「地球へ」は日本漫画が商業主義に走る分岐点だった? - 地球へ…の感想

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地球へ…

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「地球へ」は日本漫画が商業主義に走る分岐点だった?

3.53.5
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.5
演出
3.0

目次

簡潔なのに内容たっぷり、ジョミーの30年を4巻で書ききった名作

本作品は1977年から1980年、「月刊まんが少年」に連載された。

内容は迫害され地球を追われたミュウタントたちが、故郷「地球」を目指す、というものだが、ここではこの作品がいろいろな意味で日本の漫画文化の変遷を表す要素が多い事に着目する。

数十年を経ていまだ読まれているという点で、内容の面白さは言うまでもない事だが、第一項で考察したいのはその簡潔さだ。

主人公の目覚め、成長、絶望的なダメージ、旅、そして最終決戦、と舞台や時間を移しつつ、その上対抗勢力側の視点も平行して書いているのに、読み味がよく、無駄やムラが全く無い。言い換えれば語りたいことが少しもブレていない。

それゆえ、最終話まで一気読みできる長さなのに、ジョミーたちの30年を自分の事のように体験でき、そして素直に感動できるのだ。

「あの設定どこ行ったんだっけ」とか「終わってみればあのキャラはいらなかったね」という部位はほぼ見いだせない。

ここまで無駄肉をそぎ落とし主題を一気に書ききった作品は少なくとも1980年以降にはほとんど見られないのではないだろうか。

(おそらく今連載されれば、10数年連載、20巻構成に十分耐えうる内容だ)

2000年代も面白い作品はたくさんあるが、こういう読み味の作品は何故存在しないのだろうか?

それはこの70年代後半から80年代という時代を考察することで明らかになる。

70年代後半~80年代の背景を語る

80年代以降に漫画に触れた人に最も読んだ少年漫画雑誌は?と聞くと少年ジャンプと答える人が大半ではないだろうか。

ところがちょうど本作が終了する80年ころまで、売上部数のトップは少年チャンピオンだった。

手塚治虫、水島新司、石森章太郎、永井豪、横山光輝ら今では伝説化している作家たちが現役として多数の作品を書いていた時代だ。

実は70年代前半の連載漫画は1年程度で終了するものがほとんどだった。

このころの漫画は連載誌上で読むのが大半で、それをまとめた単行本が発売されないケースもあったので、何年も続けると途中から読みだした読者がついていけない、という時代だったのだ。

これが70年代中盤から日本の景気の向上とか、連載時のみのでなく単行本化して複数回利益を得る、という商業性と連動して書店に漫画コーナーが作られるなど、の動きが加速する。

ちょうどこのころに書かれたのが「地球へ」だ。

つまり背景として、1話完結や長くても単行本1、2巻という短いスパンのものしか書けないという傾向が緩みだし、もっとスケールの大きなものが書きやすい時代にちょうど合致した。とは言え90年代以降のような50巻、100巻を超える作品は無く、それなりにテーマを絞って書かなけばならない制約は存在した。

「地球へ」はこの背景に見事にマッチしており、この時代の制約があってこそ「名作」になった、と言えるかもしれない。

そして前述した80年、少年ジャンプが台頭する。

ジャンプは早い段階から読者アンケートによって順位づけするシステムを作っており、ある意味商業性を強く打ち出したといえる。

このシステムでは「Aというテーマを4年くらいかけて書き込みたい」という方式は取れない。

年単位どころか、人気が無ければ数週で打ち切りになってしまうため、生き残りを考えれば当初書きたかったテーマや世界観を変えるという判断が常に付きまとう。作品としてどうなんだ?と思われる行為が当然のように行われる時代になったのだ。

ファンタジーやギャグとして始まったのに気が付いたらバトル漫画になっている、という例はみなさんも複数御存じだろう。

つまり最初から「地球へ」は生まれないシステムと言って良い。

また、人気があれば無理にでも続ける、とういう方式も推奨されたため、連載が長期化し、部分で見れば面白いが通して読むと、無駄やムラが多く、回収できない伏線はあり、全体の整合性がない、とやはり「作品」としてのまとまりを望むのは難しいシステムと言える。

余談だが、少年ジャンプ掲載作品でこのシステムに負けず、1つのテーマを書ききった作品としては「ヒカルの碁」が随一と私は思っている。連載中に社会現象になるほど人気が出たため長期化しているがそれにも関わらず、全23巻を一気読みして違和感やブレはほとんどない。未読の方は是非ご一読ください。

キャラの多彩化、メディアミックス

短編が多かった70年代前半と比較して、複数のキャラクターを登場させて作品に幅を持たせることが可能になったのも70年代後半の特徴だ。

「地球へ」は無駄が無い、と連呼してきたが、作品の長さのわりに登場キャラクターは多い。

そしてどのキャラにもはっきりした個性や目的があり、それぞれの帰結もきちんと描かれている。

今では当たり前の「どのキャラのファンか」という楽しみ方ができる作品、という意味でもこのころには大きな意味があったのではないだろうか。

また、連載終了からほどなくアニメ映画化されているが、このケースでも、初期の部類に入るらしい。

連載時は商業性の悪影響を受けにくいギリギリの時期に書かれ、連載終了と同時に華やかな商業性に組み込まれて行った、非常に稀有で幸運な作品と言えるかもしれない。

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