メイド好きのメイド好きによるメイド好きのための漫画 - エマの感想

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エマ

4.004.00
画力
4.50
ストーリー
4.00
キャラクター
3.50
設定
3.50
演出
3.50
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メイド好きのメイド好きによるメイド好きのための漫画

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
3.5

目次

ねっちりした描写を、どうぞご堪能ください

『フェティシズム(英語:fetishism)とは、(中略)性的倒錯や変態性欲の範疇に入る(Wikipedia参照)』

「この人フェチだっ!」これが作品を読んだ時の第一印象でした。だってそうでしょう? 激務で締め切りに追われる漫画家さんが、普通省略するようなフリルやレースや細かい模様を、手描きであそこまでみっちり描くものですか? 束ねた髪やリボンのみならず、コルセットの描き込みに至っては構造までしっかり理解できるくらいなんですよ。う~む、描くことが全く苦にならない人なんだろうなー。むしろここまでやれてしまうと、アシスタントさんなど他人の手が入った途端、全体バランスが崩れてしまう諸刃の剣なんですよね。現に最終章はスケジュールが押していたらしく、作品の肝である衣装の仕上げが浮いているんですよ。

さて、ご自身でもメイド好きを公言されるこの森薫という作家さん、やはり異色の存在です。欧州貴族社会に憧れがあるせいか、日本人に英国は結構な人気ですが、中でもメイドさんは好かれ過ぎて変なイメージついてしまってますね。しかし誇張されたメイドさんが登場する漫画は数あれど、リアルタッチで職業メイドが描かれたのは、この作品が初めてじゃないでしょうか。物語は至ってシンプルで、19世紀末の英国を舞台に可愛いメイドさんと有産階級の青年が、身分違いの垣根を乗り越えて結ばれるという、超王道ロマンス小説風なのですが。

この作品はストーリーよりも人物の衣装や所作、しっかり再現された19世紀英国の風俗などを楽しんでましたね。布の質感まで緻密に表現された衣装や、しっかりしたデッサン力に基づいて、コマ送りのように描かれたなに気ない動作までが美しい。そーかそーか、そんなにエプロンドレスやメイドキャップ描くの好きですか。もし時間と要請があれば、パラパラ漫画が出来るレベルで描き尽くしてくれるんじゃないかしら。

顔の造形は童顔ながら、ボディラインはリアルでとても肉感的。どうやらヌードを描くのもお好きらしい。う~ん、失礼ながらこの作家さん、男性だったら変態と後ろ指さされてますよ(^-^;) 小説・漫画などの作家さんは、例えるなら自分の描く作品世界において神なる存在。生み出すキャラクターをいかようにも弄れるワケですが、それを踏まえていかに『エマ』の作者さんが変態入ってるかという目線で考察してみましょうかしら。

神様(作者)に翻弄されるメイドさん

まずは神様(森薫氏)によって、主人公のエマさんは貧困層に生まれ育つという境遇に置かれました。両親はなく、少女時代を貧しい親族宅で虐待に近い待遇を受けさせるに飽き足らず、人買いに攫われるという不幸までも体験させられます。危うく逃げ延びたものの、いたいけな少女に次に与えられた試練は浮浪生活でした。奇跡的に犯罪に手を染めることなく生き延びた少女に、今度はやっと救いの手が差し伸べられます。

老婦人ケリー・ストウナーに拾われ、メイド仕事のみならず一通りの教育を施された少女は、教養のある有能なメイドにスキルアップします。この辺は源氏物語かマイ・フェア・レディか、sukebeオヤジの如く無垢な少女を自分好みに育成したうえで、神様はこともあろうにメガネまで掛けさせてしまいます。こうして、容姿端麗・有能・謙虚・メガネという4大エレメントを付加された(違う)完全無欠メイドのエマさんが完成したのでした。

それからのエマさんの快進撃は留まるところを知りません。手始めにストウナー夫人のカテキョ時代の生徒ウィリアム・ジョーンズ氏をコロリと落とし、物語は「身分違いの恋」という、王道かつ大変個人的趣味の入った展開へと導かれます。いいですねぇ~、それから先の艱難辛苦はデュ・モーリアの「レベッカ」か、はたまたE・ブロンテの「ジェーン・エア」ばりなんですよ。

ストウナー夫人から暖かく見守られる中、若い二人の情熱は静かに燃え上がります。しかし貧困層に生まれた女性が玉の輿に乗るなんて可能だったんでしょうか。お屋敷の旦那や令息が、使用人に手を付けるような例は多々あったでしょうが、でもそこは漫画です。あくまでウィリアム坊ちゃんは真面目で一途でしかも天然。ただやはり時代は二人に厳しくて、家族や友人の反対に遭うわけですが。

病がちだった主人を亡くし、坊ちゃんの前からも姿を消したエマさんは、運よくドイツ人貿易商のお屋敷に雇われます。屋敷の奥様に気に入られ、坊ちゃんとの劇的再会まではある意味予想通り。そんなエマさんの前に最大の難関が立ちはだかります。なんと坊ちゃんの元婚約者のお父上により、彼女は攫われてアメリカへ連れ去られます。さすがにこれは貞操の危機!かと思いましたが、神様はそこまで非道ではありません、すぐに坊ちゃんが救出にはせ参じてくれましたよ(ああよかった)。

いやー、ここま書いても本当に堂々としたロマンスものですね。大いに違うのは、作中におけるたいへん変態チックなアングルでの執拗な描写です。メイドさんのお掃除シーンでは手先の動かし方までねっちねっちと描き出され、女性のうなじはクローズアップ。衣装の裾からはレースのドロワーズをチラリと見せることも忘れていません。階段の昇降で奥ゆかしくスカートはつまみ上げられ、長く豊かな女性の髪は麗しく結い上げられます。

驚くべきは連載途中まで渡英経験がなかった上での描写力。さぞかし資料を集められたことでしょうが、ハッタリでここまで英国の雰囲気を出していたのか森薫、恐ろしい人(・_・;) その後作品のヒットのご褒美か、念願の渡英が叶ったそうです。よかったですね。

とにかく漫画からほとばしるこの妄執パワー、本当に大好きなことをやってることが伝わります。

森薫(敬称略)更なる進化へ

エマさんは作者から下された指令を見事コンプリート、無事苦難を乗り越え、ウィリアム坊ちゃんとの結婚式で物語は締められます。いやー、メイドしか描けないと豪語されるだけあって見事な英国メイド漫画でした。勢い余ってヴィクトリア朝時代のガイドブックまで出される程でしたが、それもしっかりゲットしてしまいましたよ。やはり細かく図解されるととても解りやすい。

さて、森氏の商業誌でのデビュー第1作は大成功のうちに完結し、次回作ではどんなメイドを描いてくれるかと心待ちにしていたものですが……『乙嫁語り』ん?中央アジアを舞台にした遊牧民? 夫は12歳で花嫁は20歳………お巡りさ~んっ!!

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