強烈なキャラクターが魅力
イヤミスの女王、真梨幸子の名作
本作は言わずと知れたイヤミスの第一人者、真梨幸子の8作目です。初版時は『更年期少女』というタイトルで、表紙は少女漫画のお姫様のイラスト、裏表紙はおばさんがお姫様のコスプレをしているイラストが描かれていました。(ちなみに、この時帯には「夫も子供も、みーんな邪魔!」と書いてありまして、これが文庫時のタイトルの萌芽だったのかと後から気づきました。)表紙とタイトルから、イタいおばさんが出てくるんだろうと想像していましたが、想像以上にイタいおばさんしかいません。今回は目を背けたくなるほど醜い、青い六人会のメンバーについて掘り下げます。
青い瞳のジャンヌを愛する「青い六人会」—注目の3人
エミリー(本名:枝美子)
グループ1の新参者、エミリーの特徴はその流されやすさにあります。夫とのマンネリな夫婦生活にうんざりし、「ここではないどこかに行きたい」「あの時漫画家になっていれば」など常にグジグジと悩むタイプ。なので、シルビアが漫画家であるという嘘にも簡単にひっかかり、秘密を知っていると言われれば簡単に金を渡してしまう。正に「愚者」。エミリーの章を読むと、あまりに簡単に騙されるのでやきもきが止まりません。ですが、真梨作品ではこういう騙されやすいキャラは、とても重要だと思います。『お引越し』では「この部屋を検討している方が、あと二人ほどいらっしゃるのですが、どうされますか?」と囁かれ乗せられるキヨコ。『殺人鬼フジコの衝動』では「あなたは母親に似ているから。母親のようになるに決まっている」と繰り返され、殺人を繰り返すフジコ。このような暗示にかかりやすいタイプは、真梨作品に頻出するお得意のキャラとも言えるかもしれません。
ミレーユ(本名:稲子)
本作は『殺人鬼フジコの衝動』後に出版された作品ですが、ミレーユはフジコのキャラクターが強烈に活かされています。「あたしが長女なのに、あたし抜きで決めやがって」「うるせえババア!」などと家族に対して暴言を繰り返し、とにかく何もせずに金を得ることだけを望む女性。母親と二人暮らしの共依存家族で、自ら母親に暴力をふるったことで母親を介護が必要な身にしておきながら、まさかの介護放棄。最終的には母親を衰弱死に至らしめるという・・・本当に強力なキャラクターです。私が思わず声をあげたのは、つがいのハムスターに餌をあげずに放置した結果、共食いしながら腐っていったところ。フジコが自らの娘を押し入れに放置し、頭に虫が湧いていたときも「うっ」となりましたが、ミレーユはある意味フジコ以上に「臭い物に蓋をし続ける」ことができるのです。嫌な事からとことん目をそらし続けられる。見たくないものは絶対見ない。欲しいものはその場の衝動で手に入れる。このキャラこそ、真梨幸子の真骨頂だと思います。
ジゼル(本名:早苗)
上級公務員の妻で、家は三鷹台から歩いて15分、井之頭公園すぐの一等地。いわゆるセレブ妻であるにもかかわらず、全てが気に食わない。「要するに、失敗だった。子育ても。もっと遡れば、結婚も。とにかく、すべてが失敗だった。」とあるように、不満に不満が重なりがんじがらめになっていきます。このキャラはデビュー作『孤虫症』の主人公・麻美に通じるものがあります。麻美もまた、ニュータウンT市のシンボルタワー「スカイヘブンT」という高層マンションに居を構えながらも「本当は最上階がよかったのに」と文句を言う。夫は会社の花形部署のチーフマネージャーで、順調な出世街道を歩んでいる勝ち組なのに、複数の男と身体を重ねる。「何が不満なの?」と言いたくなるほど恵まれているのに満たされず、もっともっと求める底なしの欲望。これもまた、真梨作品では定番のキャラクターだと言えます。
衝撃のラスト
真梨幸子は常にミステリーとして作品を完成させることを意識しており、「意外な人が犯人」という設定やどんでん返しを好む作家です。最新作『6月31日の同窓会』や、『殺人鬼フジコの衝動』、『インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実』でも大きく広げた風呂敷をラストで見事にまとめきっています。このような作品作りについて、真梨幸子はインタビューで次のように語っています。「他の作品にもいえるのですが、はじめから計算して構成しているわけではなく、ある程度素材を料理したあとに、並べなおすんです。つまり、編集するんです。この作業はどこか運任せで、一種のギャンブル。なので、大負けすることもあるんです」。そのためツイッターでもしばしば、「このまま話がまとまらないのではないか」「お蔵入りになるのでは」との不安をつぶやいているほど。初めから計算して風呂敷を広げないというのが真梨作品の特徴だとすれば、満足のいく作品になるかどうかは非常にギリギリの問題だとわかります。
さて、本作のラストで用いられるトリックは所謂叙述トリックに分類され、女性だと思って読んでいたガブリエルが男性だった、というところが物語の最大のキーポイントになります。この、ガブリエルが女性であるかのような書き方が本当にうまい。「ガブリエルは、このグループで一番若かった。なのに、グループの中で、最も理性的で理知的だった。まるでお芝居にでてくるような中性的な雰囲気で、実際、美しかった」などと書かれると、宝塚の男役のような美形男装女子をついつい想像してしまいます。その実、元ホストのフリーライターだとわかった瞬間、一気に見える景色が変わりました。まんまと真梨幸子の仕掛けにはまってしまったのです。
本作は強烈な女性キャラクターだけでも十分面白いのですが、構成も十二分に練られており、ミステリーとしても楽しめる珠玉の作品であると言えるでしょう。
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