すぐに引き込まれる、魅力的な世界観
まるで好みの箱庭を覗き見ているようなワクワク感。
鮮やかで細かく、飾っておきたいと思うような表紙に魅かれて手に取ってみたら、
そこは想像を超えた魅力的な世界だった。
森の奥に暮らす、身長9センチのハクメイとミコチ。
二人の容姿からは、和の雰囲気も洋の雰囲気も感じられ、妖精のようにも見えるからか、
なんとなく神話の中の一コマを切り取ってきたようにも思えてくる。
表紙でミコチが背負っているキノコが、彼女らのサイズをリアルに想像させてくれて、
その可愛らしさに、誰もがほんわりとさせられただろう。
もちろん、表紙だけでなく、どこを見てもこの世界観が崩されることはないので、
飽きることなく、どっぷりと彼女らの世界を楽しむことができる。
お話としては、二人の日常を中心として進んでいくのだが、絵を見ているだけでも、ずいぶん楽しい。
まず、第1話の「きのうの茜」、一番最初に見ることのできる二人の部屋の中。
昔遊んだRPGの中に出てくる部屋のようで、あちこち探りたくなる。
棚に置かれている可愛い小箱や椅子の小物なんかは、やはり女の子らしい。
第6話「舟歌の市場」は、見渡す限り宝の山という感じである。
市場が初めてであろうハクメイの好奇心同様、読んでいてもあちこちに目が行ってしまう。
人に揉まれ、でかい魚に、でかいカニらしきものに目を奪われているうちに、こちらも程よく疲れを感じ、
二人がビール(らしきもの)で一息ついている姿を見て、ようやくこちらも、ほっと落ち着くことができる。
そして、その後の海風がなんとも心地よい。
衣装や装飾品にも注目。
背景の細かさはいくら見ても飽きない感じだが、登場人物の衣装やアクセサリーも、魅かれるものばかりである。
ミコチの巫女さんのような着物、ハクメイの魔法使いのようなワンピースは、表紙でカラーのものが見られるのが嬉しい。
その他の人たちも、ほぼ全員がダボッと着飾っていて、皆小さいことを考えるとこれまた、とても愛らしいのである。
又、歌姫コンジュとミコチに贈られた髪飾りも、品があってとても可愛らしい。
ハクメイの仕事着は、革だろうか。きっととても機能性に優れているのだろう。
つなぎの作業着を着て、凛々しく立つ姿は、男の子と間違われても仕方がない。
そして、何といってもミコチが作ったという防寒具。
気に入ったとはいえ、なぜタコと防寒が繋がったかは謎であるが、
雪山を歩いて帰っているシーンは、それのおかげでずいぶんと暖かそうである。
ハクメイの強さ。
どんなことがあっても、常に割と平穏に、楽しく過ごしているハクメイとミコチだが、
そんな二人の、特にハクメイの芯の部分が垣間見れるのは、なんといっても第5話の「仕事の日」だろう。
修理屋をしているハクメイが、風車の修理に取り掛かり、作業を終えて風車を出ようとしたところ、
足場が崩れて危うく命を落としかけるのだが・・・親方のイワシに助けられる。
イワシの優しさは、良き親方らしくもちろん心打たれるのだが、
帰り道で雨に打たれながら、一人悔し涙を流すハクメイは、とても強く、それでいて儚げでグッとくるものがある。
自身の不甲斐なさ、イワシに対する申し訳なさ、そして少なからずあの状況は、怖かったのだろう。
仕事場にはミコチもいない。ミコチの名を口にした瞬間に、何かが緩んだのかもしれない。
こらえきれずにしゃがみ込んでしまう姿に、見ているこちらは言葉を失う。
そして、ずぶ濡れになって帰ると、その帰りを心配して待ってくれているミコチがいる。
何より先に、イワシの草履を直そうとするハクメイに、何より先に、お風呂に入れと指示するミコチ。
ハクメイの強さは、きっとミコチに支えられているものなのだろう。
一度口にしてみたいミコチの料理。
ミコチが料理上手ということもあり、食べ物がよく登場する。
そして、そのどれもがとても魅力的だ。
第4話の「星空とポンカン」でミコチが腕を振るった、野宿での豪華な料理はもちろんだが、
第5話の「仕事の日」で、ミコチがハクメイに持たせたお弁当のサンドイッチが、何よりも美味しそうである。
だが、私の一番のお気に入りは、第1話でハクメイがミネストローネをおかわりするところだ。
ミコチに向けて差し出した、空の木のお椀が、何とも言えない味わいを見せ、
ミコチが作る料理の美味しさを想像させてくれるのである。
あのお椀とスプーンで、ミコチのミネストローネを食べてみたいものである。
きっとどこかにあった世界。
全体的にはファンタジーでありながら、ミコチやハクメイらが小人なだけで、
その他の動物や食べ物などは私たちの身近にあるものばかりである。
昔はこんな風に、人も動物も植物も、協力し合いながら生きていたのだろうか。
いや、昔に限らず、今もちゃんとこういう世界は存在しているが、気付いていないだけなのだろうか。
とはいえ、こんな生活楽しそう!とワクワクし、体験してみたいとは思うものの、実際はそこに入って生活したいのではなく、 そんな生活をしているハクメイやミコチたちを、ちょっと上から覗き見ていたい、というのが本心かもしれない。
なので、こうして本の中で彼女たちが、愉快に、豪快に、のびのびと生きている姿を見られるのが、
お気に入りの箱庭を覗き見ているようで、面白くて仕方がないのである。
時折出てくる、ゴライアスオオツノハナムグリや虫たちの「イイヨー」の声が、
何とも虫らしくて愛らしさを感じ、 余韻を楽しませてくれる。
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