汚く、美しい、愛の物語
この漫画に興味を持ったのは、週刊少年ジャンプに掲載されたスーパージャンプの広告だった。
主人公である狂四郎と、ヒロインのユリカが固く抱き合って口づけをしているその絵は、作品の内容を全く知らない私の中の何かを揺さぶるものがあった。
やっと出会えた二人、のようなコピーが書てあっただろうか、もうかなり昔のことなので覚えていない。
私の心を揺さぶったものの正体を知りたくて、本作品を手に取った。
この物語は数多の犠牲の上に成立った、汚く、美しい、愛と懺悔の物語である。
まず、バベンスキーの目を通じて丁寧に描かれた2030年の不条理な世界観に引き込まれた。
どんな悲惨な場面にもギャグを挟んでくる作風のおかげで、悲惨な物語も最後まで読めた。
物語が進むにつれ、狂四郎の狂気に満ちた過去がどんどん明らかになるが、ここまで主人公やヒロインを堕とす作品もあまり無いのではないだろうか。
彼らはその経歴から、自分を弱く・汚い人間だ、と評している。
弱さをさらけ出し、さらに自分の奥底の汚さを知られること恐れ、ドロまみれで、誰かを犠牲にしながら、ただ幸せに向かって突き進む二人。
安住権を認めさせるためにフェンリル(赤子含む)を大量虐殺した狂四郎。
西城に自白させるために体を差し出したユリカ。
目的のためなのか自分の快楽のためなのかだんだん分からなくなるが、それもまたキレイとは言えない。
過去の自分が汚くても幸せになりたい。幸せになるためには汚れてもいい。
しかし、そこまでしてでも成就したい愛は、ただ汚いと言い切れるのか。
結局終盤に抱き合うシーン、つまり本レビューの文頭に書いた「私の心を揺さぶったもの」は、そんな、汚くも美しい愛が成就する瞬間だったのだ。
作者の絵(エフェクト?)は細かすぎて汚いと評されることもあるが、こんな情景を描ける人は他に思い浮かばない。
残念な点としては、ラブシーンが多すぎであること(リアルタイムで追っていた時は「いいからもっと早く進めろよ!」と思った)と、タイムマシンの伏線回収や、その後の二人など、描き切れなかった事が多いことだ。(これは最終巻にあった作者からのメッセージで一応納得した。)
物語が進むにつれ明らかになった「最も狂気に満ちた時代の狂四郎」が、物語冒頭のEDに悩む収賄警官になるまでの間に何があったのか、興味が尽きない。その後の悲喜こもごもの山あり谷ありを考えれば、何も考えなくて良い警官時代はある意味幸せだったのかもしれない。
思い出したくないこと、やり直したいことは誰にだってある。
私自身の人生を顧みても、思い当たることはたくさんある。
だがそれらはどれも今の自分を構成してきた経験であり、今の幸せを手に入れるためには欠けてはいけない必要な道だったのだ。
と思わせてくれる作品だった。
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