瀬戸内海の歴史に御手洗潔が挑む! - 星籠の海の感想

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星籠の海

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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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瀬戸内海の歴史に御手洗潔が挑む!

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文章力
5.0
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
4.0
演出
3.0

目次

故郷、瀬戸内海への思い

島田荘司が故郷、瀬戸内海を舞台についに筆を取った。しかもそれは記念すべき御手洗潔のスクリーンデビューのための作品だという…。このニュースに、10年来の御手洗ファンである私は読む前から喜びに震えていました。

物語冒頭はいつものように石岡君が女の子に夢中になってしまうところから始まります。女の子に呼び出されるとホイホイ会ってしまうところは、『暗闇坂の人喰いの木』から変わってないですね。鼻の下をちょっと伸ばしながらタイフードを食べに行く石岡君。「少しくらいなら、いけないことをしても解らないね」なんて軽口をたたきだすので読者としてもそろそろストップさせたいと思ったところで御手洗潔の登場!この登場シーン、正に映画にピッタリ!とてもコミカルで印象的だと思います!御手洗ファンが黄色い声をあげる状況が目に浮かびました。

さて、その女の子の紹介でたどり着いた謎は、瀬戸内海の興居島に6人の死体が流れ着く、というもの。ですが、この謎はあまりにあっさりと解決してしまいます。上下巻もあるのにどうするんだろうと思いきや、なんと瀬戸内海の歴史の謎にまで挑戦することになるのです。

幕末の黒船来航-歴史的謎に挑む

黒船来航時、「星籠」という武器があったのではないか。そんな文献を発見し、調査に乗り出す御手洗たち。更に日東第一という怪しげな宗教。俳優を志し上京するも、何も得られず帰郷した小坂井青年。「何も聞かないで言う通りにして」と言い、自らの腹部を刺す女性。いくつもの謎が交錯する中、次々と御手洗が解決していくのが爽快です。

島田作品の素晴らしいところは、途中で登場人物の視点が変わっていくところだと思います。例えば小坂井青年。例えば滝沢教授。それぞれの視点でそれぞれの物語を読むと、たぶん犯人だろう人間にも同情してしまいます。それは、まるで最初から犯人視点で描かれる倒叙小説を読んでいるようなもので。登場人物一人一人に共感し、深く理解しながら読むことができるのです。ちなみにこの手法は御手洗作品によく用いられるのですが、『眩暈』ではそれが読者を惑わす大きな謎でしたし、『水晶のピラミッド』では事件解決の糸口にもなる大きなヒントでした。

更に、このように登場人物の視点で描くのはもう一つ利点があると考えています。それは読者を欺くこと。ミスリーディングの方向に自然と首を向かせるということです。ミステリを読む人はほとんど「犯人は誰か」を考えながら読みます。そして意外な人物が犯人であることに驚く。これが「驚愕のラスト」の常とう手段です。島田ミステリはこの「視点の変化」により、鮮やかに読者を騙していくことが多いです。なので、今回もそういう展開かと思いきや、今回はある意味でベテラン御手洗ファンを裏切るようなストレートな解決でした。

全ての解決

そもそもこの作品、女性陣がちょっとキャラ立ちすぎると思うのです。女優を夢見て上京したのに夢が叶わなかった少女はガソリンを被って焼身自殺するし、ベビーシッターをしている少女はいきなり自分の腹を切るし…。今までも御手洗作品にはちょっと押しの強い女性(松崎レオナなど)が登場してきましたが、今回は群を抜いて女性がおかしいですよね。誰がどう見てもこのベビーシッターの言動がおかしすぎます。どう見ても犯人。怪しいどころではなく、完全にクロでした。小坂井青年がどうしてこんなに言われた通りに射精したり死体(とは知らないにしても中身がなにかわからない紙袋)を預かったりするのか、彼の半生を知っていてもなお理解に苦しみました。なので、この作品は「誰が犯人か(フーダニット)」には重きを置いていません。完全に、「なぜ殺したか(ホワイダニット)」が解決編の中心になるだろうとわかります。

しかしまずは犯人を挙げる必要があります。そこで御手洗は、2人いる犯人を1人ずつ籠絡することにしました。この本を読んだ誰もがきっと息を飲んだクライマックス。船の上で御手洗が小坂井青年に詰め寄る場面が、一番御手洗の魅力が現れているように思いました。火サスの崖シーンのようなギリギリの攻防は、読んでいる手が震えるほど。このあたりも、他の作品よりスクリーン化を意識しているように思います。「どうしてその抽斗だと解りました?小坂井さん!?」「それはあなたが居比さんの家に入ったことがあるからだ」という渾身の詰め寄り。それに対し、全部の抽斗を開けたんだと主張する小坂井青年。そんな彼に、御手洗はゆっくりと促します。「抽斗を、開けてみてください」「どれでもお好きなところを」と。そこで、他の抽斗が全て釘打ちされていたと解った時の犯人の絶望!読者の爽快感!この作品の一番素晴らしいシーンだと思います。

犯人にひねりがないのにここまでミステリとして完成しているのは、この解決編の鮮やかさにあると言っても過言ではないと思います。また、日東第一教会の目論見を看破し、見事に国外逃亡を阻止する御手洗。ドン・キホーテのように大きな客船に立ち向かう御手洗に「星籠」が味方する。このスケールの大きさは、島田荘司がこの作品に熱を入れている証だと思いました。

瀬戸内海という特殊な海を舞台に繰り広げられる、探偵御手洗の鮮やかな活躍。是非、スクリーンで観たいと思いました。

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