体当たりの先生と素直な生徒たち
ドラマ名から引き込まれる、感情豊かな学園物語
みにくいアヒルの子は、子供の頃、あまりドラマを見せたがらなかった母が珍しく家族で見ることを許したドラマだ。題目からして特徴的で目をひいたことを覚えている。美しい大人へと成長していくために、笑ったり泣いたりドロにまみれたりと、周囲ともみ合って過ごしていく子供達の姿をアンデルセンの童話であるみにくいアヒルの子に見立てて描いたセンスある題目である。もちろん、子供達は自分がみにくいアヒルの子であるとは思っていないし、言われたところでいい気はしないだろう。大人になって初めて、アヒルの子として過ごした時間がいかに大切だったかを思い知ることになる。そんなことをドラマを観る前から感じさせられる。学校に子供が通う以上、そこで子供達を成長させるのは先生だ。私もこんな先生に出会えていたらとつい思ってしまう、どこまでもまっすぐで体当たりで子供と向き合う愛されるべき先生と、その思いを素直に受け取ることのできる子供達の物語である。
先生というイメージの先入観を覆す良い見本
主人公の先生は北海道の出身。北海道と東京を舞台に子供達と向き合う。「北海道はでっかいどう」とよく子供達に語って聞かせていた。個人的には、こんなあっけらかんとした先生は本当にいるのだろうかと思ってしまう。どこか頼りがない。子供達はそれぞれに問題を抱えている。いじめや家庭の問題、転入生、恋愛。現実にもクラスにひとつは抱えているだろう問題を一話一話で作っていく。先生はとまどいつつも過去のつらい思いをもう二度と繰り返さないように決して投げ出さず子供達に語り続ける。そしてこの先生には必ず、北海道から一緒だった片思いという女性と同僚が暖かく周囲を囲っているのだ。なぜ、この先生は私は頼りなく見えるのだろう。私のイメージだと、先生というのはスーツだったりきれいなジャケットを着ているような感覚でいる。でもこの先生は違う。ちょっと着古したジャケットを羽織り、あまりかまわない様子の髪型で登場する。そんな姿でおおらかに大きな声で授業する。何も知らない、初対面では大丈夫かな、という空気感を漂わせているから、どことなく頼りないのである。だけどそれが、少しずつ信頼し始めてきた子供達にとっては親しみやすい、いつでも飛び込んでいける大きな船になっている。先生の見た目だけで人柄を感じさせる、素晴らしい演出である。
子供達の素直さと愛くるしい奮闘物語
私が一番印象に残っている場面は、先生が生徒に刺されて傷を負いながらも、それを隠してクラスをまとめるため学園祭を盛り上げようとする場面である。転入生へのいじめ、自分を守るために自分も相手をいじめ返す。そしてまた自分を守るために持っていたナイフが先生を貫く。いじめは、昔から現代に至るまでなかなか消えない問題だ。社会問題となっている。子供達のSOSは周囲の大人が感じ取り、手を差し伸べなければならないのに、それがなかなか難しい。きっと、この先生は全身で子供の叫びを受け取り、愛情で返したかったのだろう。本当に涙が止まらなかった。こんな先生とクラスを作れたらいいのにと思った。ドラマの中の子供達がうらやましかった。でも、先生がどんなに頑張っても、クラス全員の子供たちをまとめるには、子供達の力も必要だ。クラス数人が反抗的だったら、感動的なシーンも成り立たなかったかもしれない。先生からしてもらったこと、かけてもらった言葉を一人一人が少しずつ自分のものにしていく。最初は懐疑的だったかもしれない。でも、ちゃんと先生の言葉を自分の言葉に落とし込むことができ、今度は学校行事を成功させること、そしてクラスで一致団結して奮闘することで先生に恩を返すことができる素直な子供達に、拍手を送りたくなる。両者の関係を見ると、今の学校の現状はどうだろうかと考察せずにはいられない。
目や耳に訴えかける、見ごたえあるドラマ
このドラマでもうひとつ感動的なのは、同じ北海道出身の歌手、松本千春が歌う主題歌と挿入歌である。北海道らしい、ひろびろとした空気を感じることができる、思わず深呼吸したくなる曲だ。空や大地は限りなく広い。それはどこまでも続いていて人間なんて到底及びそうもない。大自然の前に人間は当然かなわない。だから、人間が抱える問題はほんのちっぽけなものだ。そんなことにくよくよ悩むなら、この大自然で生き抜くためにただ前に進んで歩いていこう。そんなメッセージを感じさせられる。聞いているだけで心が大きくなる、気持ちの良い音楽だ。このドラマは脚本も素晴らしいが、先生の風貌、態度、そして音楽という演出が子供達を包み込む大きなキーワードになっている。観ている私達にも、とても分かりやすく伝えてくれるメッセージ性の強いドラマだ。ただ感動させるだけの学園ドラマではない。現実の多くの子供達が抱えているであろう問題に気づき、困っているなら手を差し伸べてほしい。そんな今も変わらない問題に訴えかけているような気がしてならない。もう一度、最初から観たいドラマである。
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