心地良い気分にさせてくれる殺人事件
現代をうまく描いた殺人事件
殺人事件を扱っている映画や小説はありますが、「白ゆき姫殺人事件」は、今までにない面白さが詰まっている作品だと思いました。特に、綾野剛扮する赤星が、知り合いにインタビューしたことから、犯人ではない人物を犯人に仕立ててしまいます。
この映画の凄いなと思う所は、インタビュー、テレビ画面、ツイッター、登場人物の独白という、数の多い場面を、練り込んだ構成でつなぎ合わせて、描いている所です。今までの、殺人事件やサスペンス映画では、犯人からの視点、被害者からの視点、刑事からの視点という、ある意味ワンパターンの構成しかなかったのですが、「白ゆき姫殺人事件」は、あらたに、観客の視点を取り入れています。まるで、映画をみている私達が、インタビューでの情報を得て、ワイドショーを視聴者として見ている、という構図がなりたち、ますます映画の中に引き込まれていくのです。
私も、映画の策略の通りに、城野美姫が犯人だと思ってしまいましたが、こんな結果になるなんて、思ってもみませんでした。美姫さんに、謝らなくてはいけませんね。
地味OLの井上真央が絶品
登場人物の中で、城野美姫を演じている井上真央の演技が、絶品です。本来なら、彼女は地味なOLではなく、三木典子として演じている奈々緒にも負けないぐらい光を放つ女優さんですが、作品の中では、見事にその光を消し、さらに、殺人犯として仕立てられてしまった苦悩するOLとして、名演技をしています。私の好きな場面は、何と言っても、コンサートで突き落としてしまった、あの場面。きっと誰もが、彼女を応援し、なんとか、彼と握手して!と思いますが、彼を突き落としてしまう事になるのです。なんだか、人生って上手く行かないものなんだなあと、妙に納得する気持ちと、そのあまりにもの悲劇に、面白くて可笑しくなります。悲劇こそは、最大のコメディだ、とは本当の事なのですね。
人が持っている思い込みの恐怖
人の思い込みって怖いですね。特に、えん罪と言うのは、全くの無実の人を犯人に仕立て上げ、本当の犯人は逃がしてしまう訳ですから、犯人を探し出す以上に、罪が重いという事です。現実には、サリンの時にマスコミなどから、犯人に仕立て上げられた事件もありましたが、私もマスコミからの情報をうのみにし、犯人なんだと納得したものでした。そう言う意味でも、人も思い込みは、真実を、曲げて無きものにする、とても怖い精神なのだなと思います。
美人って性格わるい?
やっぱり、美人って性格が悪く書かれることが多いようですね。きれいな方を見ていると、美しくて羨ましいなと、思う反面、今回の役柄である、意地悪なイメージにはピッタリですね。
美人の方が、全て意地悪という訳ではありませんが、小さな頃から可愛いねと言われ続け、周囲からちやほやして育てられると、女性はどうしても、女王様の様な気分になってしまうようです。もちろん、そんな方は、ごく一部なのでしょうが、美人イコール意地悪の定義は、根深いものがあり、描くうえでは観客を納得させてしまいます。
心が温まるラストに涙
「白ゆき姫殺人事件」は、OLが殺され、誰が殺したかを見つける犯人探しですが、これまでの犯人の苦悩や、事件の真相そのものを暴く事をテーマにしていないように思えます。そういった描き方が、殺人事件を扱っているのにワンパターンではなく、違った面白さを醸し出している作品として、仕上がったと言えるでしょう。
テーマの一つに、友情があります。城野美姫を犯人に仕立てたために、周囲の人は彼女を犯人扱いし、「やっぱりな」と、疑いの目を向けますが、彼女の友人達はそうではありませんでした。これこそが、真の友情だなと感じると同時に、殺された三木典子のような人間には、本当の友達はできないのだろうと確信しました。三木典子は、上っ面な人間関係しか築くことができません。それは、自分の美しさという、表面上の部分でしか勝負しないからです。本当に大事な部分は、心の中にあり、勝ったとか負けたとか、人と比べることは、どうでもいいことなんだなと、思い知らされますね。
そう言った意味も含めて、「白ゆき姫殺人事件」のラストは、とっても良かったです。身も心も傷ついた城野美姫を支えてくれたのは、苦しい時も辛い時も、友人として一緒にいた幼い頃からの親友でした。
この部分は、現代のいじめ問題に強く通じるものだと考えます。苛められる時に、一番苦しいのは、きっと友達だった友人に裏切られることだと思います。あんなに仲良かった、友達が、自分を苛める側に回る時の敗北感。そんな気持ちに、友達をさせないように、友達が苛められていても、自分だけは側にいてあげる勇気を持っていれば、いじめ問題も少しは解決してくれるのではないでしょうか?そんな事を、強く感じさせてくれた「白ゆき姫殺人事件」でした。
殺人事件と言う題名からは、想像もつかない展開の作品、監督も脚本も、原作も優れています。
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