ステキな噛み合わせで後味良し
ステキな噛み合わせ
2011年作品。三谷幸喜監督の5作目。公開当初4週連続で週末動員数1位を記録し、この年を代表する大ヒット作になりました。
公開当時は、東日本大震災があって辛い苦しい時期だっただけに、この映画の楽しさと優しさに、皆ことさら喜び魅せられたことと思います。私も当時ありがとう、という思いでとても楽しんで観ました。
当時、三谷作品は、毎回作品を追う毎にどんどんクオリティがあがっているという期待感を持って見ていました。今も「ステキな〜」は大好きだった1作目の「ラジオの時間」に迫る勢いで好きな三谷作品です。その後「清洲会議」でうーん、となり、「ギャラクシー街道」であちゃあ、となるなんて、想像もしてませんでした。でも、誰しも生きていれば色々あるし、第一あんなにも働き過ぎで、どこかで破綻とは言わないまでも、やはり普通に考えてこのペースで高いクオリティのものを生み出し続けるのは、人間離れしてるだろう、といちファンとしては思います。次回作に期待しています(にっこり)
いずれにしても、三谷作品の魅力のひとつには、たくさんの人気スターの華やかな競演というのが分かりやすくあると思うんですけれど、「ステキな〜」ではこれまで同様、「最適な素材で料理したのみならず、色んな要素がバランス良くまとまっている安定感のようなものを感じました。最高のものが噛み合った調和が心地よかったです。
穿った見方かもしれませんが、もちろんまず作品の内容ありきというのが前提ですが、チームワークの良さというか、制作時の高いモチベーションのようなものは、どこかで滲み出て来るものなのではないでしょうか。
この作品で、三谷さんの監督としての力量が増したこと、今回の作品に賭ける動機の力強さと確かさに、関わった人々がとても共感したのだろうということを、映画の端々から感じていただけに、「ギャラクシー街道」は色んな意味で残念でした。座長としての主演俳優のありようというのも、大きいと思う。本作のメインキャスト、深津絵里、阿部寛、中井貴一、西田敏行といった俳優たちは、そういう意味でもすごく良かったんではないでしょうか。
愉快で心を元気にする笑い
・・・と、色々書いたものの、この映画の何がいいって、映画を見た後の後味の良さなのでした。ただただステキな気持ちでにっこりと笑えるということ。
三谷作品の笑いは、ウディ・アレンや、ビリー・ワイルダーといった欧米のコメディ、あるいはシットコムに強い影響を受けていることもあり、いわゆる日本の主流の「お笑い」のありようとは違っています。
今の日本のテレビの中のお笑いって、もうなんていうかほとんど全部がパワーゲームで、どんだけ正確に来たボールを打って返せるかとか、苛める人と苛められる人の残酷な構図とか、非常に寒々しく感じています。
ひな壇芸人の笑いなんかは怖いですね。その場では思わず吹き出してしまっても、気がつくと、そのパワーゲームの緊張感が身体を硬くさせているような感じがあります。笑いからポジティブなパワーをもらえるというよりは、どちらかというとなんか黒いものがお腹に溜まるような・・・そんなネガティブな笑いだと思います。
ダウンタウンの松ちゃんが、「笑いの本質は差別だ。」と以前どこかで言っていて、それは確かに一理あるんでしょう。でも、日本のメーンストリームのお笑いは、何か嫌な日本社会の縮図のようで、げんなりしてしまう時があります。
三谷作品の、滑稽でありながら、登場人物の誰をも観客に好ましく思わせる愛情のある笑いは、トリッキーな愉快さがあり、心を元気にしてくれます。無害でも笑えなければ意味が無いから、良い笑いというのは、なかなか得難いものです。
愛情に溢れたおとぎ話が、今いちばん求められているということを、きっと信じて作られたのだろうし、私も観客のひとりとして、すごく励まされ、元気づけられました。
見えるものだけが全てじゃないんだよということ、ひとりじゃないよということを、こんなに説教臭くなく、チャーミングに見せてくれるなんて、すばらしいなと思います。
三谷作品らしい脚本の巧みさが楽しい
美術など細かい部分まで丁寧に作られている良さ、脇役に至るまでの役者が皆それぞれ魅力がありキャラクターが立っている良さなど、この作品には色んな魅力が ありますが、個人的には三谷作品らしい脚本の巧みさがやはり好きでした。細かい仕掛け、シチュエーションで遊んでいる感じが単純に楽しかったです。
そして中井貴一演じる検事が「実は見えている」という仕掛けがやっぱり何より効いていてます。憎々しいまでに彼なりの筋が通っていて、物語にめりはりを作っ てくれる存在。それでいて二面性のある役どころ、死んでしまった飼い犬との再会のシーンは可笑しいやら泣けるやらでとても可愛らしいシーンでした。 中井貴一以外の主要キャラは、基本みな「天然」全開。トリックを織り交ぜたお話の展開を楽しみつつ、びっくりしたり、深津絵里はじめとする登場人物ひとりひとりの可愛らしさを微笑ましく観る作品だと思います。
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