさわしかったのかは疑問が残る。“名作”という概念が完全に崩れ去ってしまったからだ。本作以前は「古くから親しみをもって読み継がれてきた作品」と定義できた。しかし、オリジナル作品である本作には当てはまらない。あえて新しく定義するなら「後に名作になりうる作品」とでもするのか。まさしく“「世界名作劇場」のターニングポイント”と言える作品であろう。本作以降、「世界名作劇場」は迷走していく。原作からかけ離れたストーリーになってしまったのだ。「ロミオの青い空」「名犬ラッシー」ではオリジナルの展開(「ラッシー」については放送打ち切りのため、という理由もある。打ち切りがなければラッシーのたびの話が存在したということである)になってしまったし、「家なき子レミ」ではこともあろうに主人公の性別が変えられてしまった。男の子から女の子になったことで危惧された通り、後半は恋愛物語にすり替わってしまった。“名作”とは何なのか、ということを忘れてしまった本シリーズは「家なき子レミ」をもって一時終了することになってしまう。このため、その遠縁となった本作「七つの海のティコ」をもって“名作は死んだ”と称する人もいるくらいである。私も同感である。
シリーズ終焉へ
ただ、シリーズが終わったのは内容の問題だけではない。第1作「フランダースの犬」では20%を超えていた平均視聴率は本作前の数年は15%前後になっていた。20周年ということで気合を入れたのだと思われるが、期待とは裏腹に、本作の平均視聴率は13%(ウィキペディアより)。以降、急激な下降線をたどることになる。他局に強力な裏番組があったということもあるが、理由は別にあると考える。まずは時代の流れであろう。主人公が苦難を乗り越えて、というストーリーが受け入れられにくくなってきた、ということがある。これは10年後にBSフジで復活した「世界名作劇場」が3作しか続かなかったことからもうかがえる。そして、最大の原因として私が考えているのが「放送枠の問題」である。この「世界名作劇場」というのは、その性質上、“長期にわたってじっくりと描く”“連続性のあるストーリー”である。全話数に注目すると、当初は50話前後、第4作「ペリーヌ物語」では元日から大晦日までフルに使っての全53話だった。それが40話になり、本作ではついに30話台になり、通年放送最後の次作「ロミオの青い空」では33話にまでなってしまった。これではじっくり描けるわけがない。加えて、全30話台だとどういうことが起こるかというと、春と秋の番組改編期に1か月以上も放送がない状態が続くことになる。これは“連続性のあるストーリー”には致命的で、1か月も放送がなければ前の内容など忘れてしまう。特に「ロミオの青い空」では、ストーリー最大の山場で放送が1か月以上空いてしまった。これでは視聴者が逃げていっても仕方ないではないか。私は、「世界名作劇場」を“殺した”のは日本アニメーションでありフジテレビであると思っている。20周年で視聴者を取り戻すためにやるべきだったのは、豪華声優陣でもオリジナル作品でもなく、他にあったのではないだろうか。「世界名作劇場」は子供たちに愛と勇気、夢や希望をもたせる大変良いシリーズだったので、このような終焉の仕方だったのは残念で仕方がない。
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