大河ドラマ『江』に対する一考察 - 江~姫たちの戦国の感想

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江~姫たちの戦国

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大河ドラマ『江』に対する一考察

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歴代大河ドラマを幼少の頃から鑑賞してきた私にとって、この『江』という作品は非常に衝撃的な作品であった。もちろん「悪い意味で」である。歴代ドラマにランキングをつけることを許されるならば、迷わずワースト1に選ぶであろう作品だ。何がそんなに悪いのか。それは「歴史に対する愛情が微塵も感じられない」ということだ。歴史に愛情?と首をかしげる方もいるだろう。歴史ドラマというのは、歴史上の人物を描く物語であるが、我々はその人物について知識はあっても、その人物や時代背景を実際に目にしたことはなく、その意味においてはSFドラマと同じ範疇にある。つまり、「誰も見たことがない」のだ。だからこそ作り手の思惑次第でその人物をいかようにも表現することができるし、それがいかに史実と間違っていようと「誰も見たことがない」のだから反論のしようがなく、事実として後世に一人歩きしていく可能性もあるのだ。作り手側に歴史上の人物に対する「愛」があれば、史実と反していても快く受け入れられよう。しかし、この『江』という作品は、製作者側にひとかけらの愛も感じられず、浅井三姉妹をはじめとする歴史上のさまざまな人物を一年を通して冒涜し続けるという作業を行ってきたのだ。では何が問題だったのか、くわしく考察してみよう。

最も大きな問題点は脚本家、田淵久美子氏の歴史認識の甘さである。彼女は番組放送前にこのように述べている。「当時の戦国の女性たちが言えなかったことをこのドラマの中で言わせてあげたい」…男たちの影で、子を産む道具として、また人質として、過酷な人生を強いられてきた女性たちの悲痛な叫びを自分のドラマの中で昇華させてあげたい…。そのような思いで発した言葉と信じていた我々視聴者の思いをことごとく裏切り、田淵氏が登場させた戦国の姫たちはなんと「戦国のバブル女たち」だった!

口を開けば「戦は嫌じゃ」。婚儀の話を進めようとすると「好きでもない人と結婚するのですかぁ?」。母親の死後、命を助けてもらった天下人である豊臣秀吉を畏れ多くもサル呼ばわりして、わがまま放題。織田信長の姪、という事実のみで自分は偉いのだと勘違いして、努力もせずに威張り散らす。目もあてられない人物像である。そして天下人である秀吉でさえ、その振る舞いを当然のように許しているのである。普通であれば死罪である。大河ドラマ『独眼竜正宗』における勝新太郎演じる秀吉は、徳川家康はじめ天下の名だたる大大名たちがその一言一句に命を懸けるほどの緊張感を持って接するほど、迂闊に近づけない天下人たるオーラを醸し出していたが、この作品の秀吉は視聴するうちに本当の卑小なサルに見えてきたから不思議である。

浅井三姉妹というのは、幼くして父と弟を叔父である信長に殺され、その後秀吉に母と義理の父を殺され、成人しても姉妹で豊臣方と徳川方に分かれて戦うといった想像を絶する骨肉の争いに巻き込まれながらもたくましく生きていった女性たちである。そのような崇高な女性たちをバブルの生き残りの女のように描いた田淵氏の歴史認識の甘さと不勉強さが、このような悲惨な結果を招いた一番の原因と思われる。彼女自身に歴史に対する尊敬と、浅井三姉妹に対する愛情さえあれば、このような惨憺たる作品は生まれなかったはずである。しかし、彼女は自身のエッセイの中でこう語っている。「歴史を知らないのが私の強み!」

このような認識の脚本家が描く大河ドラマ、みなさんは見る覚悟があるだろうか。怖いものみたさで一度ご覧になるのもよいだろう。新たな世界観に触れることができるかもしれない。

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