今も新鮮なボーイミーツガールの物語 - アニー・ホールの感想

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今も新鮮なボーイミーツガールの物語

5.05.0
映像
4.8
脚本
5.0
キャスト
4.8
音楽
3.5
演出
5.0

目次

ウディ・アレンが最も脂が乗っていた時に作られた名作

80歳を過ぎてなお、1年に1本という驚異的なペースでクオリティの高い映画を作り続けてきたウディ・アレン。好みはあれど、どの作品も一定以上のクオリティが保証されており、素晴らしい映画をいつも届けてくれることには、驚嘆の念を禁じ得ません。色んなことを彼の映画から学んだなあ。私にとっては、学校の先生なんかよりはよっぽど恩師と呼ぶに相応しい人かもしれません。

それでもここ15年ほどはなまじ年に1本発表するだけに、ウディ作品を見る事はある種のルーティーンというか、自分の中でまるで恒例行事のようなことになっており、「今年も元気で生きてくれて、映画を作ってくれてありがとう」という感謝の思いを胸に映画館に足を運んでいる、といった心持ちであります。そして見た後は、「あーあそこが良かったなあ、あすこはいまいちだったなあ」などと反芻しつつ、毎回ほくほくとした気持ちでしばらく嬉しい気持ちで過ごしています。

そんな風に毎回新作を見続けていたのですが、今回久々に「アニー・ホール」を見返してみました。気がつけば10年ぶりくらいかもしれない。

それで、始まってから終わりまで、うわあ・・・と胸がいっぱいになりながら見ました。どんな映画監督にも、ひいてはどんな人においても、気力や体力や創造力のピークというものは多かれ少なかれあると思います。

94分という時間のなんと短く濃密だったこと。全く出し惜しみなく、隅々までフレッシュなアイデアが生き生きとはじけていて、枠にはまらず、正直で、切実で、とてもスタイリッシュで愛おしい。やはり「アニー・ホール」はウディ・アレンが最も気力体力が充実していた時代のすごい作品だったのだな、と改めてそのパワーのようなものに圧倒されつつ感じ入りました。

フェリーニやベルイマンをはじめとした巨匠たちへの敬意、オマージュに溢れているけれど、今見てもこんなに古さを感じないというのは、やはり優れてオリジナルな作品であるがゆえなのだと思います。

今も新鮮なボーイミーツガールの物語

1977年製作。およそ40年前の映画なのだと、改めて驚かされます。そして、冒頭のウディ演じるアルビーの独白のシーン、出し抜けにカメラに向かって観客に直接語りかけるやり方や、まるで人間の頭の中の思考のように、あるキーワードで連想が膨らむままに時制もめちゃくちゃに行きつ戻りつする構成など、今もなお多くの映画がこのマスターピースの影響下にあることを実感します。長回しや、ゴードン・ウィリスによる陰影の濃い撮影なども、それがオリジナルであるが故にただただ心地よく、ぐっと入り込んで見ました。

ウディ・アレンのユーモアの感覚はとても知的ですので、初めて見た若い時には色々理解できないところが多かったけれど、こんだけ年を重ねてまた見ると、実に沁みるというかペーソスに溢れているし、いちいちしつこくおおげさに皮肉るアルビーの偏屈さと率直さがなんて可愛らしいんだろうと思えたり。でも政治ネタなんかは、やっぱり相変わらず分からないところもありました。最近のウディ作品ではあまりそういう難しさはないのでなんだか忘れていたけれど、この頃の作品では観る側の知的センスを試されるような部分も少なからずあります。

しかし、やはり何よりこの映画がボーイミーツガールのお話として、妙ちきりんでファニーでありながら、同時に誰もが身につまされ、胸が痛むような普遍性を備えているということの素晴らしさを思います。恋の出会いから別れまで。恋の輝きと、馬鹿馬鹿しさと、うんざりと打算と、けれど最後にきらりと残る美しいものがここにはぎゅっと詰まっていて、なんて素敵で切ないんだろうと思います。若くて自由な身分の間には、できるだけ心のままにたくさん良い恋をしたほうがいいよね、とこの映画を見たらすごーく痛感します。

恋って、滑稽でも、こんな風に人と人とが近しくリラックスしてくっつくことができて、頭でコントロールできなくて思うようにならなくて、だめになったりすることも含めて、なんてかけがえのないすばらしい経験なんだろうな、とこの映画を見ていると思えるのです。本当に。

人生の折々に見返す価値のある映画

それから、40年前のダイアン・キートン演じるアニー・ホールのマニッシュな出で立ちは、衣装ではなくダイアンの私物も多かったようですけれど、何度見てもはっとするほどチャーミングだったことはやはり忘れ難いですね。ニューヨークの町も同様で、やはりウディ・アレンと言えばニューヨークだと誰もが言う、その通りで。

自身もクラリネット奏者であるウディ・アレンは、熱心なジャズファンであり、作品のサウンドトラックには多くの古いジャズが使われていますが、「アニー・ホール」は音楽の少ない映画で、最も印象に残るのは歌手志望のアニーが歌っている「Seems like old times」です。上手いというのではないんだけど、ムードがあって、何よりアニーらしさが魅力的で心に残ります。

そしてオープニングとエンドロールは無音です。ウディ作品ではタイトルはいつも全く同じで(それもいつもしみじみと嬉しいポイントでです)、でも音楽は様々ですが、無音の作品もしばしばあります。潔くて好きです。

久々の「アニー・ホール」堪能しました。色んな年代で、自分の人生込みで見返す価値のある映画だと思います。


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